身体 -2-
「クマ?」
「ハンドルネーム『くま』って! BBSにユエのこととか、ユエの計画について書き込んできた奴――」
突然、サトルの手がセイジの口を塞いだ。目の前で首を振られてセイジもはたと我にかえる。
「わ、悪い」
「約束の時間が早まったようですね。そちらへ向かってみますか?」
「……そうするか」
セイジがふり返ると、カナがなんともいえず酸っぱい顔をしていた。セイジはその肩をぽんぽんとたたいた。
「たのむ、我慢してくれ。あの男の話は聞いておかなきゃだろ。……あ、あとリアラ、悪いんだけどあと2つだけ、たのみごとしてもいいかな」
「あ……」
セイジが目を向けると、リアラが怯えたように肩を震わせた。
きょとんとしたセイジの前に、カナが回り込んできた。と思うや、両頬をつままれ左右に引っぱられる。
「い、いででででっ!」
「変な顔」
「っておい、何すんだよ!!」
セイジは乱暴にカナの手を払った。リアラがびくりと身を縮めた。
カナは――じっとセイジを見上げてきた。
「ピリピリしすぎ。サトル、あんたも。……セイジのこと襲ってくる団員みたいな目になってるよ。鏡、見てみれば」
「……あ……」
セイジははっとした。自覚のないまま全身に入っていた力が、不意に抜けたようだった。
カナが1歩後ろに下がった。
「人形のこと、心配なのは分かるけど……」
セイジは祖父がしばしば言っていたことを思い出し、大きく息を吐いた。
「『頭に血が昇っていては、正しい判断はできない』か。そりゃそうだよな……」
「ちょっとは頭冷えた?」
「いや。でも……テンパってる自覚はしたよ。ありがとなカナ」
セイジは頭をかき、改めてリアラを見た。
「えーと。ごめんな?」
「い、いえ、私こそ……あの、それで『たのみ』って……?」
「ああ。パソコン少しだけ使わせてもらっていいかな。サーカス団のホームページを調べたくてさ」
「もちろん、どうぞ」
リアラはほっとした様子で椅子を譲ってくれた。セイジは拝む形に手を上げて、ホームページを立ち上げた。
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●(No title) HN:セイジ
「呪われた5つの札」というものについて、
なにか知ってる人がいたら教えて下さい。
それから…
この掲示板では対象者も非対象者も
関係なく情報交換できるのでは?
「R」さんを批判するのはやめて下さい。
>Re:(No title) HN:匿名希望
ゲームが始まってもう数日。
たくさんいる団員に狙われながら、誰も殺さず
いまだ生き続ける姿に感動しました。
こうなったらもう最後まで逃げ切ってください!
ところで札のことですが、
それらしいのを1度だけ見たことがあります。
団長が大事そうに持ってたけど……
でもたしか、1枚だけでしたよ?
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「お。味方が増えた!」
「……ユエが、札を1枚だけ持ってる……」
「残りの4枚はどこかに隠してあるということでしょうか。だとするとどこに……」
セイジ達は一斉にリアラを見た。しかしリアラは、申し訳なさそうにかぶりを振った。
「知らないの。ごめんなさい……」
「……。まあそんな、すぐ見つかるようなとこには隠してないだろうな」
セイジは腰を上げた。1回息を吸って、吐いて。
「じゃあせっかく連絡もらったし、ちょっと話を聞きに行ってみるか。――てわけでリアラ、今から会いに行く奴にたのまれててさ。となりの部屋の人形……1つだけ、もらってっていいか?」
リアラももう、怯えている様子はなかった。
「はい、いいですよ。お好きなものをどうぞ」
「助かる。いろいろとありがとうな。もうあんまり迷惑かけないようにするからさ」
「迷惑なんかじゃないです。たよってもらえるのは……すごく、嬉しいから。またいつでも来てね」
言葉を切ったリアラは、ちょっとだけサトルを見た。
「いつでも、待ってるから――」
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