十一
キュベレ・ライトロード。彼女は高らかにそう言った。
キュベレ言えばハマーン様が乗っていたファンネル搭載の機体だ。あっ、それはキュベレイか……
まあそんなことより——
「ライトロード家って何?」
神護はこの世界に来たばかりで大層に言われてもわからず、素直に尋ねる。
「え? ライトロード家を知らないの?」
「えっと、まあ知らないかな……」
彼女は目を丸くしていた。
よほどの名家なのか、神護がその名前を知らないことに驚いている。
彼女は一寸呆けていたがすぐに平常に戻り、咳払いをし丁寧に説明してくれた。
「いい、ライトロード家っていうのは代々神龍様より授かった光の属性、光の龍術を使える一族のことよ」
「へー」
神護は尋ねてはみたものの然して興味がないのでそっけない返事を返した。
けれども光の属性という言葉には欠片ほどだが少し気になった。
「あんた、光の属性が使えるのか?」
「あっ! そうそう! なんであんたが光の属性をつかえるのよ?
あれはライトロード家ともう一つの一族しか使えないはずよ。どうしてつかえたの?」
キュベレはこちらへずんずん詰め寄って来た。
(なんでって、もらったから。なんて多分ここで軽々言わないほうがいいな。
もう一つの一族というのも気にはなるがいったんスルーしておくとしてどう説明したものか……
ていうか質問を質問で返すなよ。
……確かここに来る直前にアダムスには龍戦士のことは秘密にしろって言われたよな?
ちゃんとした説明をするにはどうしてもその手の話が絡んでくるし……でも秘密にしろって言われた以上秘密にしないとあいつのことだ何をしてくるかわからない)
神護はあれやこれやと考えた結果——
「あれは光じゃないよ雷の属性をぶつけて相殺しただけ。それを光の属性のものだと君が勘違いしただけだよ」
と過去、短期アルバイトをしたときに覚えた人を騙せる笑顔を作り誤魔化した。
何のバイトかはもちろん秘密だが。
「ほんとに?」
「本当(嘘)だよ!
光の属性なんて俺らにとって憧れなんだから」
と思ってもないことをすらすらと口から出す。
こういう人が詐欺師にでも向いているのだろうか?
「フーン。まあ信じといてあげるわ。」
キュベレは軽く口元を綻ばせ明後日の方向を向いた。何がうれしかったんだろう?
「ところでここどこかわかる?
俺一先ず近くにある街かどこかに行きたいんだけど……」
「あなた道もわからないってどれだけバカなのよ」
キュベレは呆れ交じりのため息をつく。
神護はこの世界の地理を知らないので当たり前なのだがそことを彼女は知らないので仕方がないのだが、その少し馬鹿にする態度には少しムッと来たようで、神護は頬を少し膨らませる。
「まあサーペントもいなくなったことだしちょうど私も街に戻ろうとしていたところよ。
なんなら送って行ってあげるわ!」
「マジで! お願いします」
キュベレは湖から離れるようにして歩き始めた。
神護はそれについていくように歩みしばらく歩くと森が続いているはずの景色が
ただの山中の並木道に変わった。
「っ! どうなっているんだ? 一体……」
「あの湖には特殊な結界を張っていたから周りからは視覚的に遮断されるようになっていたの。
だから結界の外にいるときは周りが森のように見えるのよ」
「へ~なるほどなー」
さすがの神護も知識のないことには興味が惹かれた。
結界なんてもので簡単に視覚からの情報を歪められるなんて思ってもいかかったものだ。
しばらく歩くと一台の馬車が止まっていた。隣にはいかにも使用人的なな黒の燕尾服を着たやや年のいった男性が居た。
「お待ちしておりました。お嬢様。はて?そちらの男性は——」
男性は神護の存在に気付くとキュベレに尋ねていた。
「ご苦労様ギルベル。この人はシンゴよ。
道に迷ったらしいの、だから街まで一緒に送ってあげて——」
「かしこまりました。ではこちらへ――」
ギルベルと呼ばれる男性はキュベレを馬車に乗せた後、神護を施しキュベレの正面の席へと案内される。
神護は馬車に乗る前に軽く体をはたき埃を落とし、軽く会釈をして乗り込みそっと腰を下ろした。
「では出発いたします。」
ギルベルは運転席に戻り、一言断ると馬車を出発させ街へと向かった。