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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第21章
87/117

記憶 -2-


 アオイの館を後に、セイジ達は重い足を進めていた。

 周囲が陰鬱な灰色の壁なので、よけいに気が滅入ってくる。

「……さて、どうする……」

 セイジはつぶやいた。

 カナはセイジに支えられてなんとか歩いている。サトルがため息をついた。

「まさかユエに、こんな形で先手を打たれているとは思いませんでした。コウの札は……諦めましょう」

「……そうするしかないな」

「アオイの札だけでもなんとか壊せれば……」

 突然、カナがぴたりと立ち止まった。

「……して」

「ん? 何か言ったか?」

「壊して……ここに札があるんだから、壊せばいいじゃない……!」

 カナの身体に力が入った。セイジは慌ててカナの顔をのぞき込んだ。

「カナ、待て。落ち着け」

「呪いなんて断ち切ったほうがいいんでしょ!? この札、壊せば――これ以上コウの記憶がとられることはなくなるんでしょ!?」

「ったって、できるわけないだろ! お前の首が落ちるんだぞ!?」

『カナちゃん、なんとか包帯をとらずに札を壊す方法を考えよう?』

「そんなのないよ。あるわけない! ユエがそんな方法残しておくわけないよ……!」

 顔を上げたカナは、据わった目でサトルを睨んだ。

「ねぇ、サトル。あんた言ったよね? 多少の犠牲を覚悟しないと生きてくことはできないって。今がそういう時なんじゃないの?」

「……」

「もういいよ……どっちにしろ私の首はとられる運命なんだから、それなら今すぐ、この包帯ごと壊してよ!!」

 サトルは静かにカナを見返した。

「……確かに、ユエの計画を阻止するためには、ここでコウの札を壊しておくのが一番確実です。ユエもまさか、私達がカナを犠牲にするとは思ってもいないでしょうから」

「おっ……お前!! 何言ってるかわかってるのか!?」

『サトル!!』

 2人が怒りの声を上げ、サトルはそれに片手を上げて応えた。

「わかっています。こうやって仲間割れしていくのもユエの狙い。こんな状況ではアオイの札も壊せません。……それに私も、カナ、あなたに死んでほしくはないですよ」

「……っ」

 カナがセイジを強く振り払った。

 その手に、ナイフの刃が鈍く光った。

「! 俺のナイフ!!」

「あんた達がやらないなら……自分でやる……!」

「ま、待て、何する気だ!!」

 カナはくるりと背を向けて駆け出し、あっという間に遠ざかった。

「カナ!! 戻ってこい!!」

 後を追おうとしたセイジは、サトルに腕をつかまれた。

「待って下さい、私達が止めたところで、おそらくカナは収まりません」

「だったらどうしろっていうんだよ! 早く落ち着かせないと、あいつ……!」


   ――カナの首。

     あっけなく、ごとりと、音を立てて――


 セイジは思わず身震いした。

 いつか見た悪夢を、わずかに思い出す。一瞬かすめたイメージだけで、恐怖を味わうには充分だった。

「あいつに……何かあったら、俺……!」

「あなたも落ち着いてください、セイジ。……カナが話を聞いてくれそうな人物は、おそらく1人だけです」

 サトルの声に、セイジはばっと顔を上げる。

「誰だそれ!?」

「他に考えられません。札の、張本人ですよ」

「――あ!」

 セイジは勢いよく、アオイの館をふり返った。



         ++++++



 コウはふと身じろぎをして、後ろの壁に頭を預けた。その表情は虚ろだった。

「……あハハ……ユエさん、本気で遊んでくれちゃいましたネ……」

「……」

「笑いたきゃ笑えよ。無理だろうけど」

「お前は……どうしてここにいる……?」

 膝をついてうなだれたまま、アオイがつぶやいた。コウもまだ立ち上がれずに、目だけをアオイに向ける。

「おや、意外。ユエさんに許してもらえるまで、ずっとそのままかと思ってましたヨ」

「答えろ」

「……散歩してたら、セイジさん達がお前のとこに入っていくのが見えたんですけどネ。なんだか嫌なニオイがしたもので、後をつけたんデス」

「……そうか」

「ユエさんに『首』を渡すわけにはいきませんカラ。何があっても……何を引き替えにしても」

 少しだけ、アオイが顔を上げた。

「そんなにカナが大切か」

「……。さてと」

 コウは膝に手を置き、顔をしかめながら強引に脚を立たせた。

「僕はそろそろ行きマス。……お前も元気出しなさいネ。ユエさん気まぐれだから、案外すぐに許してくれるかもしれませんヨ――」

 その時だった。

 扉が押し開けられて、その隙間から、茶髪の男とピエロがなだれ込んできた。かなりの慌てようだった。

「コウ、まだいたか!!」

「ハイ? ……あ、僕のことデスカ」

「ボケてる場合じゃねぇんだ、ちょっと来い!!」

「すみません、コウ――説明は後で!」

 招かれざる客に腕をつかまれたコウは、そのまま引きずられていった。アオイはその後ろ姿をじっと見ていた。

 そしてその気配さえ消えてなくなると、力なく、こぶしで床をたたいた。



         ++++++



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