ほうき星町英雄譚「闇夜を駆ける、昔話」
「ほうき星町シリーズ」の「セリゼ・ユーイルトット」のトラウマの話です
闇夜を駆ける、昔話
星座の見方を知らない少女、夜の中を逃げまどう少女。足を止めたら狩られる人生、生まれてきたことがマチガイだったというの?1
大地を駆けられないからスカートは嫌い。剣を振るうのに邪魔だからフリルは嫌い。返り血が落ちないからいらない、白のワンピース。血の色なんて見たくはないから、真紅のドレス。2
黒衣を纏った少女、出来損ないの吸血鬼。デンデラ野を走る少女、マント、闇に溶けて。それを追うのは虎の顔のケンタウロス。棍棒、肉のカタマリ、とてもひどい長い爪。3
少女くるりと返りて、返す刀で胴を切る。そしてまた逃げる。だって相手は千人戦、少女ひとりに千人戦!4
星座の見方を知らない少女、星と菫はどこの話?神が星になるのなら、天上で安らかに座る彼らはさぞ楽しかろう--!5
そんな狂った理を傍らに。ガラスのように冷淡な空の下、彼女の逃避行は続く。6
雨が降って、休ませてくれるモノか。雷が降って、あやしてくれるモノか。奴らは言うのだ、奴ら…高貴なる吸血鬼、同胞の吸血鬼…その奴らは言うのだ「ゴキブリ喰いが」と…7
ああ、ああ、血を吸えないのがそんなに悪いのか。下劣かブザマか、屑かゴミか。理の外にあるモノは消して構わないというのか。たとい公爵の血に生まれても、そうなのか。父を謀殺したその血が清らかだというのか。8
受け入れろ? なぜ? あきらめろ? なぜ?9
そんな狂った理が理であるものか。それならば--少女はこうして<世界の敵>となる。幸い、強さの延びしろなら山とあった。10
殺してやる。向かってきたモノの命乞いなど聞くものか。蹂躙する奴らを蹂躙してやる。挽肉機の意味を教えてやる。土に血が染み込む感触を教えてやる。殺してやる殺してやる殺してやる--!11
それが正義かどうか、少女は知らない。考えて、5秒後に何もかも捨てて。歩け修羅の道、泳げ血の三途、骸の山河を踏みしめて。12
少女は星座の見方を知らない。赤く光る逆十字星。星空を見る意味は、戦場を目指す印でしかないから。13