四
神護はオメテルを夏星たちを巻き込まないようなところまで殴り飛ばす。
オメテルはいくつかの建物の残骸を突き抜けそのまま地面に叩き付けられる。透かさず神護はそのあとを追いかける。
この時神護は周りの被害などは気にしていられなかった。いや正確に言うと気にする必要がなかった。
なぜなら人どころか生き物一匹存在していなかったからだ。
(……おかしい。死体ならともかく人の気配が全くしないのはどういうことだ?)
神護は辺りを見回しながらをオメテルが束されてきたはずの場所に来た。が、オメテルの姿はどこにもない。
「どこ行きやがった?」
再度辺りを見回したがやはりオメテルの姿は見えない。
「こっちだよ」
背後から不気味な声が聞こえたときには既に遅く即座に振り向き間合いを取ろうとしたが、無駄だった。
ガシッ!といかにもな効果音が付きそうな勢いで顔面を鷲掴みにされてしまった。掴んでいる手を振りほどこうとしたがびくともしない。
「無駄だよ。君の力じゃ……諦めな」
神護は掴まれている指の隙間から見えたオメテルの姿に驚いた。
それもそのはず。オメテルの体にはかすり傷一つついていなかったのだ
(嘘だろ!本気で殴ったのに……)
「さっきのがまさか本気だったの? だったら尚更無理だよ勝率は1%もないよ」
「くっ!」
「『やってみなくちゃわからないだろ』って目だな。分かったよ……やってみようか」
するとオメテルは神護の顔から手をスっと離し、にこやかにゆるりと後ろに下がった。
神護は透かさず間合いを取り、ひと呼吸おき再びオメテルに殴りかかる。
神護はフェイントを掛けながら様々な方向から拳を振るい所々に蹴りも混ぜる。
けれど全て尽くかわされ両手で両腕を掴まれ膝を腹に叩き込まれ吐血した。
「そういえば言ってなかったな。俺たちがここに来た理由」
「ゲホッ……ゴホッ……なんだよ急に……」
神護は器官から一気に吐き出された空気と血で咳き込み、口から零れ落ちた血を手で拭うとオメテルを見据えた。
「簡単に言うとこの世界を破壊しに来たってとこだね。……意味がわからないって顔だね。
いいよ君は別にわからなくて」
「ちょっと待て! そんな意味の分らない理由で大勢の人や俺たちの両親を殺したっていうのか?」
「……両親? 何を言っているのさ? いつ僕たちが君たちの親を殺したんだい?」
「っ! ふざけるな! さっきお前たちが壊した家にいた人たちだ!」
「だから意味がわから――……なるほどそういうことか……。ククッ、アハハハハハ――」
「何がおかしい!」
「ん?ああ、なんでもない……いや、あるか。
おい、君。神護とか言ったか。 僕らの仲間にならないか? いやなれ!」
……は? 仲間にならないか? 何を言っているんだ?
「ふざけるなよ!あんなに人を殺しておいて仲間になれだぁ?
そんなの『はいわかりました』なんていうわけないだろ!
親の敵と仲間になるくらいならこんな世界壊れてしまえばいいんだ!」
「……なるほど。まあ尤もだね。でも、それじゃあ仕方がないね。君たちもさっきいた彼女たちも含めて皆殺しだ!」
その言葉を聞いたとき神護の中でから沸々と何かが沸くように込み上げてきた。
夏星達が死んでしまうという事が神護にとっては両親を失った今最後の家族を失うも同然だ。
「それだけは……絶対に……させるかー!!」
それはまるで獣の雄叫びのようであった。
大地は揺れ、海は荒れ、大気が唸る
無数の小さな竜が神護の周り取り巻き、そして体へと流れ込んでいく。
その影響か、髪の色がオレンジに変化した。誰もが見とれるほど美しい鮮やかなオレンジに――
「なっ! まさか覚醒したのぐぁっ?!」
オメテルが神護の変化に戸惑いを見せた隙を見逃さず神護は一瞬でオメテルの前に移動し、地面に殴り落とした。叩き付けられた地面にはクレーターのような穴が空いた。
しかしオメテルは何事もなかったかのように穴から出てきてもとの位置まで戻って来る。
「くくっ。あっはっはっは! これ程とは……正直驚いたよ。こんなにも龍力や身体能力が上がるなんて」
オメテルは高らかに甲高い声で笑い声をあげそのまま神護に不気味な笑みを向けた。
「その余裕すぐになくしてやるよ!」
「やってみろよ!」
オメテルの上からの言葉には挑発の意も込められていた。
「はぁ~~!!」
神護は右手に火の属性の龍力を込めた。
「行くぞ!! <龍炎> 」
拳を突き出すとそこから炎の龍がオメテル目掛けて飛んでいった。
その攻撃に対してオメテルは少し動揺をみせた。危険と判断したのだろう……
「こんなもの!」
オメテルは避けようとしたが龍は追いかけてくる
「くそっ!」
避けれないと判断したオメテルは手から同等の龍力の塊を放ちで相殺した。そしてその影響で爆発し、その煙がオメテルを飲み込む。
神護はそれを利用してオメテルの頭上に移動し、追撃を加える。
「 <龍水弾> 」
両手を前に構え水の属性の龍力を込め、水の龍を放出した。
オメテルは防御態勢を取り、そのまま地面に叩きつけられた。神護は相手に休む間を与えまいと次の攻撃に移った
「 <龍電蹴> 」
上空から雷をまとった踵落としを食らわせてオメテルの体を跳ねさせ、
「 <竜巻> 」
風をまとった蹴りで再び宙に蹴りあげた。
「これで終わりだ! <地木龍> 」
両手を地面に叩きつけ地面から木の龍を呼び出しオメテル目掛けて放った。
龍はオメテルを補食物を見つけた獣のように次々襲っていった。
もしこんな光景を見た人はこう思うだろう。漫画の世界に迷い混んだか、或いはこの異様で奇怪で驚嘆するような光景を受け入れ『化け物』同士の仲間割れだと……
あるいはこう思うだろう。神様の祟りだだの悪魔の悪戯だの。
そして皆は必ずこう思うはず――
『世界の終わりだ』
だがそんなことはどうでもいい。オメテルを殺すことができる。
神護にとってはそれだけでいい。親の仇を打ち、夏星達守ることさえできれば世界から忌み嫌われようが軽蔑されようが神護にとってはどうでもよかった……
たとえ壊れてしまおうが——
五属性全力の龍術を叩き込みこれで終わったと思った。が、神護は見えた。奴が、オメテルが最後の瞬間、技を喰らいながら微笑んだところが……
その瞬間オメテルを襲っていた『地木龍』は弾き飛ばされ目の気づけば前にはオメテルがいた。だが奴を視認出来たときにはすでに遅く神護は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
オメテルは神護を見下し言った。
「覚醒した力でその程度とは笑えるね!その程度で俺に勝てるとか思っていたの?……雑魚が調子のんじゃねえぞ!」
最後の一言は口調が変わった。それは背筋が凍りそうな眼でトーンの低い声だった。
だがそんなことはいい。
「なっ!?う、嘘だろ…」
世界中の人間が神護だったら驚天動地の出来事だろう。
何故ならオメテルの体には流石に無傷とは言わないが見た限りダメージは少なかった。
「もういい。少しは期待できるかと思ったけど全然だったね。もう消えろ!」
遊びは終わりだという意味の言葉を吐き捨てるとオメテルは天に手を翳す。するとやつの上空には輝く光の球が浮いていた。
神護は直感で理解した。アレを喰らったら絶対死ぬ。あれは絶対に喰らってはいけないものだと……
神護は逃げようとしたが身体がさっきの一撃で体に力が入らない。
「じゃあね~ バイバ~イ! 〈ライトニングメテオ〉」
光の玉が神護を目掛けて飛んでくる。
避けられない。逃げられない。
―—死ぬ
「くっそったれーー!!」
神護は惨めな声をあげることしか出来なかった。
無力な自分を嘆いて……