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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第19章
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虚ろの死神 -5-


「!!」

 アオイが高く跳躍した。セイジめがけて鎌を振り下ろす。受けきれないと直感したセイジは、カナとサトルを突きとばし、自分も横に跳んだ。


 ガキンッ


 硬い音がして、鎌は半ばまで床に埋まった。セイジはぞっとして叫んだ。

「お前っ……殺す気か!」

「……ユエに、『セイジ』は殺すなと言われている」

「言ってることとやってることが一致してねぇよ!」

 アオイは鎌を引き抜き、ゆらりと体を返した。

「ユエの『身体』が、何者かに壊された。計画を邪魔されたユエの怒りを、感じる。これ以上ユエの邪魔をすることは……許さない!」

 再び鎌を振りかぶったアオイは、とっさに方向を変え、カナが投げつけたクラブをたたき斬った。同時にサトルが銀笛でアオイに打ちかかる。アオイは柄でそれを受け、逆にサトルの胴を蹴り飛ばした。

「うぐっ……!」

『サトル!!』

 セイジも間髪入れず逆方向から斬りつけた。鎌を両断してやるつもりだったが簡単にはいかない。ナイフの刃と鎌の柄がぶつかるたびに、激しく火花が散った。

 突然、アオイが真上に跳んだ。セイジの真正面からメテオが飛来し、鼻先すれすれをかすめていった。

「ちっ」

「こら、カナ! あぶねーな!」

 アオイはアンティークのそばにふわりと降り立った。セイジの身体に緊張が走った。

 が――

「『セイジ』。これ以上邪魔をするな」

「……? アオイ、お前……何やってんだ?」

 『人形を引き裂く』と宣言しておきながら、アオイがアンティークに手を出す気配はない。今、その鎌を横に振り下ろせば――セイジとしてはごめん被りたいことだが――それですむはずだ。

「どうした? ……アンティークを引き裂くんじゃなかったのか?」

「ちょっとセイジ! 余計な挑発は――」

「『アンティーク』……」

 アオイがアンティークを見下ろす。そのまなざしが、不安定に揺れた。

「『アンティーク』は、ユエの半身……ユエの……双子の姉……」

「――え? お前今、なんて……」

「ユエの半身……それを……引き裂く……?」

 アオイから殺気が消える。片手でひたいを押さえ、そのまま動きを止めた。

「もしや……アオイが迷っている?」

「迷う? あいつ、人格がないんじゃ……」

 サトルとカナの声が聞こえ、セイジは自分の頬をたたいた。本当はアオイの言で自身も混乱しているところだ。

 しかし今は、この好機を逃すわけにいかない。

「……アンティークが何者でも! 俺の大切な相棒だ!!」

 セイジは一気に駆けて、アオイに向かいナイフを突きだした。

 アオイはすっと目を上げた。そして――

 それだけだった。

「げっ!!」

 アオイが防御に出ると思っていたセイジは、慌てて身体にブレーキをかけた。

 ナイフの刃は、アオイの胸元ぎりぎりのところで、止まった。

「あ、あぶねぇ……っ!」

「……ユエ、『アオイ』は……どうすればいい……?」

 それでもアオイは、放心したように虚空を見ている。セイジはそろそろとナイフを収め、アオイの様子を注視しながら、アンティークに手を伸ばした。

「アンティーク、返してもらうからな」

『セイジ……』

 足早にアオイから離れると、カナとサトルが両側を守るように移動した。

「今のうちに、一旦出ましょう」

「ああ。……アオイ! お前の札もすぐにぶち壊して、人格戻してやるからな!」

 セイジ達は部屋を出て、黒い扉を閉めた。

 同時に、セイジはアンティークを前に掲げ、服が破けているあたりを確認した。

「傷は……つけられなかったんだな」

『うん。“ボレロ”はとられちゃったけど』

「とりあえず元気そうで良かったよ。……おかえり、アンティーク」

「アン……」

『みんな。ありがとう……』

 セイジはアンティークを抱きしめた。その耳元で、セイジにだけ聞こえるような声で、アンティークが囁いた。

『セイジ。……怖かったよ』

「うん。そうか」

『……あたし、セイジに話さなきゃいけないことがある……』

「俺も聞きたいことがある。でも、それはまた後でな」

「ところで――これではっきりしたことが、1つありますね」

 サトルも普段の落ち着きを取り戻たようだ。後ろの扉をちらりと見て、言葉を繋いだ。

「やはりユエは、セイジに手出しをしたくないようです。『セイジは殺すなと言われている』。アオイが言うのなら本当なのでしょう。これは我々にとって有利な条件です」

「お」

 セイジは喜びかけた。しかしすぐに、疑念が湧いた。

「いや……だけど、それって矛盾しねーか? ならなんで俺をピエロゲームのリストに載せたりするんだよ。あれ基本的には『死ね』ってことだろ?」

『――ひょっとして、ユエも……迷ってるのかもしれないよ? セイジは特別だから……』

 ふとアンティークが言いだして、セイジは瞬く。

「“特別”って……どういう意味だ? お前ユエと、何を話してきたんだ?」

『それは……』

「セイジ。そろそろ行きましょう。『死者の間』から出るまで、安心はできません」

 サトルが話をさえぎった。故意を感じたセイジは、サトルに不審の目を向ける。

 ただ――この場が危険であることは確かだった

「分かったよ……その辺も含めてまた後でな。行こう!」

 その一言を合図に、セイジ達は駆けだした。



         ++++++



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