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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第17章
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身体 -3-


 となりの人形の部屋を捜し歩き、1体の人形を選びだしたセイジ達は、『玩具の間』を出た。

 とそこで、目の前に立ちふさがったのは。

「ピエロゲーム対象者『セイジ』! 今日こそお前ヲゴハッ!」

 例のマジシャンを含め6人の団員達だったが、カナの『メテオ』があっという間に全員をなぎ倒した。周辺にいた他の数人は、遠巻きに見ているだけだった。

「……そういやこの先にある小部屋だったな。札の……儀式? だかやってたのって」

 たった今の襲撃にはノーコメントのまま、セイジは『左腕』出口近くの扉の前で立ち止まる。

 カナ(小)の目線で間近に見たものだ。ビデオに映っていたより古びて汚れているが、装丁は変わらない。しばしの無言の後、セイジはおもむろにドアノブを握った。

「入るの?」

「ちょっと見ておいてもいいんじゃないか。お前も何か思い出すかもしれないし」

 そっと開けると、中はどうということはない、がらんとした空間だった。調度品もなく、ちょっとした観葉植物があるくらいだ。

 しかし。どうにも強い違和感があり、セイジは部屋の中央で立ちつくした。

「……なんだ、この感じ……?」


 ――――――ィィイン……


「! セイジ……ベルが鳴ってる」

「あ?」

 違和感の正体は“音”だった。セイジがズボンの後ろに差していた、『玩具の間』のベル。それが何かに共鳴して微かな音を立てている。

 サトルが「失礼」とベルを取り、部屋の壁にそって歩き出した。

 音は徐々に大きくなり――ついに、ある1個所で「カラン」と大きく鳴いた。

「……この場所に、強いまじないがかかっているようです」

「まじない探知機!?」

「少々気になりますね。例のことがあった場所だけに……」

 サトルが壁に触れた。とたんにバチッと大きな音がして、サトルの手は弾かれた。

 セイジとカナも近くへ寄っていった。

「こんなとこにまじないなんて、確かに変だな。破ってみるか?」

「ほんと簡単に言うよね、あんたって」

 顔をしかめるカナを横目に、セイジはクロウナイフを抜き、迷わず壁に突き立てた。

 瞬間――

「いっ!?」

 猛烈な風が室内に吹き荒れた。と同時にバチバチと火花が走り、ゆらりと、扉の形の影が現れる。

 とはいえまだ“見える”だけで、開く気配はまったくない。

「ちょ、これっ……洒落にならねぇ……っ!!」

「――当たりかもしれません!」

 サトルがベルをかざした。脳を貫くような高い音が響きわたり、風の勢いを殺す。

 扉の影がぶれるように揺らぎながら、少しずつ、輪郭をはっきりさせていく。

「カナ、メテオを! 扉を打ってください!!」

 サトルが叫び、カナも即座に反応した。

 球の部分を直接手に持ち、投げつける。球は“流星”のごとく扉の影へと流れ――

 爆発的な音と光を、放った。

「……ど、どうなった……?」

 少しして、セイジはおそるおそる目を開いた。

 強い光にさらされた視界はまだちらついている。が、何もなかったはずの木目の壁に、銀色の扉が出現していることは分かった。

 セイジは扉に触れてみた。抵抗は、もうない。

「ここまでやったんだ。……開けるしかないよな?」

 視力も戻った。カナが何か言いたそうな顔をしていたが、セイジはかまわず扉を押した。

 その奥の間は――異様な気配に包まれていた。

 床一面に高級そうな絨毯が敷き詰められている。部屋の奥は1段高く造られて、木製の手すりに囲われている。ただし窓はなく、光源は両側に据え付けられたランプだけだ。

 そして。

「な、なんだこれ……!?」

 ちらちらと揺れる光が照ら出していたモノは。


 ――首のない、『人間の身体』だった。


 セイジ達は呆然と“それ”を見た。包帯で隙間なく巻かれた腕、脚、胴の各々に、血のような赤い文字の書かれた札が貼ってある。

 見ているだけで吐き気を催すような、異様な物体だった。

「『両腕』、『両脚』、『胴体』――ユエが集めたパーツ、ですね……」

 やっとのことでサトルが言った。セイジは口元を押さえて呻いた。

「じゃあ、この3枚の札が……」

「恐らく身体を構成する3人、ビッグとセイレーンとリアラの札」

「……。『札は5つのパーツを結合するもの』、だったか」

「その話が事実なら、ですが。札を壊せばこれらが結合することはなくなるはず。ユエは団長となるべき“身体”を維持できなくなります」

「何にしても、札が重要だってのは確かだからな」

 セイジはクロウナイフを逆手に持ち直し、ゆっくりと、段差を上がった。

「……壊すぞ。こんなふざけた計画放っておけるか!」

 セイジはまず、腕に張られた札を裂こうとした。

 と――突然『腕』が震えだし、不気味な唸り声を発した。

 そこに含まれているのは“怒り”のようだった。その余波は瞬く間に、『脚』と『胴体』にも伝わった。

「何それ、生きてんの……!?」

「な、なんかそう見えるな」

「これから『身体』として使おうとしていたものです。不思議ではありません」

「え!? じゃあこれ、札さえ壊せばビッグ達に返せたりとか――」

「それは無理でしょう」

 きっぱりと、サトルは否定した。

「1度切り離したものを、元に戻すことはできません。それからセイジ。それが本当に『生きている』などと思わないでください。それに命があるとは言えない……吹き込まれたユエの力が反応しているだけです」

 セイジはもう1度『身体』に向き直った。

 その口元に、不敵な笑みが浮かんだ。

「そうか。つまり……遠慮なくやっていいってことだな?」

 言うやいなや、両手でナイフを構え、勢いよく振り下ろした。

 ドンッと衝撃が広がった。カナとサトルが強く煽られてよろめいた。

 しかし、刃はまだ『身体』に届いていない。薄い膜のようなものが『身体』を覆って守っていた。それを突き破ろうと、セイジは満身の力を込める。

「くっそ……届け……!!」

「セイジ、大丈夫ですか!」

 ベルの音が鳴り響く。周囲に広がる衝撃波は弱まった。しかしナイフを押し返す手応えは変わらない。

 むしろ抵抗は強くなり、バチバチと痺れるような感覚さえ伝わってきた。

 それでも――セイジは。

「いい加減頭にきてんだよ……こんなもので……」

 高ぶっていく心と共鳴するように、クロウナイフが光を帯びた。

 虹のような7色の光。それが刃をひとまわり大きく見せて。

「勝手に人を、縛るんじゃねぇよ……!!」

 ナイフが沈み始めた。膜が弾け飛ぶ。次いで刃が『胴』に達した。

 『身体』を覆う包帯に、光の亀裂が走った。あっという間に末端まで広がったそれは、内から輝きを増していく。

 そしてセイジは、残る力をふり絞るようにして、叫んだ。


「もう、消えろ!! 呪いごと連れて行け!!」


 光が一気に噴出した。

 『身体』が端から崩れだす。さらさらと光の粒に変わりながら消えていく。その残滓さえ、すぐに宙に溶けてなくなった。

 あとには、何も残らなかった。

「……や……った……?」

「セイジ!!」

 終わったと認識した瞬間、セイジはどさりと倒れ込んだ。カナとサトルが駆け寄ってくる気配がして、強く肩を揺さぶられる。

「か、カナ、あんま動かさないでくれ」

「意識はあるんですね」

「ああ、けど……力が入らねぇ……」

 サトルがセイジを抱き起こし、それだけはしっかりと握ったままの右手を、ナイフからはがしていった。

「おそらく身体が驚いたのでしょう。急にあれほどの力を放出したんですから……」

「へ?」

「正直、私も驚きました」

 セイジはよく分からないまま、やっと感覚の戻ってきた腕を上げ、手をかざした。

「まあ……とにかく、札3枚壊したな。これで何か、変わったのか……?」

 ビッグ、セイレーン、リアラを順に思い浮かべる。

 今のところ、どうなっているかは見当もつかなかった。



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