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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第20章
83/117

血統 -1-



   願わくば いつか、一緒に――



         ++++++



 扉を開いた先は、灰色の空間だった。他の間と同じというだけでなく、もう1度迷路を抜ける必要がないということに、セイジはほっとしていた。

「とっとと戻って、まずはアンティークの新しいドレスを取りに行こうな」

『新しいドレス?』

「ヨシタカに頼んでおいたんだ。あいつのことだからもうできてるかもしれない」

『本当に?』

 アンティークは嬉しそうだった。セイジも軽く笑いかけて、扉を、出ようとした。

「――あっ!!」

「カナ!? どう……うわっ!?」

 突然後ろから両肩をつかまれ、館の中に引きずり戻された。

 音を立てて扉が閉じる。必死で顔を動かすと、サトルもカナも、同じ顔をした亡霊に羽交い締めにされ、それぞれが部屋の隅と隅へ引きずられていた。

「このっ……なんだこいつは!!」

 セイジは腰のクロウナイフを取ろうとしたが、身体が痺れてうまく動かない。

 それでも五感ははっきりしていた。セイジの耳は階段を下りてくる足音を拾った。

 すぐに、『死者の間』の主は姿を現した。

「『アオイ』はユエの望みを叶える。そのためだけに生きている……」

『! さっきまでと様子が違うみたい……!』

「ちょっと! 離してよ、ほんとにしつこいんだから!」

 アオイはまっすぐにカナの方へ向かい――その横を通りすぎて、壁に手を伸ばした。

 取り上げたのは、火のついた松の木切れだ。

「な、なんのマネだ、アオイ!」

「ユエはカナの首をほしがっている。今度こそ……とる」

「!! 冗談やめろよ!!」

「最初から、こうすれば良かった」

 アオイはカナの正面へ回り、眼前に、松明の火を突きつけた。

「……あ……!」

 カナがびくりと震え、目を逸らそうとする。しかし、亡霊がしっかりと頭を押さえつけてそれを許さない。

 瞳に炎が映り込む。カナの顔が、恐怖に歪んだ。

「い、いやだ……! 炎はいやだ! 見たくない……!!」

『カナちゃん!!』

「まずい……!」

「おい! 弱みにつけこむのは卑怯だろ!? やめろって、こら、アオイ!!」

 硬直するカナの前に炎を掲げたまま、アオイは左手でゆっくりと鎌を持ち上げた。

 表情に、言葉に、それまでなかったはずの明確な“意志”を宿して。

「『僕』は、ユエに……捨てられたくない……!」

「や……あ……ッ!」

「駄目だ!! カナ、逃げろ!! 逃げてくれ――!!」

 必死にもがく、セイジの目の前で。


「首……いただく」


 一閃。――赤い色が、奔った。

「……え……」

 カナの小さな声に、セイジはこわごわと目を開けた。

 視界に、赤い髪が映った。

「こ……コウ!?」

『猛獣士さん……!!』

「何をする、離せ……コウ……!」

 コウが片手でアオイの首をつかみ、高々と吊り上げていた。力は恐ろしく強いようで、アオイはその手をはずせずにいる。

 セイジの位置からコウの表情は見えない。

 しかし、聞こえてきた声には本物の殺意が込められていた。

「あんたこそ、何してるんデスカ?」

「カナの、首……ユエに、カナの首を渡さなければ……」

「ほー?」

「ぐぅ……っ!!」

 コウの腕にさらに力がこもった。アオイがもがく。それを見上げる赤い瞳が、ちらりとだけセイジにも見えた。

 それはまさに、獣と炎の王に相応しい眼だった。

「お前がカナの首を落とす前に、俺がお前の首を落としてやるよ」

「お、おい、コウ!そこまでしなくても!」

「コウ……!」

 カナも訴えるように声を上げたが、コウが手をゆるめる気配はない。

「そういう『約束』……だったよな?」

「――……」

 ふと、アオイが抵抗をやめ、目を閉じた。コウはかすかにうなずいた。

「じゃあ――死ねよ」

「コウ! やめっ……!!」


          ――あらぁ……そんなの困るわ……?――



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