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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第18章
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解放 -4-


「なんだ、それ。どういう意味だ……?」

 “A”は苦しげに目を閉じた。その様子が、過去を明かした時のゲンに似ていると、セイジはふと思った。

「サトルさんはご存じでしょうが……サーカス館の北には共同墓地があります。身よりのない死者が葬られる場所です。そこには誰も寄りつかないので、時折、死体だけでなく――望まれずに生まれた子供が、捨てられることがありました……」

 重い重い空気の中で。

 “A”は訥々と、語り続ける。



   ――カナさんが来て間もない頃

   ユエ様が、その共同墓地から2人の子供を連れて戻られました

   まだ赤子に近いような子達でした

   ですがユエ様は、本当に嬉しそうにおっしゃったのです――


  『この2人、団員としてあたしが育てることにしたわ

   どうしてって?

   だって信じられる?

   あの子達――あの共同墓地で、今まで“生き延びて”きたのよ……!?


   ほら、見て……なんていい目をしてるのかしら

   これならこのサーカス団を駆け上がれる

   フフ……楽しみだわ……』


   それからユエ様は、1人を猛獣の檻に放りこみ、

   もう1人を、団員の遺体を一時置くための『死体安置場』に閉じこめました

   彼らは身を裂かれ、心を壊されていきました

   私はそれを……近くで見ていながら、何もしようとはしなかった……



「それが……コウと、アオイなのか?」

「……コウ……!」

 ショックを受けた様子のカナの肩を抱いて、セイジはきつく眉根を寄せた。

「アカネから受け取ったビデオ、見たよ。そういやちっさいコウが言ってたな。『自分は5人の1人に選ばれていることを、先にユエから聞いていた』。つまり――あの2人は、最初から……?」

「……私も一度だけ、ユエ様に聞いたことがありました。どうして彼らにそんな仕打ちをするのかと――」



            ――人間を作るには身体が必要ね。

          でも、団長を作るには、身体だけじゃだめ

            それに伴う中身も必要なのよ――



「その時は意味がわかりませんでしたが、そのうちにわかってきたんです。様々な恐怖を経験したことによって、恐れを感じない『記憶』。そして、どんな恐怖も受け入れられるような、限りなく無に近い『人格』。ユエ様はそれを得るために、あの2人を……」

「『記憶』の器がコウ、『人格』の器がアオイ――ということですか」

「……とんでもねぇな……!!」

 もはやどこに怒りを感じているのかさえ分からなかった。

 セイジは2人の姿を思い返す。特にアオイは、“A”の話と結びつけてようやく、本当の姿が見えたようだった。

「セイジさん、お願いします! 残る2枚の札を……2人を、解放してやってください……!」

 “A”が懇願するようにセイジを見て、深々と頭を下げた。セイジは力いっぱいこぶしを握りしめた。

「言われなくたって!」

「まあ問題は、どっちか1枚の行方が今も分からないってことなんだけどね~☆」

 話の腰を折るヨシタカの横槍に、セイジはカチンときた。

 言い返そうとして――しかしすぐに、それが正論だと気づく。

「そうだ……! そういや、今ユエが持ってるのは1枚だけって、BBSでも……」

「『計画』の要だからね。オレ達も札のことは全力で探ってきたさ☆ だけど最後の1枚だけどうしても見つけられない。どこからも情報が出てこないんだよね~……」

 初めて見る、ヨシタカの苦い表情だった。セイジはヨシタカを窺った。

「お前も……何か理由があって、ユエの計画を邪魔しようとしてるんだよな……?」

「ん~、まあね☆ オレの場合は、ちょっとあいつに仕返ししてやりたいっていうだけだけどね☆」

 聞いていいものかと迷っていたのだが、ヨシタカの方は、あっさりした調子で続けた。

「オレさ、本当は4つ子なんだよねッ」

「……は!?」

「だけど兄弟3人が、ピエロゲームでユエにヤられてね。まぁあいつらだって、金品盗んだりあやしげな薬持ち込んだり、ろくでもなかったんだけど? オレとしてもやっぱり思うところはあるわけでさ~?」

「……」

「もっと前から管理人の人形作りは請け負ってたんだけど、3人目がヤられた時に、さすがに頭に来ちゃって☆ それで彼女を手伝うことにしたんだぁ」

「――彼女? 管理人て女なのか?」

「おっと、口がすべったね☆」

 ヨシタカはにやにやと笑っている。セイジは、ここでは追及しないことにした。

 代わりに、ヨシタカの目の前まで歩いていくと、『玩具の間』でもらってきた人形を突きつけた。

「ほらよ、約束の人形だ」

 ヨシタカは、カッと目を見開いた。

「そっ……それはリカちゃん人形!! 着せ替え人形の王道じゃないか!!」

「今度こそ、アンティークのドレスを作ってくれるよな? 帰ってきたら……すぐに着せてやりたいんだ」

「OK、バッチリ文句なしだ☆ ヒヒ……何を作ってあげようかなッ☆」

 人形を手に取ったヨシタカは、嬉しそうにそれを掲げて立ち上がった。それを眺めながら、セイジは左腕をわずかに揺らす。

 ――軽い。

 あまりに軽くて不安になる。考えてみれば、これだけ長い間離れていたのは初めてだ。

「……アンティーク……」

 セイジがつぶやいた、その時だった。

 突然鳴り響いた警報音に、ヨシタカを除く全員が、はっと顔を上げた。



             ――リストNo,44『セイジ』

         死者の間にて、『人形』がお待ちしております――



「!! な、なんだ!?」

「ユエがしびれを切らしたのかもしれませんね。直接指示をしてくるとは……何が何でも、あなたを『死者の間』へ行かせたいようだ」

 サトルが宙を睨んでいる。カナが、何かを追いやるように強く頭を振ってから、セイジを見た。

「……行くの?」

「アンティークが待ってるとか言われちゃな」

「アオイだってユエの“人形”だ。待ってるのはアオイだけかもしれない」

「それならそれでもいいさ。情報集めもここらで打ち止めっぽいし。そろそろ……我慢の限界だ」

 目つきを鋭くしたセイジの胸に、カナが突然、軽いパンチをくれた。

「なんだよ?」

「今度は……ちゃんと止めるから」

 3枚の札と『身体』を前にした時。暴走したセイジを止められなかった――

 そのことを言っていると気づくまでに、少し時間がかかった。

「……ああ、そうしてくれ。殴ってくれてもいい」

「変態」

「おいちょっと待て、さすがにそれはひどくないか」

「殴って止まらなかったら、今度こそ見捨てるからね」

「わかったわかった」

「――ではセイジ、このまま『死者の間』へ?」

 サトルが例のごとく確認してきた。セイジはやっと普段の調子を取り戻した気分で、答えた。

「よし、行こう。……さっさとアンティークを取り戻すぞ!」



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