六
剣魔とテスカトの拳が何回も重なりあう。
力は均衡している。このままいけばもしかしたら自分は勝てるかもしれない。
そんな慢心が剣魔の中にあった。
けれど拳が重なりあう度剣魔はどんどん押されてゆく。
「くっ……!」
剣魔は消して手を抜いているわけではない。
一気に方を付けようと全力で倒しにかかっている。しかしそれ以上にテスカトの力は剣魔の想定以上のもので徐々力の差を痛感させられる。
それでも諦めずに剣魔は拳を振るい続ける。
「〈炎影斬〉!!」
剣魔は二つの属性、『闇』と『炎』を混ぜ手刀を振るい、黒い炎の斬撃を飛ばした。
斬撃は真っ直ぐテスカトに飛んでいく。が、テスカトはそれを軽々と素手で掴み握り潰す。
「……なっ……に……」
剣魔は驚きというよりは恐怖が隠せなかった。
龍戦士として覚醒した自分がこうも易々と圧倒されるとは微塵も思っていなかったからだ。
「……コノ 程度カ。モウ 終ワリニ シテヤル」
テスカトは掌を空に向け魔力を溜め始めた。
「バイバイ……」
テスカトは見下すような瞳で剣魔を見据え言い放った。
「〈ノワールインパクト〉」
テスカトの頭上で集束した魔力が黒い球体となり飛んできた。
「嘘だろ!!」
剣魔は直感で理解した。この攻撃を喰らえば無事ではすまないということを…
剣魔は黒い球体に背を向け避けようと逃げた。
だが球体が迫ってくるスピードが予想よりも早く今にも剣魔を呑み込みそうな距離まで近づいてきた。
「くそっ! 一か八か――!」
剣魔は何かをする覚悟を決めた。
剣魔は体内に魔力を集中させ、体表には白い衣のようなものを纏った。
「〈光龍脚〉」
剣魔は移動速度を飛躍的に上げ回避する。そして黒い球体はそのまま一直線に飛んでいった。
飛んでいった先には別に白い球体がなにか目掛けて降っていくのが見え、黒い球体はその白い球体にそのまま突っ込んでいき二つの球体はぶつかり巨大な爆発となり相殺された……
* * *
(畜生!! 体が全く動かねえ……)
オメテルから放たれた白い球体は勢いを殺すことなく迫ってくる。
「おいおい、どうしたんだい? 逃げないと本当に死んじゃうよ~ あっははは!」
オメテルは神護を見下しながら、甲高い声をあげ不敵に笑っている。しかし、オメテルは視界の端に何かを捉えると怒気の含まれた表情へと変貌した。
オメテルは目線の先には神護にというよりオメテルの〈流星の光球〉目掛けて飛んでくる黒い塊があった。
「あの馬鹿……!」
オメテルは呟いた。
そして飛んできた黒い塊は神護に迫ってくる白い塊はとぶつかり巨大な爆発を引き起こした。
辺り一帯が吹き飛び、神護は倒壊したビルの一部が壁となり少し食い込んだ。
「な、何だったんだ今のは?」
壁から剥がれるようにして倒れた神護は地に膝をつく。
何が起きたのかはよく理解出来なかった。けれども命拾いしたのは確かだった。
「ともあれ助かった」
神護はまだダメージは残っているものの立てる程度には回復していた。
ビルの瓦礫に手をかけ立ち上がった。
と同時にオメテルが物静かな足取りで少し離れた所に降りてきた。
「良かったね。命拾いできて……」
オメテルは不服そうな顔で言ってきた。
予想外の邪魔が入り神護を殺せなかったことが悔しいのだろう。
そして一人の男がオメテルの横へ降り立ち、オメテルはその男を睨み付け怒気を含んだ声で尋ねる。
「おい……どういうつもりだ?」
神護は降りてきた男に見覚えがあった。
テスカトだ。
(でも待てよ…なんでこいつはここに居るんだ?
剣魔と闘っているはずじゃ―― まさか負けたのか?)
神護はテスカトがここにいるという状況に焦りを感じる。
「別ニ オマエ ノ 攻撃 ヲ 止メタカッタ ワケジャ ナイ。 敵ガ オレノ コウゲキ ヲ 避ケ、 ソレガ オマエノ ニ アタッタ」
テスカトはオメテルの質問に返答をした。
その答えにオメテルは不服そうな顔を小さな舌打ちをした後にテスカトから顔を逸す。
オメテルのイラつきは神護まで伝わってくる。けれど神護は今のテスカトの答弁を聞き安心した。
攻撃を避けたということは剣魔は生きているということだ。そのことにただ只管安心する。
だが喜びも束の間。神護は今のこの状況が極めて自分に劣勢であることに気付いた。
今目の前にいる敵は二人に増えたのだから。
オメテル達もその事に気付いている。
二人で速やかに片付けようと殺気立たせている。
「2対1だね。どうする?大人しく死ぬか僅かでも抵抗して無様に死ぬか選んでいいよ」
オメテルはもう勝った気でいるがこの状況下では誰でもそう思うだろう。
(まずいな……確実にこれは終わりだ)
神護はもう絶念してしまおうかと思い天を仰いだ。
すると上空から一人、此方へ突っ込んでくる人影があった。
そいつは勢いを殺すことなくそのまま、いや逆に加速しながら突っ込んでくる。
「おいおい嘘だろ!」
避けようとしたときにはすでに遅く互いに頭突きをするような形になった。
「「……い゛っでーー!! 」」
落ちてきた奴はそのまま地面に倒れ込み、俺は蹣跚とした足取りでなんとか立っていた。
そのようすには流石の敵二人も驚いて――いや呆れていた。
「なにしてんだよ!! 剣魔!」
猛スピードで落ちてきたのは剣魔だった。
「いやーあはは。テスカトの攻撃を避けるのがギリギリで勢い余ちゃって止まらなくなったんだよ……」
「まあ無事で何よりだし、それにグッドタイミングだ!」
神護は朗笑しながらどんくさいことを言っている剣魔の手を掴み引き起こしながらオメテルたちを見た。
「さあこれで2対2だ! 続きといこうじゃないか……」
「まだそんな度胸があったんだね。だったら……てめぇらに実力の差を思い知らせてやる」
壊れた建物から鉄骨が崩れ落ちたのを皮切りに4人は一斉に地を蹴り決着をつけにかかった。