虚ろの死神 -3-
「出る?」
「――ああ、ほら。出ました」
「は!?」
女性が指さした先の壁から、ゆらりと白い影が湧いた。人の頭のようだった。
影は見る間に流れ出て、首、肩、胴と続き。最後には、半透明の人間の形になった。
「ゆ、ゆゆゆユーレイ!?」
「落ち着いて」
慌てるセイジの首根っこをカナがつかむ。女性はまた平然と前を見た。
「たまに襲ってくることがありますが、触らなきゃ平気です。無視してください」
くるり、と青白い顔がこちらを向いて、セイジはさらに引きつった。ガラスのような瞳はどこを見ているか分からず、相当に不気味だ。
と、不意にサトルが息を呑んだ。
「あれは……!」
その時、幽霊(仮)がふわりと浮き上がった。
次の瞬間――セイジめがけて、一直線に飛んだ。
「うっ、うわぁっ!?」
「あら?」
ほんのわずかにかすめた二の腕が、ピリピリと痺れた。セイジは思わず叫ぶ。
「普通に襲ってくるじゃねーか!!」
「おかしいですね。こんなことは初めてです。もっとも、私以外の人がこんな奥まで入ってきたのも初めてですが」
「くっそ、幽霊相手にどうしろってんだ!」
「あ……!」
カナが声を上げた。見れば、あちこちの壁から同じように白い影が噴出している。
計5体。
前も後ろも塞がれて、セイジ達は互いに背中を合わせた。
「ほ、ほんとにどうすりゃいいんだ……!」
「落ち着いてってば。あんたしゃべる人形抱いてるクセに、こういうの苦手なわけ?」
「触れないやつはダメなんだよ!」
「! 来ます!」
5体が一斉に、飛んだ。
サトルがベルを打ち鳴らした。薄い光の膜がセイジ達の周りを覆い、間一髪、幽霊(仮)達を弾き返す。
「効いているようですね」
「――それなら!」
カナが器用にメテオを操り、1人、2人と打ち据えた。打たれた者は身をよじり、声も上げずに消えていく。
その場は、なんとかすぐに収まった。
「道具を使えば戦える……どうってことない」
「大丈夫ですか『セイジ』。まだ他にもいっぱいいますから、その調子じゃ心臓もちませんよ」
「うう……」
情けなく唸ってしゃがみ込んだセイジを、カナが後ろから蹴飛ばした。
「アンティーク。助けたくないの」
「それとこれとは話が別だ……って痛ぇ!」
「道具でなら“触れる”。そう思って我慢しなよ」
メテオの球でたたかれた頭をさすりつつ、セイジは浅く息を吐いた。
「わかってるよ……」
「しかし、『幽霊』という表現は的確かもしれません。最初の男には見覚えがありましたから」
サトルが言いだして、セイジは再び、固まった。
「……は?」
「ピエロゲームの、リストNo,42。あなたの2人前の対象者です。他にも知った顔がありましたし、ここにいるのは過去の対象者達の亡霊なのかもしれませんね……」
「あ、私も前からそう思ってました。ピエロゲームがあるたびに、あの幻、増えていきますから」
「!!」
「っ!」
セイジの表情が歪んだ。カナはサトルの足を踏みつけて、噛みつくような視線で「余計なことを言うな!」と云った。
いまだ、前途は多難なようだった。
――光。
まっ暗な中に射し込んできた光。
その中に人影が見える。
ユエがこちらへ歩み寄りながら両手を広げる。
アオイもまた、ユエに向かって手を伸ばす――
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