首の少女 -3-
職人風は大時計の修理中だった。青服の方は、すぐに2人(と1体)に気づき、歩み寄ってきた。
「なあ君、今そっちから来た?」
「……ああ。それが?」
襲ってくる雰囲気ではない。どうもセイジがお尋ね者だとは思っていないようだった。
「さっきアオイがステージの方へ行ったんだよ。舞台でも『死神役』だけど、ほんとにあの人、怖いよ……」
「死神役?」
「あれ、知らない? 君ひょっとして新人? ど素人?」
とたんに馬鹿にした表情になって、団員は得意げに語りだした。
「舞台では、死神に扮したアオイが鎌を振り下ろすと、団員はその演戯をわざと失敗することになってんの。演出のひとつだよ。でもアオイは、普段から鎌を持ち歩いてる。それもいつも血のりがベッタリついてる……」
「普段からって……」
セイジは思わずカナを見た。カナはぷいと横を向いた。
「あーあ、今ステージに近づきたくないなぁ。誰かアオイがまだいるか見てきてくれないかな?」
団員はにこにこ笑いながら、ぽんと、セイジの肩をたたいた。
「と、いうわけでさ。もう一度舞台に行って見てきてよ。代わりにいいものあげるから。……ほら、これ」
渡されたのは紙切れだった。書いてあるのはどこかのURLらしい。
「だから頼むよ。えーと……君名前は?」
「……セイジ」
「そうかそうか、じゃあセイジくん、よろしくね……って!」
さあっと団員の顔色が変わった。
「『セイジ』って、ピエロゲーム対象者の――ぶっ!」
「バカ」
一撃で団員を殴り倒したのはカナだった。くるりとクラブを回し、ため息混じりにセイジを睨みつける。
「自分から襲ってくれって言ってるようなもんじゃない」
「お、お前、意外と強いな……?」
『うん。今のはセイジが悪いよ。別に反応を試してみる必要なんてなかったでしょ』
アンティークにまで責められてたじたじになっていたセイジは、後ろから聞こえてきた忍び笑いに顔だけを向けた。
「なんだよ、笑うなよ」
「いや、悪い。しかし楽しそうだな」
「楽しそうに見えんのかこれ!?」
一言文句した後、セイジは真顔になった。
「あんた……“団員”じゃなさそうだな」
控え室にいたもう1人、職人風のあごひげの男は、金槌を上げてにかっと笑った。
「おう、オレは道具専門さ!大道具から小道具までなんでも任せてくれ! ……ついでにピエロゲームには不参加だから、よろしくな!」
「助かるよ」
「……その時計、いつもあんたが修理してんの?」
カナが口をはさんだ。非難めいた調子に、道具係は頭をかいた。
「何かのついでにちょいちょいな。でもいくら直してもすぐに止まるんだよな。おっかしいよな~。なんか詰まってんのかな?」
「ふうん?」
「親方のゲンさんにも、今度見てくれるよう頼んでおくよ。あんたらも1回会っとくといいんじゃないか。大抵『左脚』にいるから」
「じゃあなー」と言い残して道具係は出ていった。
3人の目は自然と大時計に向けられた。人間が入れそうなくらい大きな、振り子式の古時計だ。確かに針は止まっている。
「ピエロゲームが終わるまでこの時計の中に隠れるってのはどうだろ」
セイジが思いついたまま口にすると、カナが冷たい一瞥をくれた。
「やれば?」
「……いや、冗談だ。無理だろ」
「じゃあ言うな。馬鹿じゃない?」
「……もうちょい優しく言えよ」
『ねぇ、でもこの時計変だ。長針と短針が有り得ない位置で止まってるよ』
「ん?」
セイジは時計を確認し直した。――長針が真上を指し、短針が、9と10のちょうど中間。本来、9時半になってから指す位置だ。
アンティークの言うとおり、少しおかしい。
『誰かが動かしたのかな? もしかして本当にここに隠れてた人が今までにいたとか…』
「ほらみろカナ! 時計の中で過ごした奴がいたかもしれないってよ!」
「あんたがやんなよ。私は知らない」
「お前なぁ」
『ねえ、セイジ……時計の奥に扉がある……』
え、と2人同時に目を見開く。そうして同時にガラスの中、振り子の奥をのぞき込んだ。
「どこだ?」
『左端、よく見て。取っ手みたいのがついてる』
「…あ」
カナも認めた。少し悔しげに顔をしかめるので、セイジは小さく鼻を鳴らした。
「どうだ」
「……ムカつく……」
『まあまあ2人とも。……ここ、人間でも入れそうだよ』
「入ってみるか。いかにも隠し部屋っぽいしな」
「……わかった」
周囲に人がいないことを確認し。
セイジがガラス戸を開いて、取っ手に手をかけた。
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