審判 -1-
旧き時代に 幕を。
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『右腕』奥の扉を開けるなり、パーンッとクラッカーが鳴り響いた。
「新団長就任!! おめでとう、セイジくん!!」
「げっ……! な、なんで!?」
どうせ名前は流れなかったんだし――などと油断していたセイジは、完全にうろたえてしまった。相変わらずにやけ顔のヨシタカは、クラッカーの紙テープをわさわさともてあそんだ。
「ホームページでも大騒ぎだよ☆ 還らずの『死者の間』から生還した勇者! そんな君が、もしかしてひょっとして『新団長』なのではないか!? ってね~☆」
「お兄ちゃん、新しい団長さんになったの? おめでとう!」
ヨシタカのとなりにはなぜかエリがいて、驚いたように手をたたいていた。
「エリはこんなとこで何やってんだ? ……そうだ、ビッグは? どうしてる?」
「セイジくん! 現実逃避はいけないな!」
「い、いや、むしろ現実的な優先順位っていうか!」
「……おじちゃん……」
急にエリがしゅんとなった。セイジは慌ててエリの前に膝をついた。
『エリちゃん、どうしたの? 何かあった?』
アンティークに聞いてもらうと、エリは寂しそうに目を伏せた。
「ビッグのおじちゃん、どこかに行っちゃったの。『やることがある』って……」
「あのアオイの呼び出しか?」
『じゃあ、ビッグさんは今、「巨人の間」にいないのね』
「うん。エリ、おじちゃんにもっと遊んでもらいたかったな。やっと笑ってくれて、嬉しかったのにな……」
――札の呪いが解けた影響か。
セイジはそんな目をカナに向けた。扉の影でカナがうなずく。ヨシタカへの苦手意識がどうしても拭えないようで、まだ部屋の中まで入ってこない。
「お前なぁ……」
「セイジ、あんまりのんびりしてないで」
「……わかってるよ」
セイジはもう一度ヨシタカに目をやった。――つもりが、元の場所にヨシタカはおらず、いつの間にかセイジの横で一緒にしゃがみ込んでいた。
「どわぁっ!?」
「ヒヒッ……アンティークちゃん、久しぶり☆ セイジくんに頼まれた新しいドレスができてるよッ☆」
下の方からのぞき込まれて、アンティークの体が冷たくなった。
『え……えーと……』
「こらヨシタカ! あんま見るな! ……まさかと思うがこの破けたドレス、ほしいとか言いださねーだろうな!?」
「いやだなセイジくん。オレはお人形ちゃんの洋服に興味は……なくはないけど」
「おい」
「だけど本当に興味があるのは!! 洋服を着たお人形ちゃんだ――――ッ!!」
ぐっとこぶしを握って絶叫したヨシタカを、エリが目を丸くして見ている。教育上よろしくないと直感し、セイジはヨシタカの頭にげんこつを入れた。ヨシタカは首をすくめて頭をさすった。
「痛いな~何するんだい?」
「お前の存在自体、子供には刺激が強いんだよ!」
そこでセイジは言葉を切り、深呼吸をした。
一転、真顔になってヨシタカを見る。
「ところでさ。悪いけど例のドレス、早く出してくれないか。…長居できないんだ」
「ん? そうかい? 仕方ないなぁ」
ヨシタカはいそいそと作業台に戻り、ひらりと、真新しいドレスを取り出した。
レースをたっぷりと縫い込んだ、真っ白なドレスだった。
『わ……キレイ!』
「気合い入ってんな……!」
「さっそく着てみてくれよ☆ なんだったら手伝うけど? ウヒヒッ☆」
「お前は絶っっ対に触るな!!」
セイジが怒鳴りつけ、ヨシタカはまたけらけらと笑った。
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