十六
目が覚めると第一に見知らぬ天井が目に入った。
まあ異世界なんだから当然と言えば当然なんだが。
神護は完全に覚醒すると自分がベッドに横たわっていることに気が付いた。
「俺はいったい……?」
神護は体を起こし朧げな記憶を探ろうとした。
すると突如軽い頭痛と嘔吐感に襲われた。
そのまま体を捻りうつ伏せになった。
しばらくその状態のままでいると気持ち少し楽になったので、今度はしっかりと体を起こした。
それと同時に、神護が起きるのを見計らっていたかのように扉があいた。
「大丈夫か?」
入って来たのはネハング。
その後ろから大人しく縮こまったクピドが入って来た。
「帰ってきてたのか?」
「ん?ああ。つい二時間ほど前に。
そないなことより大丈夫かいな? 痺れとかあらへんか?」
「まあ多少の痺れはあるが大丈夫だ。」
言うとネハングの影に隠れるようにして縮こまっていたクピドが申し訳なさそうな顔をしながら更に小さく纏まった。
するとあまりその行動が気に入らなかったのか、呆れた顔でため息をついた。
「こら、クピド。 ちゃんと言うこと言わんとあかんで。
ほら!」
ネハングはクピドの背中を押し神護の前に出した。
「ごめんなさい……
まさか倒れてしまうなんて思ってもいなかったんです……」
「行く前に言っといたやないか…
神護はんは長旅で腹も減ってるかもし…れんけどクピドは料理はしたらあかんで!って。」
ネハングは頭痛がするのか蟀谷を抑えていた。
「で、でも疲れているときにはあのシチューの肝である<ティグルスパイス>は
とてもいいので……その、食べてもらって元気に……なってもらいたくて……」
「それでも君の料理の腕は壊滅的って自覚しとるでしょ?」
ネハングはもう一度盛大なため息をついた。
その傍らクピドは「でも、でも……」と半泣きになりながら何かを訴えかけていた。
「まあまあ、別にいいじゃないか。
その結果がどうであれ人のために何かができるというのは良いことだろ?」
「……神護はんがそう言いはるならええけど。」
神護の言葉にあまりネハングは納得がいっていかず渋々といった様子だった。
クピドは黙り込み俯いていたが若干口元が緩んでいるように神護は見えた。
「ていうか、見た限りこの家の使用人はクピドしかいないのか?」
だがその場の雰囲気があまり心地よくなかった神護は話題を変えようと疑問に思っていたことをネハングに訊ねた。
「ん? ああ、そうやで。
まあ学校も近いしなんかあった時は教員の人等も助けてくれるし不便は別にあらへんよ」
「じゃあ飯とかはいつもどうしているんだ?
さっきの話だとクピドは料理を普段はしないってことだろう?」
「それなら学校の食堂から食事の時間だけ作りに来てくれはんねん。
基本朝晩7時と休みの日は昼の12時に来てくださるさかいにそこは気にせんでいいよ。」
「7時……ってもうすぐか。
じゃあそろそろ来る時間だな。」
「本間やな。
ほなワイらは先に食堂行っとるからましになったら来いや。」
言うとネハングとクピドはそのまま部屋を出て行った。
部屋の外に出て後食堂に向かう途中でネハングは
「これに懲りたら料理は控えるように!」
と念を押し注意した。
クピドは小さくネハングにぎりぎり聞こえる声で「はい……」と返事をした。
すると急にネハングは立ち止まり何かを思い出したかのように振り返り言った。
「あ~それともうじきあの子ら帰って来るさかい、部屋綺麗にしといたって」
「は、はい!」
クピドの返事を聞くと、ネハングは歩みを再開しそのあとをクピドは付いて行き食堂へと再び向かった。