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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第22章
93/117

砂時計 -5-


   セイジは――夢を見た。


   夢と認識して見る夢だった。それが以前の続きであることも分かっていた。

   目の前に鮮烈な赤が散っている。

   その中に沈む“それ”は見えない。見ることを頭が拒否している。


   大事な人だったのに。

   彼女を失った今、自分は。


   1人――


  『じいちゃん……』


   夢と分かっていても、セイジは暗くつぶやいた。

   甘すぎる誘惑に抗えない。


  『あんたにできることなら、俺にもできるよな?

        アンティークを助けたみたいに……カナも……――!』



         ++++++



「――セイジ……セイジ大丈夫?」

 ぱちりと目を開けたセイジは、かなり近くにカナの顔があったので、少しだけ驚いた。

「ん、ああ……なんとか……」

「あんまりうなされてないでよ。……気になるでしょ」

「起こしたか? 悪かったな」

「別に。もう朝になるみたいだし」

 見ればサトルも目を開けていた。前回ほどには寝過ごさなかったようで、セイジはほっとして、首やひたいの汗を拭った。

『また悪い夢?』

「まあな……ついでに、知りたくなかったことを知ってしまったような――」


             ――ただ、失いたくなくて――


「は? なにそれ」

「いろんなことの“理由”って……案外単純なものなのかな……」

『……?』

 セイジは横に手を振り、「大丈夫」とアピールした。

「なんでもない。さてと……ユエを捜す前に、まずヨシタカのとこ行くぞ、カナ?」

「えっ」

 ぴきっと固まったカナを横目に、セイジは明るい表情を作って立ち上がる。

「アンティークの新しいドレスを頼んでたからな。行く道でこれからの対策、考えようぜ」

「分かりました」

『――あ! セイジ、ちょっと待って!』

 突然アンティークが声を上げ、セイジは踏み出しかけた足を止める。

「どうした?」

『昨日は気がつかなかった……かすかだけど、何か“力”の気配がするよ! ……そこの砂時計だ!』

 セイジは視線を移し、まじまじと、白砂の砂時計を見た。――特に変わった点は見当たらない。

「カナもこれ、見てたよな。何か気づかなかったか?」

「別に何も……」

「しかし、時を止めた砂時計とは。まるで60年間立ち止まったままの、このサーカス団のようですね」

「なに詩人ぶってんだ。……まあもったいないよな、これ。こんなに綺麗なのに……」

 セイジは何気なく手を伸ばした。

 触れて、軽くつかむ。しかし砂時計は固定されているようで、びくとも動かなかった。

 が――代わりに。

「あれ? なんか……光ってないかこれ?」

 慌てて手を離すが、輝きは徐々に増していく。光っているのは中の砂のようだ。

「え、えーと、まずいことしたかな……!?」

『あ……砂が』

 前触れなく、白い砂はさらさらと落ち始めた。

 と、同時に――

『!?』

「えっ、なんだ……鐘の音!?」


            ――新しい団長が 決定しました

               サーカス団のみなさんは

             新しい団長に 従って下さい――


 高く高く、教会の鐘のような音が、サーカス館中に鳴り響いた。

 淡々と流れ落ちる砂時計を前に、セイジ達は呆気にとられて立ちつくした。



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