人格 -1-
ほしかったのは、たった一言だったのに。
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モニター室に呼び出されたアオイは、もう長いこと、じっと椅子に座っていた。
膝にはユエが頭を預けて、離れない。
「ねぇ、アオイ……あなた以外の4人との絆が壊れちゃった……どうしよう……」
ユエは子供がぐずるように繰り返している。アオイは耐えた。アオイの方からユエに触れることは、禁じられている。
「みんなのこと愛してあげてたのに……永遠に一緒になれるはずだったのに! あたしの計画……始めから上手くいくはずなかったなんて……!」
「……」
「ねぇ……! あたしは今まで一体何をしてきたの? 何のためにあたしは……!!」
「『アオイ』は――まだ、ユエのものだ」
叱られるのを覚悟で口にする。ユエの仮面が見上げてきた。
「あなただけ……『人格』の札だけあっても仕方ないのよ……!! 特に『記憶』……! カナちゃんの首があるうちに、もう1度用意するだなんて!!」
「ユエが望むなら、『アオイ』はなんでもする」
そろりと、アオイは手を伸ばした。
「アオイ……?」
「『アオイ』はユエの為に何をすればいい? 『アオイ』が必要だと思ってもらうには、次は何をすれば……」
――その時だった。
――新しい団長が 決定しました
サーカス団のみなさんは
新しい団長に 従って下さい――
鐘の音と共に、ユエの指示ではない放送が流れた。
ユエがアオイから離れ、ふらりと立ち上がった。
「あ……ああ……っ!」
「ユエ……?」
「……セイジくんが、団長室を見つけちゃった……」
アオイには意味が分からなかったが、ユエは仮面をかきむしりながら身をよじる。
「ああああああああぁ!! もう駄目!! もう何もかも終わりだわ……!!」
ユエの手の上に札が現れた。アオイは思わず立ち上がる。
「次の団長、セイジくんに取られちゃった――もう『団長』を作る理由が、ない……!」
「! ユエ、やめて」
「こんなもの……っ!もう意味がない……!!」
札に炎が灯った。
あっという間に燃え上がり、端から消滅していく。アオイは呆然とそれを見守ることしかできなかった。
「『人格』も……もう要らないわ……」
「……!」
「あたしはやっぱり、永遠に独りで生きていくのよ! そう、永遠に孤独なんだわ! あはははははははははははは!!」
札が燃え尽きた。動けずにいるアオイを置いて、ユエはふらふらと歩いていく。
そして部屋を出る間際に、細く、つぶやいた。
「……お願い、誰か……そばにいて……」
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