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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第20章
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血統 -3-


「セイイチ……って……?」

「前の団長のお名前。このサーカス団の創立者であり、『神の手』を持つといわれた凄腕の人形遣い。そして力あるまじない師でもあった……」

 ユエは懐かしむように、セイジを見つめた。

「あなた……こうして見るとそっくりね。あなたのおじいさんに」

「――!?」

 セイジは言葉を失った。

 これまで見て、聞いてきたことが、頭の中で氾濫した。

 ――その、すべての始まりが。

「じいちゃん……が? このサーカス団の、団長……!?」

「そうよ? あなたは次の団長になれる資格を持ってる。だから……あたしにとっては、あなたの存在自体が不都合だったのよ。今さら孫が出てきて団長になっちゃったら、あたしの計画が台無しだもの」

「嘘、だろ……じいちゃんはそんなこと、何も……!」

「事実は事実よ。そうよね、お姉ちゃん?」

『……』

 アンティークが沈黙する。それがセイジには、1番のショックだった。

 そこへユエが、たたみかけるように、甘く囁いた。

「だけどね、セイジくん。『5つの間』を見てきてどう思ったかしら? このサーカス団の団長になりたい? ――イヤなんでしょう? だからあたしが代わりに団長になってあげる。だからあなたもあたしに協力して? そうしたらあなたのピエロゲーム、終わらせてあげてもいいわ……?」

『――セイジ』

 呆然としているセイジの耳に、凛としたアンティークの声が届いた。

 この声を聞いたのは2度目だ。1度目に聞いた時もセイジはぎりぎりの状況下で。

 彼女の言葉に――救われた。

『お願い……後でちゃんと、全部話すから。だから今は迷わないで。あなたのしたいようにして』

 すっと、心が凪いでいくのを感じた。セイジはもう1度ユエを見据えた。

「お前がそう言うなら……な」

「あら、どうするつもりなの、セイジくん?」

 急にユエが不機嫌そうになった。セイジはクロウナイフを構える。

「じゃあ、とりあえず――」

「何をするの?」

「こうだ!!」

 セイジは全力でナイフを放った。それは一直線に、ユエの頭上をかすめていった。

「なぁに、どこを狙って……」

「お前じゃねぇよ」

 とんっ、と刃が壁に刺さった。――コウを縛る蔓の一部を貫いて。

 とたんにナイフは光を発し、蔓も泡も、見る間に打ち消していった。拘束を解かれたコウが、壁によりかかったままずるずると崩れ落ちた。

「もう何だろうと関係あるか。俺はお前を許せない! 『計画』は、絶対にぶち壊す!!」

「……!」

 セイジはもう、畏れを感じてはいなかった。ユエの横を平然と通りすぎ、壁に刺さったクロウナイフを取り戻す。

 そして、キッとユエをふり返った。

「コウの札も、アオイの札も――何があろうと壊してやるからな! 覚悟しとけ!」

「……そう? そんなこと言っていいのかしら……?」

 ユエの口調に余裕が戻った。

 仮面が今度はカナの方を向く。座り込んだままのカナは、びくりと肩を震わせた。

「本当に、コウの札も壊せるかしら? だってそれを持ってるのは、あたしじゃなくてあなたでしょ? ……カナちゃん?」

「……え?」

 セイジも、ばっとカナを見た。

「カナ、お前!?」

「し、知らない! 持ってない!! そんなの持ってたらとっくに……!」

 力いっぱい首を振るカナに、ユエが満足そうな笑い声を上げた。

「ウフフ……保険をかけておいて良かったわぁ……? ねえカナちゃん、覚えてる? 10年前のあの日、あなたは札の儀式を覗のぞいてた。その後……何があったかしら?」

 カナの手が首の包帯に触れた。その動作自体は無意識だったのだろう。

 はっと思い当たった顔をして、カナはみるみる青ざめていった。

「あ……これ……!?」

「そう、コウの札はカナちゃんの包帯に使っちゃった。それでね……? もし、コウの札を壊せばカナちゃんはどうなると思う?」

 ユエの声が楽しげにうわずってきた。セイジは寒気を覚えた。

「ど、どうなるってんだよ……!」

「フフ……知りたい? ――首には呪いをかけてあるの。その包帯をとれば……カナちゃんの首、その場で落ちちゃうわよ?」

「な……っ!?」

『ひどい……!』

「フフフ……あはははははは!! 残念ねぇ……あたしの計画は上手くいく運命なのよ!!」

 ユエはひとしきり哄笑した。

 そして不意に笑いを収めると、セイジを、次いでカナを見た。

「さあて……セイジくんと遊んでいる暇はなくなっちゃったわ。早く『身体』の3人を選び直さないと。それまで『首』はお預けね。ああ、残念だわ……」

「おい、てめぇ……っ!」

 セイジが何事か言う前に、ユエはふわりと、宙に浮いた。

「またね?セイジくん。そしてあたしの『首』――」

 ユエの周囲がぐにゃりと歪んだ。そこへ吸いこまれるように、ユエは消えた。

 ややあって――セイジは、壁にこぶしを打ちつけた。

「あれが、『ユエ』か……!!」

「……セイジ。すみません。手を貸すどころか、動くこともできませんでした……」

 サトルが少しばかり危うい足どりで歩み寄ってきた。セイジは首を振った。

「いや。あんなバケモノ相手じゃ仕方ないって。それよりサトル……コウの手当て、してやってくれないか」

 サトルが、まだ壁にもたれているコウに目を向けた。しかしコウはひらひらと手を振った。

「あー、どうぞお気遣いなく。これくらい慣れてますカラ」

「慣れて、ったって……」

「いいから触らないでクダサイ」

 強い口調で返され、セイジは黙った。

 1つ、ため息をついてから、カナの方へ向かう。

「カナ……しっかりしろ。立てるか」

「……」

 カナは悄然とうなだれている。セイジの声が聞こえているかどうかも定かではない。

 セイジはアオイの様子も窺った。そちらもまるでねじの切れた玩具のような有様だった。

 かける言葉を、思いつけない。

「……。クソッ……!!」

「とりあえず……『左腕』へ戻りましょう。ここにいても何も変わりません……」

 サトルが言って、セイジはやり場のない怒りを押し込め、うなずいた。

「ああ……そうだな……」



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