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真龍幻夢譚  作者: 魔音金
第一章  龍騎士学園
15/23

十五

気が付くと朝になっていた。

神護は積んだ本を読んでは直して新しいのを積み、読んでは積みを繰り返しこの書庫の棚一個分くらいは制覇しただろう。数で言うと大体百冊ほどだ。

といっても辞書や辞典、資料集などを読み漁ってこの国の文字や言語などを覚え、読み書きが出来るようになっただけで、あまりこの国や世界について学ぶことはできなかった。一冊一冊の内容が濃すぎて読むのに時間がかかってしまったためである。


「はぁ……」

神護はため息をつきながら今机の上に積んである本を棚に直しに向かった。

最低限の生活に必要そうな知識を突っ込んだものの自分が興味が湧きそうな物を知ることが出来なかったことに落胆してしまう。

本を直しているとぐ~っと神護の腹の虫が鳴る。


「そういえばこの世界に来てから何も食っていないな……」

神護はこの世界に来てからキュベレを相手にしたり朝まで書庫で勉強したりと何かと忙しかった。そのせいで食事をとる時間がなく、ともすれば腹がすくのは必然的と言えるであろう。

神護は本を直すと扉に向かい手を掛ける。するとひとりでに扉が開きクピドの姿が現れる。


「そんなに驚くことですか?」

開いた扉から姿を見せたクピドは目を細めて神護をジトッと見ていた。


「そりゃいきなり扉があいたら驚くだろ!」


「……まあいいでしょう。

朝食の用意が出来ましたので呼びに来ました。」

クピドはあまり納得がいっていないのかしぶしぶといった表情をしていた。


「ああ、わかった。 俺もちょうど腹が減ったから出ていこうと思っていたところだったよ。

ていうかここの本は多いな棚一つ分くらいしか読めなかったよ。」

言うとクピドが驚きの表情に変わった。


「え? ちょっとここの本を棚一つ分も読んだんですか?

まだ一日も経ってませんよ……」

クピドは本当に人間ですかと言いたげに視線を投げかけて来た。


「まあ文字を最初から覚えないといけなかったから時間がかかっただけで、知っていたらもっと読めたと思うけどな」



「はあ……。まあそんなことはいいです。 

では移動しましょう。 朝食が冷めてしまいます」


「あ、ちょっとまってくれよ!」

クピドは書庫から出るとそのまま足早に食堂へと向かった。

神護はそのあとを慌てて追い、クピドの後ろを付いて行った。



食堂は書庫からさほど遠くはなかった。

食堂には最大5,6人位座れるであろう机と椅子がいくつも並べられていた。

見る限りテーブルクロスや置かれている椅子は相当高そうなものだ。

特に椅子は触ってみて解ったが柔らかすぎず堅過ぎない素材で食事には最適だと思った。

やっぱりアイツは相当金持ちだな。神護は改めてそう思った。


「それでは座って待っていて下さい。 すぐに持ってくるので」

言うとクピドは厨房の方へ歩いていった。

神護は机に突っ伏して彼女が歩いて行ったほうを見、ふとこう思った。

なぜ彼女は一人でこの屋敷にいるのだろう……と


この広い屋敷のことだもっと使用人などがいてもおかしくないと思っていたが昨日から彼女とネハング以外見ていない。

たまたま休みなのかもと思ったがそうでもないらしい。

この家、もとい屋敷からは二人以外の匂いが全くしない。

これは龍戦士になってから何故か五感も鋭くなっているらしく感じ取れるようになったものだ。

「まああとで聞けばいっか」

神護は今は何も考えず食事を待つことにした。


しばらくするとクピドが歩いて行ったほうから大きな物音が聞こえた。

「大丈夫か!?」

神護は慌てて席を立ち厨房のほうへ向かった。

行くと床には割れたであろう食器の破片が散らばっていた。

隣には尻餅をついているクピドがいた。

「何してるんだお前?」


「いや、その……、器を取ろうとしたら滑ってしまって……」


幸い料理のほうは無事だったようでシルバーのキッチン台の上に綺麗に…綺麗に……きれ…い…に?

「なんじゃこりゃーーー!!?」

神護は驚嘆によりこの馬鹿でかい屋敷の敷地をを飛び出し近所周辺まで聞こえるのではないかと思うほどの大声で叫んだ。(この表現は比喩であり実際はそれほどおおきくはない)

キッチン台の上にあったのは鍋の中にぐつぐつと煮えたぎっている言葉では表現できそうにもない色の液体であった。(液体というよりはシチューに近いもの)


「なんじゃこりゃとは失礼ですね!

これは漆黒樹しっこくじゅの樹液と漆黒虎ノワールタイガーの肉で作った

テグールシチューです!」


「テ、テグールシチュー?」


「はい!

これは私の故郷の郷土料理で体にとってもいいんですよ!!」

いかにもこの世にあるまじき色と見た目をしているものを体にいいと言われても…


「とにかく食べてくださいって!」

クピドは観念しろと言わんばかりの笑顔とよそったシチューと共に俺に近づいてきた。

目の前に来ると器をグイッと無理やり押し付けてきた。

神護はそれを無下にはできず受け取ってしまった。


「っ!!」

さっきより自身に近づいたからなのかシチューから悪臭とまではいかないが鼻に突き刺さるような臭いがし思わず目から涙が溢れてきてしまった。


「泣くほど食べれることが嬉しいのですか?

ありがとうごさいます。 作った甲斐があります」

クピドは勘違いしたのか、神護の涙をうれし泣きと思っているらしい。

流石にここまで喜ばれると食べないわけにはいかなくなり、神護は覚悟を決めた。


(物は見かけによらない。 良薬口に苦し。

後のは少し違うか。

まあこの見かけでうまかったらそれでよし!

不味くても体にはいいんだ!!)

神護は自分に言い聞かせるように何回も言葉を繰り返しながらそれを口に運んだ。


そして神護の記憶はそこで途切れた。



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