五
「テスカトオオーー」
剣魔は怒号を挙げながらテスカトに向かって突進していった。
神護がオメテルを殴り飛ばしたのと同時に剣魔は神護とは別方向にテスカトを蹴り飛ばし亜美達に被害が及ばないところまで飛んでいったのを確認しテスカトを追いかけた。
蹴り飛ばした方向にはまだ無事な建物がいくつもあったがそんなのは気のしなかった。
(どうせ負けたら死ぬんだ。だったら勝つためには多少の犠牲はいいだろう)
この際の非情は仕方がない。剣魔は内心そう思いテスカトを探す。けれどいくら探してもテスカトの姿は見当たらなかった。
「どこに行った?」
するとなんの前触れもなく上頭を掴まれ顔を地面に叩きつけられた。
「っが!」
叩きつけられた勢いで周囲の地面が陥没する。剣魔は痛みをこらえ目を横に回し頭を押さえつけている奴の顔を見た。
勿論見当はついていた。テスカトだ。
剣魔は無理やり体を捻り振りテスカトを払い除け、振り払われたテスカトはそのまま後ろに飛び退いた。
「オマエ 今ノ 攻撃 食ラッテ 生キテル スゴイ」
剣魔たちの目の前に現れてからはじめてテスカトは口を開いた。
もっともその言葉はとてもカタコトだった。少々聞き取りにくいものだった。
「デモ オマエ 弱イ。 ダカラ スグ 殺セル」
急にテスカトから殺意が溢れたし剣魔を威圧する。
「……っ!!」
剣魔が急変したテスカトの雰囲気にのまれ一瞬だけ硬直したその瞬間を逃さずテスカトの姿は剣魔の視界から消え――
「ごふっ!」
剣魔はテスカトから腹部に重い一撃を食らい吐血する。
「モウイッパツ イクゾ!」
息つく暇もなく剣魔の腹にもう一撃叩き込まれる。
その瞬間剣魔の足から地面の感触が消え、勢いよく壁に叩き付けられそのまま地面に倒れる。
「オマエ 本気 出シテナイ。 何故 出サナイ?」
いつの間にか目の前に移動してきたテスカトは剣魔に問いかける。
その質問に怒りを覚えた剣魔はテスカトに向かって蹴りを振るも躱され距離を取られる。
「ふざけんなよ!僕は本気だ!」
その言葉にテスカトは疑心を抱き、首を傾げた。
「オマエ 戦士 ジャ ナイノカ?」
言うとテスカトは剣魔をじっと細目で見据えた。
「……ナルホド。 オマエ マダ 戦士 ト シテ 不完全。ダカラ 弱イ」
(不完全……? そういや覚醒してたしか龍の力を解放するとかなんとかってアダムスの奴も言ってたな……でもどうやったら覚醒できるんだ?)
そんなことを考えていると再びテスカトが目の前に詰めてき、攻撃をするわけでもなく口を開き——
「オマエ ヨワイ ダカラ カクセイ テツダウ!」
「……はあ?」
剣魔は言葉の趣旨が理解できずに剣魔は変な声をあげてしまった。
「な、何故だ?」
実際のとこ剣魔にとってはとてもとても有り難い話だ。けれどなぜテスカトを倒すための力を敵自身から与えてくれるというのだ。
普通に考えてみればいい話だ。いい話なのだが剣魔はコイツを信用できない。
剣魔の敵は剣魔の両親の命を奪った奴だ。そんなヤツの誘いに『ありがとう。じゃあお願いします』なんて素直に頼めるわけがない。
「オマエ ガ 弱スギ テ コチラ ニ モ ツゴウガ ワルイ カラ ダ」
「都合? どういうことだ?」
テスカトの説明には詳細が掛けておりいまいち容量を得ない。
「キサマ ガ 知ル 必要 ハ ナイ」
「なら必要ない」
「ソウカ ジャア 無理矢理 ニデモ 覚醒 サセテ ヤル。……ソウダナ サッキ イタ 奴等 デモ 殺ス カ」
「何を言って――」
「 聞コエ ナカッタ ノカ? 無理矢理 覚醒 サセル タメ ニ アイツラ ヲ 殺シテ クル」
最初とは少し違ったが2回聞いて剣魔は意図をはっきりと理解した。
テスカトはは誰かを殺してを覚醒させようとしている。
殺すことで剣魔の何らかの言動が引き金となり、覚醒に至ると思っているのだ。
だがアイツら以外の他人ならどうでもいい。殺しても自分にはなんの関係もない。
剣魔は心の中でそう言い聞かせた。
何故言い聞かすのか?
そんなのは決まっている。
剣魔自身テスカトが差した三人称が誰なのかすでに分かっているからだ。
「だ、誰を殺すんだ?」
恐る恐る尋ねる。
悪い予感はしている。だからこそ当たらないで欲しいと願って……
「サッキ 一緒ニ 居タ 奴ラ」
その言葉を発した瞬間剣魔はテスカトの顔面を殴り壁に向かってブッ飛ばした。
「もしアイツらに手を出して見ろ!僕がお前を殺す!」
殺意と憎悪に満ちた瞳がテスカトを映し憤怒を体現させた表情で睨む。
すると剣魔から魔力があふれ出し周りを無数の竜が取り巻く。そして竜は次々と剣魔の中に入っていく。
髪が紫色に変わりまわににあった瓦礫の破片が一気に吹き飛んだ。
剣魔は自身の内から溢れ出る力に表情が少しニヤケた。
「さあ、かかってこい! 捻りつぶしてやる」
「スゴイ ココマデ アガル ノカ! イイダロウ 不足 ナシ ダ!」
二人はこの瞬間互いに不敵で不気味な笑顔をつくり、地面を蹴った。
「最初から本気だぜ!」
「来イ!」
二人の拳と拳が重なり振動が大地を揺らす。