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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第19章
79/117

虚ろの死神 -3-


「出る?」

「――ああ、ほら。出ました」

「は!?」

 女性が指さした先の壁から、ゆらりと白い影が湧いた。人の頭のようだった。

 影は見る間に流れ出て、首、肩、胴と続き。最後には、半透明の人間の形になった。

「ゆ、ゆゆゆユーレイ!?」

「落ち着いて」

 慌てるセイジの首根っこをカナがつかむ。女性はまた平然と前を見た。

「たまに襲ってくることがありますが、触らなきゃ平気です。無視してください」

 くるり、と青白い顔がこちらを向いて、セイジはさらに引きつった。ガラスのような瞳はどこを見ているか分からず、相当に不気味だ。

 と、不意にサトルが息を呑んだ。

「あれは……!」

 その時、幽霊(仮)がふわりと浮き上がった。

 次の瞬間――セイジめがけて、一直線に飛んだ。

「うっ、うわぁっ!?」

「あら?」

 ほんのわずかにかすめた二の腕が、ピリピリと痺れた。セイジは思わず叫ぶ。

「普通に襲ってくるじゃねーか!!」

「おかしいですね。こんなことは初めてです。もっとも、私以外の人がこんな奥まで入ってきたのも初めてですが」

「くっそ、幽霊相手にどうしろってんだ!」

「あ……!」

 カナが声を上げた。見れば、あちこちの壁から同じように白い影が噴出している。

 計5体。

 前も後ろも塞がれて、セイジ達は互いに背中を合わせた。

「ほ、ほんとにどうすりゃいいんだ……!」

「落ち着いてってば。あんたしゃべる人形抱いてるクセに、こういうの苦手なわけ?」

「触れないやつはダメなんだよ!」

「! 来ます!」

 5体が一斉に、飛んだ。

 サトルがベルを打ち鳴らした。薄い光の膜がセイジ達の周りを覆い、間一髪、幽霊(仮)達を弾き返す。

「効いているようですね」

「――それなら!」

 カナが器用にメテオを操り、1人、2人と打ち据えた。打たれた者は身をよじり、声も上げずに消えていく。

 その場は、なんとかすぐに収まった。

「道具を使えば戦える……どうってことない」

「大丈夫ですか『セイジ』。まだ他にもいっぱいいますから、その調子じゃ心臓もちませんよ」

「うう……」

 情けなく唸ってしゃがみ込んだセイジを、カナが後ろから蹴飛ばした。

「アンティーク。助けたくないの」

「それとこれとは話が別だ……って痛ぇ!」

「道具でなら“触れる”。そう思って我慢しなよ」

 メテオの球でたたかれた頭をさすりつつ、セイジは浅く息を吐いた。

「わかってるよ……」

「しかし、『幽霊』という表現は的確かもしれません。最初の男には見覚えがありましたから」

 サトルが言いだして、セイジは再び、固まった。

「……は?」

「ピエロゲームの、リストNo,42。あなたの2人前の対象者です。他にも知った顔がありましたし、ここにいるのは過去の対象者達の亡霊なのかもしれませんね……」

「あ、私も前からそう思ってました。ピエロゲームがあるたびに、あの幻、増えていきますから」

「!!」

「っ!」

 セイジの表情が歪んだ。カナはサトルの足を踏みつけて、噛みつくような視線で「余計なことを言うな!」と云った。

 いまだ、前途は多難なようだった。



   ――光。

   まっ暗な中に射し込んできた光。

   その中に人影が見える。

   ユエがこちらへ歩み寄りながら両手を広げる。

   アオイもまた、ユエに向かって手を伸ばす――



         ++++++



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