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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第15章
66/117

罰 -4-


「な、何を……?」

「ユエの居場所ですよ。ユエが今どこにいるか……『5つの間』の5人なら、本当は知っているのでは?」

 リアラはぱっと、手で口を押さえた。

 視線が泳ぐ。唇から、か細い声が漏れた。

「知ってる……けど、言えないの。『セイジ』が5つの間を全部まわるまで、言ったらだめって、ユエ様が……!」

「それはなぜです? ……普通であれば、ゲーム対象者はリストに載ると、ほとんどその日のうちにユエから制裁を受けていました。セイジがいまだ無事なのも不自然ですね」

 サトルは上からリアラの顔をのぞき込んだ。

「アンティークが連れて行かれたことも、それと関係があるかもしれない。ユエは一体何を企んでいるんですか?」

「し、知らない……!」

「私の頼みでも言えませんか」

「本当に知らないの! 信じて!!」

「おいサトル、もうやめろって」

 見かねたセイジは2人の間に割って入った。サトルの手を外してやると、リアラは2歩3歩と下がってうつむいた。

「ごめんなさい……!」

「謝らなくていいよ。……サトル、急にどうした? お前らしくないぞ?」

「セイジ、あなたこそアン――アンティークのことが心配ではないのですか」

「心配じゃないと思うか……?」

 軽く睨むと、サトルも黙った。セイジは大きく息を吐いた。

「大丈夫だ。まだ、今のとこ……アンティークは生きてる……」

 言い切ったセイジを、サトルとカナが不審げに見た。

「なんで分かるの」

「ああ。昔っから一緒にいるせいかな。アンティークの気配っていうか魂っていうか……なんとなく感じるんだ。消えれば、分かる。……俺はアンティークを信じるよ。きっと無事でいてくれてる」

 じりじりと胸が焦げるような焦燥感を押し殺し。

 セイジはまっすぐ前を見る。

「もう行こう。次の『死者の間』で、『5つの間』は最後だろ。……なんならアオイをとっつかまえて、アンティークの居所を聞き出してやる」

「そんな、簡単に言うけど……」

 強くないカナの反論に、セイジはなんとか笑って見せる。

「やるしかないんだ。やってやるさ」

「……」

「けど、どうするかな。このまま『死者の間』に行くべきか、先に情報集めとくべきか。……あ、サトルはまだ知らないよな。“A”と話ができそうなんだ。それとビデオ。リアラが古いのを持ってて、借してもらった」

 ――こうして話している間にも、『死者の間』に向かいたい。

 セイジの本音はカナもサトルも分かっているだろう。しかもアオイは、これまでと違って、このサーカス団の絶対的支配者と繋がっていることが確実だ。

 しかし――だからこそ、軽率に動くわけにはいかなかった。

「そう……ですか。やはりここには機器があったのですね」

「ただ、さっきリアラが言ってたことは気になるな。俺が『5つの間』をまわり終えるのをユエが待ってるって? どういうことだろうな?」

「わかりません、が……ユエの意図がはっきりしない以上、思惑通りにことを進めてしまうのは、やはり危険かと……」

「……やっぱそうなるか……」

 重くなりかけた空気を払うように、セイジは冗談めかして提案した。

「“A”との約束までは時間があるからな。まずはお前の部屋で鑑賞会でもするか?」

「――残念ながら。それは不可能です」

 サトルが静かに首を振った。セイジもすぐに気がついた。

「あ、そうか。アオイに襲われたってことは……」

「あの部屋はもう使えません。すでに人目を避けられない状態でしたので、中をすべて、破壊してきました」

「安全地帯が1つ減ったってことか……」

 セイジは唸った。残るはゲンのところと、ヨシタカのところくらいか。とはいえゲンの工房は、ユエを相手にした場合、とても安全とは言えないだろう。ヨシタカの部屋も人目にはつきやすい。何度も出入りすればすぐに怪しまれてしまう。

「さて、どうするか……」

「……あ、あの……!」

 リアラが、思い切ったように声を上げた。セイジが目を向けると、かたかたと震えながら、組んだ指を強く握りしめている。

「ど、どうしたんだ?」

「あの、私……知ってます」

「え、何を?」

「……秘密の部屋……たぶんあそこなら、ユエ様もご存じない……はず」

 リアラはセイジの左手を取った。手の甲を上にして、まずくすり指を示す。

「ここには、この『玩具の間』とは別に、小さな部屋があるの。前からそういう気配は感じてたんだけど……少し前に、ララが見つけてくれました。扉を開ける順番は……こう……」

 合計4回、リアラはセイジの指に触った。心の中で復唱してから、セイジはリアラを見る。

「ここなら、安全なのか?」

「はい。そのはず……です。ララが見てきた限りでは、ユエ様の手を入れられた跡、なかったから」

 セイジ達は顔を見合わせた。

「……行ってみるか。無駄ってことはないだろ」

「そうですね」

「ありがとうな。でも……よかったのか?」

 いまだ震えながらも、リアラは、はっきりとうなずいた。

「私こんなだから、これ以上、他の4人に迷惑かけたくなかった。だけど……サトちゃんが危ない目にあうのは、もっとイヤ……!」

 1つうなずいてから、セイジはひじでサトルをつついた。サトルは珍しく、少し戸惑った風だった。

「……リアラ、先ほどは怖がらせてすみませんでした。ありがとう」

 するとようやく、リアラに笑みが戻った。

「ううん。サトちゃんの役に立てたなら、嬉しい……!」

「よし、じゃあ行くか!」

 セイジは気力を奮って明るい声を上げた。

「リアラ、ララによろしくな。直ったら……一応あやまっといてくれ」

「! ……うん……!」

 リアラが笑顔で手を振った。セイジはビデオカメラを片手にリアラの部屋を出た。



         ++++++



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