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真龍幻夢譚  作者: 魔音金
第一章  龍騎士学園
18/23

十八

目を開けるとそこは暗闇の中だった。前後左右見渡す限りの闇――

地面は水があるわけではないのに歩く後には波紋が広がる。歩けど歩けど続くのは暗闇ばかり。それ以外何もない。

しばらく……いや正確にはどのくらい歩いたか分らないが、一つの光の塊が前方に見え始めた。

その光に向かってゆっくりと近づいて行き、近づくにつれ光は輝きと大きさが増す。

目の前まで来ると光は一つの大きな鳥籠が放っていることが分かった。

籠は遥か上方からぶら下がるように吊るされており、中には大きな鳥でも入っているのかと思いきや、少女が一人、足物に鎖を繋がれ座り込んでいる。

見かけの年齢的に外にいる人物とそれほど差異はないだろう。

少女は籠の外にいる人物に気付くと、

「あなたは? どうしてここにいるの?」

そう尋ねてきた。

その問いに返答しようとしたがその人物は声が出ない。それ以前に口を動かせているのかがわからない。

それでも必至で何かを伝えようと身振り手振り大きく動かす。

その様子を見てか、少女は何かを諦めたかのようにため息をつく。

「やはりあなたもですか……」

彼女は視線を自身の後方に向け、それを追うようにその人物も視線を向ける。

その先には鈍く光る目のようなものが宙に浮いていた。いや、実際には浮いているのではなくそこに何かがいるのであろう。

しかし影のようにもやがかかっておりその存在を認識できない。

それは静かにこちらへと近づいてくる。

こいつは危険だ。早く逃げろ。頭ではそう解っていても体が全く反応しない。

足をいくら引っ張ろうとも一向に動かない。そんな中それはもう目の前にいた。

その存在が目の前にいると気付いた時にはすでに遅く、その人物はそれに飲み込まれるように取り込まれた。

そしてその最中最後に見えたのは少女が口を動かし、

『待ってる』

そう言ってる姿だった。


* * *

 

「……ぅん。……ああ、なんだ夢か——」

神護はベットから布団をめくりながら起き上がると先ほどまでの奇妙な体験を思い返していた。

自身は別の場所にいて不思議な少女と不気味な存在と邂逅した。

しかし自分がここで、この自室のベッドの上で目を覚ましたということがそれが夢であったことを如実に語っている。

この夢が神護に何かを語りかけるための物だったのかそれともただの夢だったのか

そんなことは定かではない。

どちらにしても夢にしては珍しく鮮明に記憶に残っており、そのことが神護に奇妙なわだかまりとして植え付けられた。


「まあ、今考えても仕方ないしな……」

神護は立ち上がると目を覚ますために部屋の隅にある扉へと向かう。

扉を開くと目の前には洗面台があり、その隣には折りたたみ式の扉が一つ備え付けられていた。

昨日、食事に行く前に洗面台があることは確認し顔を洗ったがこの扉の先は確認していなかったのでそれを開き中を確認することにした。

開くとシャワーが一つ備え付けられており、それを見た神護は昨日風呂に入っていなかったことを思い出し目覚ましがてらに浴びることにした。

幸いシャワールームは窓がついていたので太陽の光が入ってきて暗いということはなく、見事なことにボディーソープにシャンプー、リンスまでもが備わっている完璧なシャワールームだった。

タオルも洗面台の隣にある引き出しの中に何枚も入っているので体を拭けないという心配もなかった。

神護は早速服を脱ぎ下にあった籠に入れ、扉を開けて入り、シャワーを手に持った。

しかしここで問題が発生した。

お湯を出す方法が分からないのだ。

神護の元居た世界では温度表示付きの機械がありそこに備わっているボタンを押しレバーを倒すととお湯が出るという仕組みだったが、ここにはそれに該当するものがない。

ただ壁に赤と青の水晶のようなものがめり込んでいるだけで温度表示もなにもない。


「まさか、これをどうこうしたらお湯が出るわけじゃあないだろうな?」

自分の世界にはないものに戸惑う神護。

この屋敷の浴場はこの世界に来た日に使わしてもらったがその時は湯船のお湯で体を流しただけでシャワーの方には一切触れなかった。

 

「ええい! 物は試しだ」

そういうと神護は赤いほうがなんだか暖かそうという理由で赤い水晶に触れる。

すると水晶はの中から光を発し赤く輝きシャワーからお湯が出てきた。


「うわっ……!」

急に出てきたお湯に一驚したがすぐに普通に浴びだした。

出てくるお湯の温度は神護の体のことを熟知しているかのように完璧な適温であり瞬時に朝の眠気を覚ましてくれた。

「あ~~気持ちい~」

少し年より臭い声を出しながら頭と体を順に洗う。

すべて洗い終えるともう一度頭からお湯をかぶりすっきりしたと思ったらもう一度赤い水晶に触れる。

すると今まで出てきていたお湯がピタッと止まった。

「ほぉ……こうやってオンオフが出来るのか」

不思議な異世界の機能に関心をしつつ扉を開け引き出しからタオルを取り出し体をふく。

拭きお立ったタオルは下に置いてあった籠に放り込み神護は洗面所を後にし、着替えの置いてある入口の方へと向かった。

この世界に来た時の服を先日風呂に入った後クピドが選択をしてくれていたらしい。

洗ったものは入口に畳んで小さな箱に入れてある。

神護は服を着ると入口の台の上に開いてある時計と地図をもって自分の部屋を後にし、食堂に向かった。


食堂に着くと人の姿は誰も見当たらなかったが食事が机の上に並べてあった。

(ネハングはともかくクピドはまだ寝てるのか?)

クピドがいないことに疑問を抱きつつも椅子に座り机の上に並べてあった食事に手を付け始める。

食事を初めてしばらくすると部屋にある時計が大きな音を鳴らした。


「うっせーな……え? ウソだろ!」

神護は急に鳴った時計とその針の示す時刻を見た瞬間顔が青ざめた。

時刻はちょうど12のところで重なっていた……


「ちくしょーーー!!」

神護は急いで食事をかきこみ走って家を飛び出した。



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