八
神護達の一撃を受けたオメテル等は思いのほかダメージが大きくすぐには立ち上がることが出来なかった。
それを嘲笑するかのように神護はオメテルたちを見下ろしながら言う。
「おい。どうした? これで終わりか? だとしたら失望するぞ」
「なめてるんじぇねえぞ!ガキがあああああ!!」
オメテル蟀谷に血管を浮かばせながら、跳ね上がった勢いをそのままに神護の顎を蹴り上げてきた。
「っが!!」
神護はそのまま空中へと放り出され、剣魔はテスカトによって足を掴まれそのまま投げ飛ばされる。
オメテルはすかさず神護の頭上へと移動し次撃への体制に入っていた。
神護は振りかざされたオメテルの拳を体を捻り足で受け止めた。
「無駄無駄!」
「このガキァ!!」
オメテルは目を細めて神護を睨んできた。
けれど神護はその表情に思わず笑みがこぼれてしまった。
神護は退屈していた、普通の生活に。
何をするにも退屈していた。
小さいころから一度教えられたことはすぐに完璧にできてしまう。それがたまらなく嫌だった。
故に神護と対等に渡り合える存在がいなかった。もちろん夏星や亜美、剣魔だって優秀だ。
だが神護よりは数歩劣ってしまっていた。
皆とやることが面白くないわけじゃなかった。だが楽しくなかった。
皆といることが楽しくないわけじゃなかった。ただ面白くなかった。
けれど今は違う心の底から思う。この非現実的な出来事が面白いと。
自身と対等以上に渡り合える存在と戦うことが楽しいと。
だからにやけが止まらない。
世界の運命がかかっているというのに自分の欲望が、感情が抑えられない。
「〈太陽龍の炎鎌〉」
神護は灼熱の炎の鎌を龍力で作り上げオメテルに向かって振りおろした。
「なめるな! 〈ライトセイバー〉!!」
オメテルは光の刃を作り炎の鎌を受け止める。
けれど鎌自体の勢いは殺せたが龍力自体は止められず、神力の余波で直下の地面は火の海となった。
「「はあああぁぁぁ!!」」
二人の力は互角で拮抗状態にもつれ込む。
だがすぐにそれも崩れる。なぜなら――
「っ!! っち、気付かれたか」
何かを感じたのか、オメテルは慎吾の攻撃からすり抜け、距離を取ったのだ。
「? どうした、もう終わりか?」
「ああ、終わりだ。時間切れ……」
意味不明な言葉を発するオメテルを神護は険しい表情で見据えていた。
「そんな顔しないでくれよ……。こっちにもいろいろ都合があってね」
焦りと怯えを含んだオメテルの言葉に神護は疑問を覚える。
これほどの力を持った奴らが何に怯えるのかと。
「やばいな……。テスカト!!」
呆れ声でそういった後に剣魔と戦っているテスカトを自身の元へ呼び寄せた。
「モウ イイノカ?」
「ああ。時間切れだ。」
テスカトは剣魔を殴り飛ばし壁に叩き付けると即座にオメテルのもとへとやって来た。
「……ワカッタ」
二人は他にも何やら話していたようだったがそれが神護達の耳に届くことはなかった。
二人話し終えると各自自身の前に手を何かを包むように出し、その中に黒い塊と白い塊を作りだした。
神護はそれを凝視しながら立ち上がった。
自分でもそんな悠長なことをしている場合じゃないと理解しているつもりだった。
あの塊は危険だすぐにでも壊さないといけないものだってことは……
でも足が重くて動こうとしない。前に一歩も進んでくれない。
二人は上からその無様な様子を見下していた。なんて哀れなものだ、と言いたげな目をしている。
そう神護は感じ取っていた。
「「世界解体」」
二人は手元にある塊を合掌しつぶす。刹那、周りに亀裂が入った。
そのままの意味で周りの物すべてに空間そのものに亀裂が走る。そしてそれはすべてガラスのように砕け散った。
気が付くと何もない白と黒が永遠と続く場所に立っていた。
残されたのは神護と剣魔だけ。
オメテルやテスカト、夏星達の姿は見当たらない。
ただ神護たち二人だけが存在している。世界にはこの二人しか最初からいなかったかのように。
* * *
いつものように目覚ましで起きた。
何気ない普通の朝だった。
家族で朝食をとり、幼馴染たちと学校に行く。普段通りの変わらない一日の始まり。そう思っていた。
そしていつも通りに一日が終わると思っていた。
けれど終わったのは世界だった。
この日初めて知った。
『世界はこんなにも脆く、壊れやすいものだったなんて』
世界はガラスのように砕け散った。
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