首の少女 -1-
それは 始まりにして、最後の仕上げ。
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途中何度か団員に遭遇し、それをたたきのめしながら通路を抜けると、行き止まりの左右に扉が見えた。
「ここはステージか」
『そうみたいだね』
興味を引かれ、上手側から入ってみることにする。
舞台袖の垂れ幕を開くと、そこは別世界だった。
公演期間外なので、照明はない。にも関わらず、柱が、床が、きらきらと宝石のように輝いている。
『綺麗……!』
「いつかここで演戯できたら気持ちいいだろうな」
一歩、足を踏み入れた。するとアンティークの注意が舞台中央に向いた。
『誰かいる……』
セイジも人影には気づいていた。ただ、向こうはくるくるとクラブを投げ上げるのをやめようとしない。
――いや。もう一歩セイジが近づこうとしたところで、すとんと手の中に3本すべてを収めた。
「……邪魔。出ていって」
髪を肩までで切りそろえた、17、8才くらいの少女だった。怪我でもしたのか、首に白い包帯を巻いている。険のある口調と表情だが殺意は感じられない。
「え、あ、悪い。練習中だったのか」
「あんた新人? 新人は廊下で練習でもしなよ」
『セイジのこと知らないのね』
アンティークが言う。と、少女がちょっと目を見開いた。
「人形が喋った……。新人のクセに、あんた腹話術うまいじゃん」
『!! あたしの声が聞こえるの?』
「そんな! 俺以外は聞こえないはずだ。今までそうだったんだからな」
驚いたのはセイジも一緒だ。
しかし当の少女はとりたてて興味を示さなかった。
「腹話術じゃないの? まぁどっちでもいいや。このサーカス館にはもっとバケモノみたいな人間がうようよいるしね」
『ピエロゲームのこと知らないのかな?』
「ピエロゲーム?」
アンティークが『しまった』という気配を放つ。セイジは一瞬身構えた。
それでもやはり、少女は平然としていた。
「あぁ、アレまた始まったんだ。なるほど、あんたが今回の対象者ってワケか」
「お前も俺を殺しにかかるか?」
「別に。あんたが死のうが生きようがどうでもいいし。それよりあんた、私の話聞いてた?」
「? 聞いてるだろ?」
「聞いてないよ。私は最初に『出てけ』って言ったんだ」
少女は、クラブをセイジの方へ突きつけた。
「ケガしたくなきゃ、あんたの抱いてるそのキャサリンちゃんと一緒にさっさと出ていって」
「……アンティークだっつーの」
言い返したものの、本当にどうでもよさそうな様子に安堵する。
そしてそのまま、少女の気が変わる前に立ち去るつもりだった。
が――
「いた……カナ……」
セイジはばっとふり返った。
下手側から別の人影がゆっくりと歩み出てくる。少女が半歩後ずさった。
「アオイ……!」
顔が見える距離まで来たところで、相手は立ち止まった。銀色の髪に青い瞳。セイジの目にもなかなかの美青年と映った。
ただし、白い。「白皙の」という表現でもまだ甘い。
ほとんど「死体のような」青白い顔だ。同じ色の手には、にぶく光る大ぶりの鎌を手に携えている。いくらなんでも不気味すぎだった。