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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第2章
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首の少女 -2-


「今度は誰だ?てかあいつ、変なニオイしないか?」

『……血と人の腐ったニオイだ……』

「ぐえ!?」

「……なに? 相変わらず血生臭いね。誰かを殺してでもきたの?」

 少女はアンティークの観測を補強し、アオイと対峙した。

「首をよこせ」

「物騒なこと言ってくれるなぁ。私はピエロゲーム対象者じゃないのに。このお兄さん、今回のゲーム対象者だからこの人の首とれば?」

「ちょ……っ! おい!!」

 どん引きしていたところを少女に指さされ、セイジは焦る。

 しかしアオイは、まっすぐに少女だけを見ていた。

「お前の首だ。お前の首がほしい」

「……」

 少女が黙る。

 アオイが間を量るように目を細め、横手に鎌を上げた。

 ――瞬間。

「あげない!!」

 鋭く叫んだ少女がセイジの方へ突進してきた。

 体当たりされたあげく巻き込み気味に引きずられ、セイジも一緒に舞台裏に飛び込む。そのままの勢いで通路を駆け戻り、控え室の手前まで来て、やっと息をついた。

「び、びっくりした……。イキナリなんだよ?」

 少女はぎろりと、横目にセイジを睨んだ。

「あんたが邪魔なとこに立ってるからだ。あー、ほんと邪魔」

『……さっきのアオイって人、すごい殺気だったよ。今のタイミングで逃げてなきゃ、たぶん――』

 少女に代わるように、アンティークが声を震わせた。

 セイジも内心はかなり動揺している。あの青年からは、生者が通常持つ“熱”のようなものが伝わってこなかった。同時に「首がほしい」というのも確かに本気で。

 そんな機械的な殺意は、どんなことをするか分からない――どんなことでもしそうな危うさと恐さがあった。

『首をとるって……どういうこと?』

「あんた達には関係ないことだ」

「こんな強烈な現場に出くわして気にするなっつーのは無理だろ」

「自分の心配だけしてれば?ピエロゲーム対象者のクセに」

『でも……』

 少女はアンティークを見た。少しだけ迷うようにしたのは、この人形がどういう存在か、判断しかねたのかもしれない。

「……あいつに首を狙われるのは初めてじゃない。なんで私の首がほしいのか知らないけど、あんなの全然平気。恐くない」

 それでも、今度はまともに返答した。

「本当かよ……それにしても俺の他にも命狙われてる奴がいるとはな」

「私はピエロゲームなんかには関係ない。それに狙われてるのは首だ。命じゃない」

「同じことだろ?」

 少女は小さくかぶりを振り、首の包帯をおさえた。

「違う。あいつらは私の命がほしいんじゃない。首――頭部がほしいんだ」

「だからどこが違うってんだよ」

『あいつら……?』

 困惑気味のセイジに対し、アンティークは何やら、少女に痛く同情したようだった。

『ね、セイジ。このコと一緒に行動しようよ』

「はぁ?」

『あたし達はこのサーカス館のことよく知らないし、このままじゃ団長さんを見つけられないよ。それにこのコだって、よく分からないけど危ない立場にいるみたいだから、1人より一緒にいたほうがいいよ』

「まあ……そりゃなぁ……」

 もちろんセイジとしても、この状況で彼女を放置していくのは、人としてどうかと思う。ただ問題は、少女がいやがる――というか、もっと積極的に突っぱねてくるのではないかということだ。

 セイジは、もう今にも噛みつかれるのではないかと怯え気味に少女を見た。

「……あんた、団長探してんの?」

 ところが意外にも、少女はそう言っただけだった。

「あ、ああ、俺がピエロリストに載ったのはどう考えても手違いだからな。消してもらうよう言いに行こうと思って」

「なら、あんたが団長に会うまで、一緒にいてやってもいいよ」

 続いた言葉は完全に予想外だった。アンティークの声がぱっと明るくなる。

『本当!?』

「嘘ついたって仕方がない」

「いちいち言い方がムカつく奴だと思ったら意外に協調性があるんだな」

「あんたのがムカつくよ」

 棘のある口調に引っかかりつつ、セイジは改めて少女に向き直った。

「カナ……って呼ばれてたよな?俺はセイジで、この人形はアンティーク」

「『セイジ』ってどこかで聞いたことある気がする……」

 カナは一瞬、遠くを見るようにした。

『セイジの名前を特徴は団員さん達に知られてるみたいだからね』

「……まぁいいや。それよりあんた、私の邪魔だけはしないでよね。足手まといになるようならキッパリ見殺しにするよ?」

「……本当言うことキッツイな」

「ほら、行くよ。団長探すんでしょ」

「あ、ちょっと待て!」

 さっそく控え室へ入っていこうとするカナを慌てて制し、セイジはまず中の様子をうかがった。

 中には青い服の団員と、職人風の男の2人だけだった。――これなら、仮に襲ってきても、カナを守りながらでも対応できる。そう判断して踏み込んだ。



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