血統 -3-
「セイイチ……って……?」
「前の団長のお名前。このサーカス団の創立者であり、『神の手』を持つといわれた凄腕の人形遣い。そして力あるまじない師でもあった……」
ユエは懐かしむように、セイジを見つめた。
「あなた……こうして見るとそっくりね。あなたのおじいさんに」
「――!?」
セイジは言葉を失った。
これまで見て、聞いてきたことが、頭の中で氾濫した。
――その、すべての始まりが。
「じいちゃん……が? このサーカス団の、団長……!?」
「そうよ? あなたは次の団長になれる資格を持ってる。だから……あたしにとっては、あなたの存在自体が不都合だったのよ。今さら孫が出てきて団長になっちゃったら、あたしの計画が台無しだもの」
「嘘、だろ……じいちゃんはそんなこと、何も……!」
「事実は事実よ。そうよね、お姉ちゃん?」
『……』
アンティークが沈黙する。それがセイジには、1番のショックだった。
そこへユエが、たたみかけるように、甘く囁いた。
「だけどね、セイジくん。『5つの間』を見てきてどう思ったかしら? このサーカス団の団長になりたい? ――イヤなんでしょう? だからあたしが代わりに団長になってあげる。だからあなたもあたしに協力して? そうしたらあなたのピエロゲーム、終わらせてあげてもいいわ……?」
『――セイジ』
呆然としているセイジの耳に、凛としたアンティークの声が届いた。
この声を聞いたのは2度目だ。1度目に聞いた時もセイジはぎりぎりの状況下で。
彼女の言葉に――救われた。
『お願い……後でちゃんと、全部話すから。だから今は迷わないで。あなたのしたいようにして』
すっと、心が凪いでいくのを感じた。セイジはもう1度ユエを見据えた。
「お前がそう言うなら……な」
「あら、どうするつもりなの、セイジくん?」
急にユエが不機嫌そうになった。セイジはクロウナイフを構える。
「じゃあ、とりあえず――」
「何をするの?」
「こうだ!!」
セイジは全力でナイフを放った。それは一直線に、ユエの頭上をかすめていった。
「なぁに、どこを狙って……」
「お前じゃねぇよ」
とんっ、と刃が壁に刺さった。――コウを縛る蔓の一部を貫いて。
とたんにナイフは光を発し、蔓も泡も、見る間に打ち消していった。拘束を解かれたコウが、壁によりかかったままずるずると崩れ落ちた。
「もう何だろうと関係あるか。俺はお前を許せない! 『計画』は、絶対にぶち壊す!!」
「……!」
セイジはもう、畏れを感じてはいなかった。ユエの横を平然と通りすぎ、壁に刺さったクロウナイフを取り戻す。
そして、キッとユエをふり返った。
「コウの札も、アオイの札も――何があろうと壊してやるからな! 覚悟しとけ!」
「……そう? そんなこと言っていいのかしら……?」
ユエの口調に余裕が戻った。
仮面が今度はカナの方を向く。座り込んだままのカナは、びくりと肩を震わせた。
「本当に、コウの札も壊せるかしら? だってそれを持ってるのは、あたしじゃなくてあなたでしょ? ……カナちゃん?」
「……え?」
セイジも、ばっとカナを見た。
「カナ、お前!?」
「し、知らない! 持ってない!! そんなの持ってたらとっくに……!」
力いっぱい首を振るカナに、ユエが満足そうな笑い声を上げた。
「ウフフ……保険をかけておいて良かったわぁ……? ねえカナちゃん、覚えてる? 10年前のあの日、あなたは札の儀式を覗のぞいてた。その後……何があったかしら?」
カナの手が首の包帯に触れた。その動作自体は無意識だったのだろう。
はっと思い当たった顔をして、カナはみるみる青ざめていった。
「あ……これ……!?」
「そう、コウの札はカナちゃんの包帯に使っちゃった。それでね……? もし、コウの札を壊せばカナちゃんはどうなると思う?」
ユエの声が楽しげにうわずってきた。セイジは寒気を覚えた。
「ど、どうなるってんだよ……!」
「フフ……知りたい? ――首には呪いをかけてあるの。その包帯をとれば……カナちゃんの首、その場で落ちちゃうわよ?」
「な……っ!?」
『ひどい……!』
「フフフ……あはははははは!! 残念ねぇ……あたしの計画は上手くいく運命なのよ!!」
ユエはひとしきり哄笑した。
そして不意に笑いを収めると、セイジを、次いでカナを見た。
「さあて……セイジくんと遊んでいる暇はなくなっちゃったわ。早く『身体』の3人を選び直さないと。それまで『首』はお預けね。ああ、残念だわ……」
「おい、てめぇ……っ!」
セイジが何事か言う前に、ユエはふわりと、宙に浮いた。
「またね?セイジくん。そしてあたしの『首』――」
ユエの周囲がぐにゃりと歪んだ。そこへ吸いこまれるように、ユエは消えた。
ややあって――セイジは、壁にこぶしを打ちつけた。
「あれが、『ユエ』か……!!」
「……セイジ。すみません。手を貸すどころか、動くこともできませんでした……」
サトルが少しばかり危うい足どりで歩み寄ってきた。セイジは首を振った。
「いや。あんなバケモノ相手じゃ仕方ないって。それよりサトル……コウの手当て、してやってくれないか」
サトルが、まだ壁にもたれているコウに目を向けた。しかしコウはひらひらと手を振った。
「あー、どうぞお気遣いなく。これくらい慣れてますカラ」
「慣れて、ったって……」
「いいから触らないでクダサイ」
強い口調で返され、セイジは黙った。
1つ、ため息をついてから、カナの方へ向かう。
「カナ……しっかりしろ。立てるか」
「……」
カナは悄然とうなだれている。セイジの声が聞こえているかどうかも定かではない。
セイジはアオイの様子も窺った。そちらもまるでねじの切れた玩具のような有様だった。
かける言葉を、思いつけない。
「……。クソッ……!!」
「とりあえず……『左腕』へ戻りましょう。ここにいても何も変わりません……」
サトルが言って、セイジはやり場のない怒りを押し込め、うなずいた。
「ああ……そうだな……」




