05
私がまだ大阪にいた頃、隣の家には仕事で忙しい両親と幼い兄妹が住んでいて。
おじさんたちに変わって良くその子たちの面倒を見ていた私は特に上の子に凄く懐かれた。
私が引っ越す事になったと知った時には大泣きされたなあ…。
確か、その男の子の名は…
「ユア姉…ッ!!」
「健斗…君…?」
私がそう呟いた瞬間、健斗君の手から買物袋がドサリと落ちた。
中身が、なんて思う暇なく、私は自分よりも遥かに大きくなった幼馴染みの少年に抱き締められていた。
「ユア姉や!!
本物のユア姉や!!」
「ちょっ、健斗君、」
「会いたかった…!!」
またすぐに遊びに来ると言ったのに、学校や仕事が忙しくて一度も会いに行けなかった。
幼かった彼に寂しい思いをさせてしまっただろうか。
「健斗君、とりあえず離れようか…
ここアパートも近いし、他の住んでる人に見られたら変な誤解されちゃうよ」
渋々といった風に健斗君が私を放す。
思い出したように、買物袋を拾った。
「ごめんユア姉!!
俺また荷物…!!」
「良いよ大丈夫。
卵は元々割れてたし、瓶とか割れそうな物は入ってないから」
しゅんと項垂れた彼の頭に、犬の耳の幻覚が見えた、気がした。
そして私は、こういうタイプに弱い。
「あー…時間あるならうちおいで。
お茶位なら出せるし」
幻覚の尻尾がパタパタ振られた。
「――――…おん、ユア姉が帰って来てん。
話したい事もあるし、ちょっとだけ遅くなるわ」
健斗君が家に連絡している間に、私は夕食に準備。
割れてしまった卵の処理で、暫くは卵料理が続きそうだ。
「ユア姉」
「おばさんたちへの電話終わった?」
「うん。
明日土曜で学校も休みやし、部活も昼からやから迷惑かけん程度にゆっくりして来ぃやって。
電話とか良かったんに」
「おばさんたち心配するでしょ。
ほら、もうすぐ出来るよ。
そこのお皿取って。2枚ね」
「ん、これ?」
「そうそう、ありがとう。
けど、健斗君大きくなったねぇ。
まあ、7年たてば当たり前か」
「…ユア姉も変わったな」
「そう?」
「何か、大人になった。
関西弁も抜けとるし、俺の事昔は呼び捨てやったのに、今は健斗君呼びやし」
健斗君の目が、子供扱いするなと訴える。
けれど、仕方ないのだ。
昔の健斗君は正に子供で。
髪も黒かったのに金髪になっているから、健斗君じゃないみたいで。
「…あんまり覚えてないや。
さ、運んで運んで。
結構上手くいったでしょ」
まるで知らない人のようで、怖かった。