二十
「もう一度問う。汝、何が為にここに来た」
突如として現れた大蛇、基竜は再度神護に問いかける。
「理由……?そんなもんねぇよ。なんか気になったから来ただけだ!」
神護は治まりかけの頭痛の中、問いに対して答える。
事実、神護は特に理由があってこの場に来たのではないのだ。
「では、今すぐここから立ち去れ。此処は力を求めるものが来る場所だ」
「じゃあついでだその力とやらを貰おうか……。てかその喋り方やめろ! なんかうざい」
「……おけおけ。わかったわかった!
こんな感じでいいか? お前のの口調の感じを読み取って真似てみたんだが……」
「急に軽くなったな!! まあそれでいいけど……」
神護は急な口調の変化に若干戸惑いつつもそれを受け入れる。
実際先ほどの口調よりは話しやすくなったと感じているのも確かだ。
「じゃあとりあえず力が欲しいんだったら試練を受けて頂戴な」
「試練?」
「ああ、試練だ……。俺達にお前の力を示してみろ!」
竜は全身を神護の前に現すといきなり襲い掛かって来る。
「ちょ、ちょっと待てよ! いきなり!」
竜は神護の言葉に耳を傾けず自身の腕を振り殴りかかって来た。
神護はそれをすんでの所で躱し、距離を取ったが、そんなものに意味はなく竜は口元にに龍力を収束し神護に向けて放つ。
「くそっ! 〈龍水砲〉」
神護は避けきれないと判断し迎撃する。
互いの力は互角であり、ぶつかると共に相殺される。
「へ~やるじゃないか……それならこれだ」
竜は先ほどと同じように口元に龍力をためる。けれど先ほどより収束される量と質が変化していた。
「いくぞ! 〈無限竜の息吹〉」
竜は一気に龍力をレーザーのように一直線に神護に向かって放つ。
「おいおい……マジかよ――」
流石にやばいと判断した神護はそれを避けよう横に跳んだ。
しかしレーザーは方向を転換しそのまま神護に向かってきた。
「なっ!!」
神護は再び跳び躱すがそれでもまだそれは追い掛けてきた。
逃げても逃げても追いかけてくる息吹についに観念したのか神護は正面に捉えた。
「ああもう、鬱陶しい!」
神護は右手に龍力を籠め前に突き出し、肘の辺りに左手を添え固定する。
「〈龍紋壁〉」
言うと、神護の手に込められた龍力は前方に八角形の盾を展開し息吹を防ぐ。
けれど神護の想像よりも息吹の威力は強力で、次第に押し込まれる。
「くっ!」
そして終いには息吹は龍紋壁を破り神護を襲った。
神護はそれを咄嗟に半身ずらし、どうにか躱す。……いや、右腕一本奪われるだけで済んだ。
「はぁはぁ……くそっ!」
「へぇ、あの攻撃を腕一本だけの犠牲で済ませるなんて――」
「……〈治癒龍〉」
神護は失われた右腕があった場所に左腕を上から撫でるように動かす。
すると右腕が元通りに復活する。
「驚いた! まさか自分の腕を再生する、地属性の中でも最高難易度の龍術を使えるなんて……」
「黙れ……そっちがその気ならこちらもそれなりの力でいかせてもらう」
神護は初めとは打って変ったように感情がほとんど顔から消え、静かに竜を睨みつける。
そして属性を『宇宙』そして『太陽』に変化させる。
「なっ!? そ、それはあの方たちの――」
「消えろ……!」
神護は竜が言い終えるのを待たずして竜に向かって黄金の炎を放つ。
炎はそのまま一直線に竜へと向かい襲う。
「っちぃ!!」
竜は自身の龍力を炎にぶつけて相殺する。
そして生じた爆風に紛れて神護へと詰め寄り、体を縦に回転させ尾を叩き付ける。
神護はそれを片手で受け止め明後日の方向に放り投げる。
「お前の技、真似させてもらうぜ。 〈太陽龍の息吹〉!」
神護は口元に龍力を有りっ丈溜める。
自身が抑え込めるギリギリの量まで龍力を収束させるとそのまま一気に吐き出すようにして竜に向かって放つ。
「ふざけるなぁぁ!」
竜は激昂の咆哮を上げるとともに自身も口元に再び龍力をため――
「〈無限竜の息吹〉」
一気に放つ。
二つの息吹はぶつかり合い周囲に龍力の余波が生じる。
「きゃあ!」
その余波は少女の元まで届き、籠を大きく揺らす。
「っ!!」
それを見た竜余波を抑えるために息吹の威力を抑えてしまう。
その隙を神護は見逃さず、すかさず踏ん張りを掛け息吹の威力を上げる。
「しまっ――!!」
竜はそのまま威力で押し切られ吹き飛ばされ、地面に強く叩き付けられる。
「ごはぁっ!」
「……っち、消し飛んだと思ったのに」
「…………クク……ハハハ、ハハハハ……アッハハッハハハハハ――!」
竜は体を起こすと急に高笑いを始める。
「さすがだ! ここまでやってくれたのはお前が初めてだ! いいだろう本当の試練を始めよう……」
「あん? 本当の試練?」
「ああ、ここからが本番だ!」
言うと竜の体が発光し、その光と共に竜自身の体は収縮を始める。
そして光が収まるととそこには一人の青年が立っていた。
「何の手品だ?」
「見るのは初めてか? 竜化から人型になるのを見るのは?」
「竜化……なるほど先ほどの姿が竜化の状態か……」
「言葉くらいは知ってたみたいだな」
「ああ、辞書に載っていたからな」
ネハングの書斎にあった辞書にその単語は載っていた。
実際、言葉だけじゃ理解しがたいところもあったようで今目の前でその変化の過程を見ることが出来若干神護は心が躍っていた。
けれどそんなことは表には出さず相変わらず感情が表情に出ていない。
「それで、人型になったからってどうなんだ? さっきの方が強そうなんだがな……」
「まあそうだね、さっきの方が力は強いよ……でも――」
刹那、男の姿が神護の目の前から消え、
「――こっちの方がスピードも上がるし、小回りも利くんだよ」
「っ!!」
背後に回り込む。
そして体を回転させ神護の横腹目掛けて蹴りをかます。
神護は反応しきれずそのまま横っ飛びで蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられる。
「ごぉほっ! がはぁっ! ……のやろ」
急速に込み上げてきた空気を咽ながら吐くき、男を睨みつける。
男は余裕の笑みを浮かべ、倒れている神護を見下ろす。
「教えといてやるよ。 竜の姿の方が一撃一撃の攻撃力は確かに高い。
でも、人型の方が龍術の質や小型化した分機動性が増すんだよ……それに攻撃力減少って言っても多少のことだしな。総合的に言って人型の方が強いんだよ」
「だからどうした!
今の一撃が綺麗に決まったのがそんなにうれしいか?! この蛇野郎!!」
「蛇野郎とは失礼な……俺にはちゃんと名前があるんだから!
まあ形式的なものだけど」
「……名前?」
「あれ言ってなかったっけ? じゃあ教えといてやるよ!
俺の名は……いや、俺たちの名は『無限竜』。無限と永遠をつかさどる竜だ!」
するとウロボロスと名乗った男の背後からもう一体の龍が姿を現す。
それを見るなり神護は絶望を露にし、
「嘘……だろ……」
ただ唖然と立ち尽くすのみことしかできなかった。