表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

祓師

作者: 如月 星月

どうも、こんにちは(こんばんは)、如月星月です。

今回は歴史モノです。

※あくまでフィクションなのであしからず


次が出るのはいつになるんでしょうか…


いま色々平行して書いてるのでかなり書き上がるのに時間がかかります。


では、とりあえず読んでみて下さい。


あぐらでも、寝てでも、楽な体勢で。

序章 祓師


鎧桜拾七年、睦月。


母親は、子を背負い社へ急ぐ。

「おかぁ…おかぁ…」

「大丈夫、大丈夫、もうすぐお社だからね。それまで頑張りなさい」

子は、数日前悪霊に憑かれた。

体温は異常な高温を示し、瀕死の状態にある。

処置が遅れれば、命は無い。

街道から社へと向かう道は、無情にも母子に長い階段を課す。

その階段の下、一組の男女が現れる。

「その少年、我等が御救い奉ろう」

母、その姿を見るなり平伏し、子を地に寝かせる。

「…よし」

少女は数珠を取り出し、暫し念じた後、子の懐に数珠を翳す。子は一瞬目を見開き、身体を振動させた。そして身体から黒い影が起き上がるのを見るなり、青年は腰の刀を抜いた。

妖刀。刀は霊力を纏い、黒く光を放つ。その霊力に研ぎ澄まされた刃は、生者よりも悪霊を求める。

影が人形に固まり、赤い目が姿を現す。

「…悪霊…退散!!」

少年は妖刀を構え、恐れ戦く悪霊へと斬りかかった。見事に刃は敵の首を取り、悪霊は強制成仏した。

そしてまた、男女は歩き去る。

鎧桜京は、深刻な悪霊被害に脅かされていた。日に日に事態は悪化し、悪霊によるものとされる災害、伝染病、不幸等が京中で続いた。

それらを食い止める為に、鎧桜天皇はあるものを造り出した。

通常武装では歯が立たない悪霊を強制成仏させ、この世から消す者たち。


その職は、「祓師」と呼ばれた。


第壱幕 「桜」


鎧桜弍拾年、皐月。


少年、木刀を振りかざす。

普段着と何も変わらない姿で、木刀を振る。

少年―埼天 (サキソラカムイ)は、一人の祓師。ただ、悪霊を「狩る」為に祓師が必要とする「妖刀」をまだ持たない。教練期間にある為だ。

悪霊に見立てた木の板の頸に、木刀が打ち付けられる。

「上手い」

信楽 京一郎(シカラキョウイチロウ)は、軽く拍手しながら歩み寄る。陣羽織の背には「桜」の文字がある。

「先達」

木刀を下ろし、深く一礼する。

「私はまだ未熟…恐らく未だ、師匠には認められて…」

「認められてはいないと思うか」

神は、顔を上げる。

「えっ…?」

京一郎は軽く笑ったまま、神の目を見ている。

「森重師匠が呼んどるで」

その言葉は、まさに合格届けそのものだった。


「師匠」

神は戸を開け、一礼する。

「唯今帰りました」

「神か」

「はい」

森重 真幸(モリシゲマサキ)は、神の声だけで神を識別した。

森重の口角が上がる。

「来たまえ」

襖の奥には、一本の刀があった。

「これは…!」

仏屋金永斎影久(ホトケヤキンエイサイカゲヒサ)氏の第拾六本目の作品」

刀に寄るよう指示され、神は刀の前に正座した。

「妖刀、[成仏刀-火嵐雷津-]」

鞘には仏屋金永斎影久 拾六の紋が彫られ、刀の鍔は四角形と卍型を重ねた形をしており、刀の端から出た数珠の先には「成仏」と書かれた札が吊るされていた。

「あとは、御主の霊力にこの刃の霊力が応えるか否かだ」

抜いてみなさい、と付け加え、黙り込む。

神は成仏刀を持ち上げた。以外なことにそう重くはない。抜刀すると成仏札の「成仏」の文字が黒く光り、数珠を伝って刀が黒く輝いた。

「…刀が御主を認めた」

森重は立ち上がり、陣羽織と袴を置いて部屋を出た。

陣羽織には、「桜」とあった。


最前線部隊、「桜」。

あの伝説の師団、新撰組にさえも「最強」と言わしめた特殊戦闘部隊。ここに配属されることは祓師として、最も名誉な事。

その反面、「最も死に近い部隊」という二つ名も持つ、危険性の非常に高い部隊。

神は、袴と陣羽織を纏う。


「様になっとるやないか」

京一郎は自身の弟分の出世を祝うかのように言った。

「いきなり「桜」ってな…天才かいな神」

「いや…私もどういう訳で選ばれたのかは…」

神としても不思議だった。

自分が妖刀を得られるのは、まだ数年先になるとばかり思っていた。

自分の力は認められるに値するまでに強められたというのか?

問うも、答は出ない。


「桜」の本陣に踏み入るのは初めてだ。

鎧桜京左京の果てにあるその場所は、注連縄が張り巡らされ、入り口には鳥居が立てられている。祓師が神仏統合側の組織であるため、鳥居には二つの卍がある。

「名を申せ」

門番小屋には役人が二人いる。

「埼天神」

「どの部隊の者だ」

「「桜」だ」

役人は陣羽織の背面を確認。

「抜刀せよ」

神は何も言わずに抜刀した。

霊力に刀身は黒く輝く。

役人は頷き

「よし」

と言って道を空けた。

中には大きな宮があり、周囲には二つほど小さめな建物がある。中央の宮の上には旗が掲げられ、「桜」の文字が風に靡いている。中央宮の内部へ入る。

中には「悪霊退散 祖國防衛」の掛け軸が掛けられており、右と左に道が繋がる。

「よぉ新入り」

背後で京一郎の声がした。

「先達」

若干驚きながら、後ろを向く。

「司令室まで連れてったるわ」

京一郎に連れられるままに、中央宮を奥へ進む。


「よくぞ来られましたな」

一人の老人が出迎えた。「桜」中央司令者の嗣永 祥燐(ツグナガショウリン)だ。今でこそ温和なご老人だが、若い頃は妖刀を五本持ち、物を浮かび上がらせるほどの凄まじい霊力を持っていたらしく、参加した戰は百にも及ぶという。

「お主のような若い連中が入ってくれると、私としても嬉しい限りだ」

嗣永は少し嗄れた声で言った。

「ご存知だとは思うが、祓師は単体では悪霊を人間から引き剥がす事ができない。「合珠処理」が可能な巫女を連れていなければ、人に宿った悪霊と対等に渡り合う事は不可能だ」

「はい。よく了解しています」

「祓師に付く巫女は、希望制で決められるが、君に付きたがる者が相当数いてね」

嗣永が覚束ない様子で立ち上がり、障子に向けて掌を向ける。

「人選には苦労したが、今朝漸く一人に決まった」

嗣永の掌が妖刀と同じように黒く光り、その手を右にずらすと同時に障子が開いた。霊力は健在だ。

「君に付く事になった巫女の」

正座した巫女は、顔を上げた。

「城田 嘉凜(シロタカリン)だ」

恐らく、まだ巫女になってから三年経っていない。それくらい子供だ。十三才と聞いているが。

「宜しく御願い致します」

嘉凜は座礼する。

「では、私はこれで」

嗣永は部屋を退出した。

嗣永がいなくなった途端、嘉凜の様子は豹変した。

「神君ですよね?」

「あぁ」

嘉凜は何かを期待するかのように目を輝かせている。

「お会いできて嬉しいです」

陶酔したようなうっとりした様子で神に寄り添う。

「何故僕に付きたがる巫女が大勢居たのだ?僕に一体何がある?」

うーん、と少し考えた後

「…はっきりとはわかりませんが、普通の祓師とは違う「何か」を皆感じたのでしょうか」

嘉凜は夢見心地で神に寄り添い、どうにもできない。

それから少なくとも五分はその状態だった。


「桜」の中では上下は武士ほど厳しくはない。なぜなのかはわからないが、恐らく昔からそうなのだろう。

「桜」、「梅」、「松」は、それぞれから一〜五人ずつ出し、巫女を最低一人出して「戰臣」と呼ばれる分隊を作って戰に出る。神が入ったのは第弍拾八番戰臣で、メンバーは「桜」から京一郎と神、「梅」から鷹見 國騎(タカミコクキ)、「松」から鑑別 緋那子(カンベヒナコ)、神に付く巫女の嘉凜となった。

國騎は「梅」最年長の男で、本来両手持ちの妖刀を片手で扱うほどの凄まじい剛力(身体の力)を持つ。現在は鎧桜京右京で単独戦闘に入っている。

緋那子は神と同い年で、脇差し型の妖刀を持つ。過去の戰の負傷で左目の視力を失っていて、眼帯を着けている。右目はきれいな蒼色。

「これから宜しくね」

鎧桜京民らしい、落ち着いた雰囲気の少女だった。


第弍幕 「戰」


鎧桜弍拾年、水無月。


戰や悪霊戰闘における最大の目標は、言うまでもなく悪霊の強制成仏。妖刀の霊力、もしくは剛力を悪霊の霊力と掛け合わせ、敵の霊力を殺ぐことで、霊力の塊でしかない悪霊を強制成仏させる。基本的に悪霊は自身の存在を保てなくなると成仏することを利用した方法だ。

過去には陰陽師と呼ばれる人間たちが式神の力を借りて悪霊を「駆逐」していたが、やがてそれでは間に合わなくなり、ちょうど鎧桜京でその被害が表面化したことで鎧桜天皇も祓師を作ったのだ。


「妻を救ってほしい」

という願い出があったのは、ちょうど水無月の中頃のことだ。

「推察によれば悪霊の型は平常型、武装は刀のみ。甲冑は確認されない。そう難しい相手ではないだろう」

嗣永はそう言って、第弍拾八番戰臣を出した。


「う…うぅ…」

女は、力なく呻く。

「外霊力上昇、内霊力減少、剛力著しく減少、悪霊の活動が活発化しています」

調査班は検査を終えたところだ。外霊力、つまり悪霊の持つ外部から入った霊力の値が上昇し、もともとの彼女の霊魂、精神の力である内霊力や彼女自身の剛力の値が減少しているという事は、精神の悪霊による侵食が進んでいる、という事だ。

「ご苦労さんです」

京一郎はそう言うと、女の周りに注連縄を張った。

「神、折角だからお前がやれ」

神は頷き、妖刀に手をかける。

「嘉凜」

「はい」

嘉凜は暫し祈祷し、数珠を女の腹部に重ねた。数珠に宿った嘉凜の霊力が、悪霊の霊力に流れ込む。

女は藻掻く。

同時に悪霊の黒い影が、女の身体からゆっくりと起き上がる。

「…来たな」

神は抜刀し、斜に構える。

「……」

悪霊の紅い眼が神を捉え、悪霊も抜刀する。神だけが、注連縄の中にいる。

「…悪霊退散!」

「…霊界忠誠!」

両者、共に斬りかかり、神は上から、悪霊は下から刃を振った。

悪霊の刃が、神の脚に迫る。

神には、全てが遅く見えた。

神の刃は悪霊の頭から即座に自分の脚の高さまで振り下ろされ、絶妙な速さで刀に合わせた。

神は刀を流し、足を大きく踏み込んで悪霊の背後に回る。

悪霊は気付くが、合わせる間も無かった。背後から、成仏刀が悪霊の身体を貫いていたのだ。

神は右に凪ぎ、両足を払い、身体の中心を刺突、悪霊は吹き飛ばされ、空中で黒い煙となって消えた。

端より見れば僅か十二秒の出来事であった。

「完遂」

神は注連縄の外に視線を移す。

「神…君…?」

「すっ…げぇ…」

一同呆気にとられていたが、神は平常だった。これも、まだ全力を出しきっていない。「何が?」というような顔をしていた。


「やはり、彼の少年は只者ではないか」

國騎と京一郎は、奥の間にいた。障子は閉じられている。

「神を幼い頃から知っとるが…」

京一郎は國騎の目を真剣な眼差しで直視する。

「あの剣には、誰も勝てんで」

空には唯、半月が光る。


一回目の悪霊戦闘を終え、次の週の事だ。

「今回は相当な大群だ」

嗣永が地図を指差す。

鎧桜京東部、比叡山山麓、

蘭武(らんぶ)京跡地。

「これは悪霊戦闘ではない」

嗣永は全員の目を順番に見た。

「戰だ」


蘭武京は、鎧桜天皇の父、蘭武天皇の時代のこの国の京。

蘭武京は戦乱によって焼け、再建を試みるも謎の伝染病の流行により廃墟となってしまった場所だ。現在も跡地として残っているが、そこには夥しい量の悪霊が棲まうとされており、この国の悪霊たちの京になっている。

比叡山に背後を固められた場所にあるため、後方からの奇襲が非常によく効く。前方から大軍を率いて攻撃する方法が効くと思われがちだが、敵が悪霊なので簡単に山を越えて逃げられる。祓師の目的は悪霊の殲滅であるため、逃す量は最小限に抑えなければならない。

「酷ぇ荒れ様やな」

京一郎は嘆息する。

半壊した赤門、雑草が生い茂る大通り、そして木材が腐って崩れかけている皇宮。

数十年前まではここも、国内で最も栄えた街だった。それが数十年放置されただけでこの有り様だ。

「諸行無常とはこの事を指すのだろうな…」

國騎も辺りを見回す。

赤門を潜り、大通りを進む。

元宮城の極彩色であったであろうその建造物の柱の陰から、幾つもの紅い目の光が覗く。

と、紅光は慌ただしく動き始め、奥に入った。京一郎と神が大通りに残り、天皇直轄の精鋭隊と共に國騎が山に、緋那子が跡地周辺を固める。

「…死ぬなよ」

京一郎が神を横目で見て腰の滅刀を抜く。

「…貴方こそ」

成仏刀に手をかけ、遥か先の敵を見据える。

皇宮から黒影が涌き始める。

「さ…行くで!!」

「はい!!」

二人は、左右に分かれて皇宮へ突撃した。


國騎分隊は、敵に悟られないよう徒歩で京跡地の横をすり抜ける。

「鷹見殿!交戦が始まった模様です」

國騎は市街地を見る。

金属同士が互いの威力をぶつけ合う音が聞こえ、成仏時の黒い霧が見える。

「…よし」

國刀を背負い直す。

「急ぐぞ、お前ら!」

「はい!」

比叡山に向けて、それまでより速く走った。


緋那子は、京の方を見た。黒い霧が無数に天へ昇る。

「始まりましたね」

周辺の塹壕に精鋭隊を潜らせ、

ただ、その刻を待つ。


神の成仏刀は、黒い煌めきを放ちながら悪霊を斬り続ける。悪霊の刀も神に襲い掛かるが、四方八方からの斬撃を成仏刀によって阻まれる。

神には全てが遅く見えている。

成仏刀を振り翳せば、胴を狙う者が現れる。

…右だ。

前方の悪霊を斬り、刀を右に流す。力をかけたまま刀に真横から斬撃し、刀を弾いて更に右の悪霊二体に貫通させる。霊力を帯びたままなので、悪霊に効果はある。

そちらに気をとられている間に、神は目にも留まらぬ速さで回転し、刹那に少なくとも十の悪霊を消した。

「…まだ居るだろ?」

悪霊たちは怖じ気付いて威嚇に留まっている。

「そっちから来ないなら」

神は大きく踏み込み、

「…こっちから行くのみだ!!」

悪霊の群れに飛び込んだ。


京一郎の周囲に悪霊が集まり始める。京一郎は、まだ攻撃しない。続々と集まる悪霊は、京一郎を中心にして円形になり、京一郎から距離をとっている。

「そろそろやな…」

周囲の状況を把握し、片手に逆手持ちした滅刀を口に銜える。

そして、左腕の袖を捲る。

封印が黒い霊力の光を放つ。

滅刀をもう一度右手に持ち、脚を瓦礫に掛けて左手の滅刀も抜刀する。左腕からの霊力が数珠を伝って両方の刃に流れ込み、刃は紅く光り輝いた。

「さ…始めるで…シン」

封印が解かれ、京一郎の右目も真紅に染まった。

「望むところよ…!!」

シンは、精神空間内から叫び返した。


比叡山中腹、國騎分隊。

「かなり祓師側が優勢ですね」

監視員は報告する。

「皇宮から出たら行くぞ」

國騎は、馬部隊を準備に入らせた。


外周の塹壕では、緋那子の元に精鋭隊の一人が来た。

「北西遥か先で、霊力の流れに変動がありました。敵の増援と思われます」

「北外京の廃墟からね…他の人にここを固めさせてくれる?」

「わかりました」

男は去り、緋那子は北西塹壕に向かった。


神は、もう既に30の悪霊を消し去った。

妖刀の切れ味が落ちる事はない。霊力によって常に研ぎ澄まされているからだ。

「随分減ったな…」

神は内側に敵を弾き飛ばし、内側へと駆け込む。


「オラオラ!!まだ動けるだろ京一郎!!」

シンが鼓舞している。

「当ったり前や!!」

京一郎も鼓舞に応え、シンの補助を受けながら悪霊を斬り続ける。

視界の端に、内側に弾かれる悪霊を見つけた。

「おっ…と」

京一郎は内側に走り抜けた。


神は悪霊を斬り裂き、中央に入る。京一郎が入ってきて、背中合わせになる。

「どうや、キツいか?」

「そうでもないです」

悪霊は周囲を取り囲む。

「なら、あん時言ったやつ、覚えとんな?」

「勿論」

京一郎は紅い光を増幅させた。

「…一気にカタ付けるで」

「…はい」

その刹那、二人は悪霊に飛び込み、高速斬撃を開始した。

常人には真似できないほど速い。その上、精度も非常に高い。

二人は、たった十数秒で、残りの悪霊百体近くを殲滅した。

「まだ来そうやな」

京一郎は皇宮を指差した。

中からわらわらと黒い影が襲い来る。

「そろそろ彼らも来るのでは?」

神は念のため刀に手をかけて比叡山を見る。

何かが蠢いている。

その轟音を伴った軍勢は、皇宮の周りを囲い、

「突入!!」

声と共に皇宮へ突撃した。

騎馬隊の一人が二人に駆け寄る。

「間に合ったか」

「勿論です」

神は刀から手を放した。


北外京の廃墟付近。

緋那子は交戦状態にあった。

「一体も中に入れさせるな!!」

塹壕組は攻撃を続け、北外京からの敵の援軍を蘭武京に入れまいとした。

だが、祓師側の軍勢が少なすぎる。

「どうしてあんなに…?」

緋那子の刃は常に動き続けるが、一向に数は減らない。

気づけば10体の悪霊に囲まれていた。

「…」

悪霊は刀をもたげ、緋那子に斬りかかる。片方は防いだ。

「…しまった!!」

背中はがら空きだ。

背後に、誰かが入ってきた。

何かを叫んだ気もしたが、よく聞こえなかった。

ただ、振り返ったときそこにあったのは「桜」の陣羽織だった。

「無事か?」

その少年の声がする。

「神…君…」

緋那子は神に補助されながら立ち上がり、煉刀を持った。

「ありがとう…」

神は返答することなく悪霊に襲い掛かった。負けじと緋那子も斬りかかる。

成仏刀と煉刀の黒い光が悪霊の消える黒い霧と混ざりあい、黒い空間が出来上がる。その密閉された空間が消えたとき、悪霊の姿はなく、ただ緋那子と神が背中合わせに立っているだけだった。

他の悪霊も、國騎率いる騎馬隊や京一郎の猛攻によって殲滅されていた。

第参拾弍ノ戰は、案外早く終結した。

第参幕 「銃」


鎧桜弍拾年、長月。


嘉凜は、その日珍しく一人でいた。鎧桜京の南京を歩いていた。目的は無い。

ただ、彷徨いていた、というのが正しい表現かも知れない。

すぐ横の通りを、何かが高速で通り抜けるのを、嘉凜の天性の動体視力が捉えた。

「えっ…?」

嘉凜はすぐさま後を追ってみた。好奇心が彼女の脚を前に押し出す。

幾つも角を曲がっていく。かなり奥まで逃げている。嘉凜も懸命に追った。裏路地を進むこと10分、逃走者は行き止まりに辿り着いた。嘉凜もそこに着く。

嘉凜を見るなりその暗色の影は叫ぶようにして言った。

「やめろ!!寄るな!!」

「え…?」

ひどく怯えている。

「お前…祓師の巫女だろ…?」

「ええ…そうだけど…」

「おっ、俺は悪霊とは違うぞ!」

霊は後ずさる。

「消しに来たんだったら…せめて期限消失にしてくれ!!」

嘉凜は戸惑ったが、優しく微笑んで歩み寄った。しゃがみ、霊の顔を覗き込む。

「大丈夫だよ。安心して。私はあなたの敵じゃないから」

霊は、少し前を向き、少し震えながら嘉凜を見た。

「私は確かに祓師の人間だけど、でも私に敵対する意思は無い」

「……本当か?」

嘉凜は微笑みを崩さないままゆっくりと頷いた。

「…珍しい奴もいるもんだ…」

霊は少し安心したのか、守りの姿勢を崩し、力が抜けたように壁に寄り掛かった。

「最近は俺みてぇな"普通の"霊は少なくなっちまってさ…全部悪霊が台頭して迫害受けた所為だ…一部の悪霊か霊かの見分けも付けらんねぇ祓師も霊狩りを始めやがった…」

霊は項垂れた。

「俺はまだ何とか長らえてるが、時間の問題だ」

嘉凜は項垂れる霊にさらに一歩近付いた。

「…私、どうしたら君を守れる?」

「なっ…!?」

嘉凜は霊の目にかかった前髪を上げた。

「教えて?君を守れる方法を」

霊はその碧い眼で嘉凜を見た。

「…俺を…保護して…くれるのか…?」

まだ少し馴れきってはいないが、霊は顔を上げた。

「俺、鎖身霊なんだ」

鎖身霊とは、通常の人間には目視不能だが特殊な訓練を積んだ者や特殊体質の者には見えるという不完全透明霊で、存在は質量を保っているため見えなくとも接触はできる、という種の霊の事だ。

「通常のその辺にいる悪霊を身体に封じる時は、霊力を抑え込む為に呪印が必要だが、鎖身霊ならそれが不要になる」

「じゃあ…私が君を、仕霊にすればいいの?」

「…理論上な」

嘉凜は霊の額に触れた。

「じゃあ…始めるよ」

「…おう」

霊も眼を閉じる。

嘉凜は暫し何かを呟き、左手で数珠を取り出した。数珠の輪の片方を嘉凜の首、もう片方を霊の首にかけ、嘉凜は霊を抱き締めた。

双方の霊力が呼応し、数珠を通して交換され、微妙に変化する。霊は嘉凜に段々と取り込まれていき、吸収が完了した。

「聞こえるか?」

霊は精神空間から話す。

「うん。聞こえてるよ」

嘉凜は立ち上がった。

「君、名前ある?」

「あー、俺の霊名…俺の霊名は"天獄囚士"という」

「うん。じゃあ、よろしくね?天くん?」

「おっ…おう」


その後、本部に帰った嘉凜を、巫女の主任である玉城 飛鳥(タマキアスカ)が呼び止めた。

「上方からの直々の指名だ」

飛鳥は嘉凜を嗣永の元へ連れて行った。


「既に承知だ」

嗣永の最初の言葉はそれだった。

「君の中に、やはり霊が居る」

鈴虫が鳴く。

「その事がわかって、君を呼んだのだよ」

嘉凜の目の前に、桐箱がある。

「開けろ」、とでも言うかのように指差し、頷いたので、嘉凜は蓋を外した。金属製の、少し湾曲した物が入っている。

「南蛮貿易よりもたらされた銃を、霊力による駆動、発砲が可能になるよう改造した物だ」

嘉凜がそれを持つと、銃は光輝いた。霊力が反応している。

「君に銃の腕があるかというのは少し心配ではあるが、そこを試すために場所をとってある。来なさい」

嗣永と嘉凜は、東棟の端へ行った。


嘉凜は師団の人間に使い方を教え込まれ、的を見据える。

「…まあ一撃で当たるとは思ってねぇが、なるべく真ん中狙ってくれよ?」

少し上から目線の師団員は、重そうに銃を構える嘉凜に言った。嘉凜は照準器を覗き込み、的に銃口を向ける。

「…天くん、いくよ」

「おうよ」

短い発砲音のあと、その場にいた全員が目を疑った。

これまで武器も持ったことのない、幼い巫女の少女が放った魔弾は、寸分の狂いも無く的の中心を撃ち抜いた。

「…!?」

「なん…だと…!?」

「や…やり…ました…?」

それ以降嘉凜が、銃も扱える巫女として名を馳せたことは、言うまでもない。


数日後の事だ。

嘉凜が霊銃を持ってから初めて戰に赴いた。比較的小規模な戰であった。というのも、敵兵の数が自分たちの戦力と大差無いからだ。ただ、その部分が怖い。大体悪霊の数が少ない場合、そのそれぞれの実力が凄まじいのだ。第弐拾八番戰臣としては二回目の戰。嘉凜が霊銃を持ち、囚士を宿し、戦力は大幅に増加しているので、そう時間がかかるものではなさそうな気がしていた。いや、そうであってほしいと願っていた。


現場は鎧桜京、南京の端。


「できる限り減らしておきたいものだな」

國騎は山の上からそれを見下ろして言った。

眼下の谷底には、黒い影が蠢いている。しかし、その中で最も大きな個体が妙な動きをしていた。他の悪霊を襲っている。悪霊を吸収し、姿をさらに巨大化させている。もうあとニ体ほどしかいない。

「嘉凜、頼む」

「はい」

神は嘉凜の構える銃の先を見据え、國騎と京一郎と一緒に崖を駆け降りる。緋那子が嘉凜の護衛につく。


嘉凜は精神を統一し、視界を照準器に通す。背後では緋那子が煉刀に手を掛けて敵の進軍を待ち構える。

嘉凜は敵を照準器越しに見据え、引き金を引く。そして次の瞬間弾筒を回転させ引き金を引いた。

発射された合計五発の魔弾は空をきって悪霊の頸に突き刺さる。貫通はしない。ただ、着弾点で爆発する。敵は怯むことなく索敵を始める。その目に最初に留まったのは、國騎だった。

國騎に覆い被さるように襲い来る悪霊に、國刀が突き刺さる。國騎はその重量級の妖刀を振り上げ、右腕を切り裂く。悪霊の右腕が断たれ黒く散るが、本体の右腕は復活している。

「何だこの回復力は…!?」

國騎は振り払いながら後退し、神たちの横まで下がる。

「あいつぁ見たとこ凄まじい奴みてぇやな」

腰の滅刀を逆持ちしながら京一郎が呟く。神は國騎の後退と共に斬りかかる。

成仏刀を敵の腕の一撃に合わせた際、脳内に何かが響いた。

「…解…解ル…か?」

「!?」

「悪リョう…之…完全ナル…」

悪霊は語りかけつつさらに追い打ちをかける。

「…霊力の…かい放…ヲ…」

完全なる霊力の解放…?

神にしか聞こえていない。

悪霊はその腕を刀に変え、襲いかかる。右から銃弾が降り注いでも、ほとんど怯まずに神へ一直線に向かう。

神は衝突の瞬間、右に飛び、抜刀した。

無表情なまま刀を振り上げた状態の神の刃には、黒い霊力源が付着している。

悪霊は膝から崩れ落ちた。

「あの速さで…居合い斬り…!?」

神は成仏刀を肩にあてたまま歩み寄り、悪霊の背筋に止めと成仏刀を突き刺した。悪霊は消え始める。

「…まダ…だ…」

まだ聞こえている。

「次は…キさマの…上の処でな」

悪霊は不敵な笑みで神を見ながら、黒い霧になって消えていった。


第四幕 「皇」


鎧桜弍拾年、神無月。


年の終りが近くなってきた。

「桜」に配属されてから半年が経つ。仕事はいくらでもあったし、もとより退屈なこともなかったのでかなり早く感じた。

神がそんな回想をしているとき、外が騒がしくなった。何かがあったのだろう。号外が飛び交う。

風に流される号外を神が取ると、その文面には大きく

「今上天皇殿下、卒倒」

と記されていた。

神は既にこの事実を知っている。いま、神たち第弍拾八番戰臣は出撃命令を待っているのだ。

呼び声は、すぐに聞こえてきた。


陽が高くなった頃、彼らは大円の間にいた。

「君たちは既に知っていると思うが」

嗣永の声は張り詰めている。

「殿下が、卒倒された」

ざわめいたりはしない。全員が知っている事を確認して、嗣永はさらに話を続けた。

「悪霊に憑かれている。しかもこれまで諸君が戦ってきた悪霊とは遥かに実力差がある強大な悪霊だ」

鎧桜天皇に憑いた悪霊は、これまでとは全く違う類いの悪霊だという。何せ悪霊霊力が、通常の悪霊の数百倍にはね上がっているというのだから。


鎧桜天皇の悪霊は、あまりに強大な悪霊であるために合珠処理をしようともそれが顕現する場が必要になる。よって、現在天皇は注連縄の張られた鎧桜京北部の原野にいる。

注連縄も二重、三重にしなくてはその力から鎧桜京を護る事が出来ない。縦横十六里の正方形に五重の注連縄が張られている。緊迫した空気の中で、嘉凜の手に数珠が握られる。

「では…始めよ」

総員、妖刀に手をかける。

合殊処理が行われ、天皇の身体が激しく震動したが、つかの間の出来事だった。

突如、凄まじい衝撃波がその場にいた者に襲い掛かった。嘉凜は吹き飛ばされ、近くにいた巫女たちによって領域外へ搬送された。

それは、あまりに強大だった。

本体は黒い人形の塊。二十五間はあろうかという巨大な六本の脚と四本の腕が本体とは接続されずに浮いている。

「又…会っタナ…カムイ」

神はその本体を見据え、抜刀する。霊光が放たれ、黒い光が刀を覆う。

「戦闘開始!」

嗣永の声が響き渡り、数十人の選ばれし祓師たちが刃を振りかざした。


戦闘が始まると共に、祓師は脚を攻撃し始めたが、やはり脚で振り払ってくる。そこは想定内だ。なので振り払い始めた時に下がり、振った際の勢いで刃に脚を突っ込ませるという荒業に出た。脚には効いている模様で、左前脚が倒れ、消えた。

「このままやれ!」

よってたかって脚を消し続ける。時々腕が攻撃してくる関係で、かなり苦戦を強いられたものの脚を消すことは出来た。

すると本体は腕を消し、何かを解き放った。本体の背後に黒い門が開く。

「…あれは…!!」

嗣永も唖然としてそれを見たが、隣の森重は冷然としていた。

「霊界門か」

森重はそこからおびただしい量の悪霊が現れるのを見て、裏手に下がった。

嗣永は、それを見て苦笑した。

「…あまり無理はするなよ」


神たちは完全な劣勢に追いやられた。悪霊をただ凪ぎ払うのみで、本体に攻撃が届かない。

「畜生…こいつら…!」

背後をとられた。

焦りが生んだ一瞬の隙だ。

背後に悪霊が降りてきたが、すぐに消された。それどころか、周りの悪霊さえ消された。

「大丈夫か神」

霊力と剛力で白黒に光る二刀流の姿。

「師匠…!」

「まだ未熟な点もあるが…お前の能力ならこれぐらい行けるんじゃないか?」

「…そうですね」

神はおもむろに腰に手を伸ばし、鞘を取り外した。その霊力が鞘に流れ込み、本来そこにはない刃が現れる。

「さあ…その目の光を奴等に見せ付けてやれ…!」

神の漆黒の目が閉じられる。一瞬双刀の黒い光が強まった。

開いた目が、深碧色に光った。


その様を遠方で見た悪霊皇が、目を見開いた。

「…マさか…あれハ…!!」

悪霊皇は神に向かって走り出した。


間違いない。悪霊の目だ。


神から見た世界は全てが遅く見えていた。二刀流になった神は、ゆっくりと襲い掛かる悪霊をゆっくりと斬りつける。敵がどれだけ多いとしても、動きが遅いのだから何も苦はない。


おそらく他の隊員は、この能力の事を知らないだろう。それどころか、この能力を使える神が半分悪霊だという事すら知らないだろう。知っているのは自分自身、森重、そしてあの悪霊皇のみだ。


悪霊が悪霊を攻撃するという異様な光景を目の当たりにし、悪霊皇は戦場に割って入った。

悪霊たちが円を作り、中には神と悪霊皇だけが対峙している。

「貴様は…イッたい…」

「…俺は…悪霊だ」

蒼い目が悪霊皇を捉える。


世界は再び減速する。


あまりにゆっくりとしたその戦いは、見ている者にはあまりに高速な戦いであった。


神は刃を振りかざし、皇の頸に迫る。


皇はさらに刃を出現させて防いだ。


刃の霊力が重ねられた時、

強大な力が発生した。


周囲の人間は皆退避し、注連縄の中には皇と神しかいない。


「お前ハ…なゼ抗フ…?」


「…!?」


「喩え敵ガ…貴様ノ創造者でアるとシテも…」


「…ああ、そうさ」


「…何故だ」



「俺が…」




「全てを償う為だ」




皇の霊力が消滅した。


爆発は辺りを巻き込み、注連縄の直前まで巨大な穴と化した。


黒雲が消えていく。


斜陽が、京を照らしていた。




鎧桜天皇の病はその後快方に向かい、鎧桜京の悪霊被害件数も激減した。やはり、天皇に憑いていたあの悪霊が全権を握っていたようだ。

鎧桜天皇は、七十九歳で崩御するまで民主政治を貫き、多くの人々から支持された。

神は、鎧桜京を去った。

京一郎のもとに、一通の手紙が入った。

[先達]

その楷書を殴り書いたような字はまさしく、神だった。

[私は、江戸に向かわんと存じ上げます]

その二行だけが、紙面に小さく書かれていた。

「…とうとう…か」


同刻、江戸。

悪霊被害が現れていた。


ある武士は刀を振るが、命中しない。妻子を護る為にも、絶対に倒さなくては、と思っていたが、結局無理なようだった。

その直後、悪霊は斬り裂かれて消えた。

「傷は御座らぬか」

無表情のまま呟くように話すその少年は、「成仏」の札が付いた妖刀を鞘に納めた。

「か…忝い」

少年は去ろうとしたが、呼び止められた。

「貴方は如何なる身分の方でいらっしゃるのか」

少年は無表情のまま一言、言い返した。

「…祓師だ」




終幕





あ、寝てる方起き上がってくださーい


どうでしたか、歴史モノ。

相変わらず文力は上がらず…学校行きながらなのでクオリティーも変わらず…


次が出たらまたそれも読んでみて下さい(切実)


ではまた、遥か未来に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ