人格 -2-
鐘の音は、砂時計の砂が落ちきるまで続いた。
そして音が止んだと同時に、セイジ達の目の前で、「ガコン」と本棚が割れた。
重い音を立てて、扉のように開いたその向こうは――
「……えーと。どういうことだ、これ……?」
セイジはカナとサトルをふり返り、向こう側を指さした。サトルが首を振り、カナが腰に手を当てた。
「隠し部屋の奥の隠し部屋とは……」
「こっちの小部屋のことだって知らなかったんだから、分かるわけないでしょ」
「だ、だよな。……とりあえず見てみるか」
書庫よりももう少し広い部屋だった。真新しい、立派な机と綿入れの椅子。そしてソファ。印象的には『社長室』か、もしくは。
『「団長室」……だ……』
アンティークが、ため息と共につぶやいた。
「は? 団長室は舞台地下じゃなかったか?」
『だけど、おじいちゃんが使ってた団長室とよく似てるよ。このサーカス館が、まだこんなに大きくなかった頃だけど……』
「それに先ほどの館内放送。あれはユエが流したものではありえません」
3人の視線を受けて、セイジは激しく引きつった。
「さ……さっきのあれって、やっぱ……」
「正式に認められた、ということです。セイジ――あなたこそが、このサーカス団の新団長であると」
「! 冗談!!」
「これも団長が言い残したことです。『新団長の継承を鐘の音が告げる』。ユエも……それは重々承知していたはずです」
そこで、アンティークがはっと息を呑んだ。
『あ……! だからユエは、セイジを殺せなかったんだ!』
「え? な、なんでだ? どっからその話になった?」
通じ合ったらしいサトルとアンティークに、セイジは焦って説明を求めた。サトルは砂時計のある方へ視線を投げた。
「あくまで想像の域ではありますが。……ユエは団長の座を、“正式に”受け継ぎたかったんです。しかし身体の方の用意はできても、この仕掛けをみつけることができず、しかもあなたという正式な後継者が現れてしまった。だから苦肉の策として、ユエが『団長』であると、“あなたに”認めさせたかった――というのはどうでしょうか」
「……そういえば……」
セイジは『死者の間』で、やけにしつこく「団長の座を譲れ」と迫られた。それを考えると、サトルの説には納得できた。
そして同時に、新たな危惧が生まれる。
「つまり……これで、状況が変わったわけだよな。俺が引き受けるかどうかは別として、今度こそ、俺はただの邪魔者だ。……本気で消しにくるんじゃないか?」
セイジは淡々と言ったが、とたんにカナの表情が硬くなった。サトルもまた、真剣な様子でうなずく。
「可能性はあります」
「じゃあのんびりしてられないな。早いとこヨシタカからドレス受け取って、準備しよう」
「準備っていったって……」
カナが後込みするようにつぶやいた。――と、サトルがぴくりと顔を上げた。
「おや……また放送がかかるようですよ」
「え?」
――5つの間を司る者……
ビッグ、セイレーン、コウ、リアラ
話がある。『運命の間』に来てほしい――
「……今の、アオイの声じゃなかったか?」
『死神さん……どうしたんだろう?』
「『運命の間』? 聞いたことないんだけど……?」
ずっとサーカス団にいるはずのカナが首をかしげた。サトルも無言でいる。それなら、とセイジは手で合図する。
「考えても分かりっこないことは後回しだ! 行こう!」
『もう……セイジったら』
アンティークが苦笑した。その後に『おじいちゃんにそっくりなんだから』と続くことは分かっていたので、セイジはアンティークに軽く笑い返した。
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