罰 -4-
「な、何を……?」
「ユエの居場所ですよ。ユエが今どこにいるか……『5つの間』の5人なら、本当は知っているのでは?」
リアラはぱっと、手で口を押さえた。
視線が泳ぐ。唇から、か細い声が漏れた。
「知ってる……けど、言えないの。『セイジ』が5つの間を全部まわるまで、言ったらだめって、ユエ様が……!」
「それはなぜです? ……普通であれば、ゲーム対象者はリストに載ると、ほとんどその日のうちにユエから制裁を受けていました。セイジがいまだ無事なのも不自然ですね」
サトルは上からリアラの顔をのぞき込んだ。
「アンティークが連れて行かれたことも、それと関係があるかもしれない。ユエは一体何を企んでいるんですか?」
「し、知らない……!」
「私の頼みでも言えませんか」
「本当に知らないの! 信じて!!」
「おいサトル、もうやめろって」
見かねたセイジは2人の間に割って入った。サトルの手を外してやると、リアラは2歩3歩と下がってうつむいた。
「ごめんなさい……!」
「謝らなくていいよ。……サトル、急にどうした? お前らしくないぞ?」
「セイジ、あなたこそアン――アンティークのことが心配ではないのですか」
「心配じゃないと思うか……?」
軽く睨むと、サトルも黙った。セイジは大きく息を吐いた。
「大丈夫だ。まだ、今のとこ……アンティークは生きてる……」
言い切ったセイジを、サトルとカナが不審げに見た。
「なんで分かるの」
「ああ。昔っから一緒にいるせいかな。アンティークの気配っていうか魂っていうか……なんとなく感じるんだ。消えれば、分かる。……俺はアンティークを信じるよ。きっと無事でいてくれてる」
じりじりと胸が焦げるような焦燥感を押し殺し。
セイジはまっすぐ前を見る。
「もう行こう。次の『死者の間』で、『5つの間』は最後だろ。……なんならアオイをとっつかまえて、アンティークの居所を聞き出してやる」
「そんな、簡単に言うけど……」
強くないカナの反論に、セイジはなんとか笑って見せる。
「やるしかないんだ。やってやるさ」
「……」
「けど、どうするかな。このまま『死者の間』に行くべきか、先に情報集めとくべきか。……あ、サトルはまだ知らないよな。“A”と話ができそうなんだ。それとビデオ。リアラが古いのを持ってて、借してもらった」
――こうして話している間にも、『死者の間』に向かいたい。
セイジの本音はカナもサトルも分かっているだろう。しかもアオイは、これまでと違って、このサーカス団の絶対的支配者と繋がっていることが確実だ。
しかし――だからこそ、軽率に動くわけにはいかなかった。
「そう……ですか。やはりここには機器があったのですね」
「ただ、さっきリアラが言ってたことは気になるな。俺が『5つの間』をまわり終えるのをユエが待ってるって? どういうことだろうな?」
「わかりません、が……ユエの意図がはっきりしない以上、思惑通りにことを進めてしまうのは、やはり危険かと……」
「……やっぱそうなるか……」
重くなりかけた空気を払うように、セイジは冗談めかして提案した。
「“A”との約束までは時間があるからな。まずはお前の部屋で鑑賞会でもするか?」
「――残念ながら。それは不可能です」
サトルが静かに首を振った。セイジもすぐに気がついた。
「あ、そうか。アオイに襲われたってことは……」
「あの部屋はもう使えません。すでに人目を避けられない状態でしたので、中をすべて、破壊してきました」
「安全地帯が1つ減ったってことか……」
セイジは唸った。残るはゲンのところと、ヨシタカのところくらいか。とはいえゲンの工房は、ユエを相手にした場合、とても安全とは言えないだろう。ヨシタカの部屋も人目にはつきやすい。何度も出入りすればすぐに怪しまれてしまう。
「さて、どうするか……」
「……あ、あの……!」
リアラが、思い切ったように声を上げた。セイジが目を向けると、かたかたと震えながら、組んだ指を強く握りしめている。
「ど、どうしたんだ?」
「あの、私……知ってます」
「え、何を?」
「……秘密の部屋……たぶんあそこなら、ユエ様もご存じない……はず」
リアラはセイジの左手を取った。手の甲を上にして、まずくすり指を示す。
「ここには、この『玩具の間』とは別に、小さな部屋があるの。前からそういう気配は感じてたんだけど……少し前に、ララが見つけてくれました。扉を開ける順番は……こう……」
合計4回、リアラはセイジの指に触った。心の中で復唱してから、セイジはリアラを見る。
「ここなら、安全なのか?」
「はい。そのはず……です。ララが見てきた限りでは、ユエ様の手を入れられた跡、なかったから」
セイジ達は顔を見合わせた。
「……行ってみるか。無駄ってことはないだろ」
「そうですね」
「ありがとうな。でも……よかったのか?」
いまだ震えながらも、リアラは、はっきりとうなずいた。
「私こんなだから、これ以上、他の4人に迷惑かけたくなかった。だけど……サトちゃんが危ない目にあうのは、もっとイヤ……!」
1つうなずいてから、セイジはひじでサトルをつついた。サトルは珍しく、少し戸惑った風だった。
「……リアラ、先ほどは怖がらせてすみませんでした。ありがとう」
するとようやく、リアラに笑みが戻った。
「ううん。サトちゃんの役に立てたなら、嬉しい……!」
「よし、じゃあ行くか!」
セイジは気力を奮って明るい声を上げた。
「リアラ、ララによろしくな。直ったら……一応あやまっといてくれ」
「! ……うん……!」
リアラが笑顔で手を振った。セイジはビデオカメラを片手にリアラの部屋を出た。
++++++




