罰 -3-
ララの身体をベッドに移した後、セイジはさっそくリアラに向き直った。
「なあ! 悪いんだけどさ……そこのビデオ、ちょっと借りてってもいいか?」
「? だいぶ古いものだけど?」
「だからいいんだ。あとは規格が合ってるかどうか……」
ポケットから出したテープを、緊張しながらセットしてみる。
それはぴたりと、機械内部に収まった。セイジはカナと目を見交わした。
「ここで観る……ってのは、さすがに危ないか」
「当たり前でしょ」
「サトルの部屋に戻ってからだな。さあ、一体何が出てくるか……!」
「……あ」
ふとリアラがパソコンに向かった。カタカタと操作音をさせてから、セイジ達をふり返る。
「セイジさん……サトちゃんからメールが」
「え?」
「今からこっちに来ますって」
「え!? ちょっと待て、だから誰だよ『サトちゃん』て!」
セイジもパソコン画面をのぞき込んだ。
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From:サトル
To:リアラ
セイジ達はそこにいますね。
私も今からそちらへ向かいます。 サトル
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「サ――サトルのことか!?」
「……うわ……」
カナが顔をしかめたのをどう解釈したのか、リアラはおどおどと身を縮めた。
「あの、サトちゃん、ここの仕掛けのことはよく知ってるので、すぐ着くと思います……それまで、あの、よければ座って……」
「つってもあいつ、怪我人だぞ?迎えに行った方がいいよな……」
「えっ……!?」
リアラが目を見張り、セイジが体を返そうとした時だった。
がちゃがちゃと、扉が乱れた音を立てた。思わず身構えたセイジとカナの前に、倒れ込むようにして、サトルが現れた。
「サトル!? 何やって……怪我は!?」
「大丈夫、です。それより……」
「お前大丈夫じゃないのに大丈夫とか言うのやめろ!」
蒼白な顔のサトルに駆け寄って――セイジは、はっと息を呑む。
「……おい、サトル。アンティークはどこだ?」
「……」
「まさか置いてきたのか!」
「――連れ去られました」
「!!」
「すみません……私1人ではどうしようも出来ませんでした……」
「誰に連れてかれたの? まさか……ユエじゃないでしょ?」
絶句したセイジの後ろからカナが言った。サトルは絞り出すように言葉を繋ぐ。
「アンティークを、連れ去ったのは――アオイです」
「アオイ……!?」
「ユエが、話をしたがっている、と……」
カナも青ざめて、口を閉ざした。
セイジは自分を落ち着かせるようにきつくこぶしを握った。
「お前の部屋……1番安全なんじゃなかったのか」
「……すみません」
「お前が怪我してるのは分かってる……けど……なんとかならなかったのかよ……!」
「セイジ。アオイも『5つの間』の1人――『死者の間』を司る死神だ。ピエロとは格が違う」
カナがセイジの袖をつかみ、後ろに引き戻した。セイジは目を閉じ、今度こそ、怒りを心の奥に押し込めた。
「悪い、サトル……」
「いいえ。……私も、できることなら守りたかった……今度こそは……」
サトルは苦しげに息をついた。そこへ、かくかくとリアラが歩み寄った。
「サトちゃん……どこが痛むの?」
「……」
「胸んとこ。ライオンに爪かけられたんだ」
サトルに代わってカナが指さした。リアラはサトルを見上げ、そうっと手を伸ばす。
右の手のひらが、サトルの胸に触れた。
「サトちゃん、動かないでね。今……治すから」
瞬間、やわらかなクリーム色の光が部屋全体を包んだ。
光が収縮し、ふっとかき消えるまで、それほど時間はかからなかった。しかし、それで充分だった。
「! なんか、身体が軽いな」
「どう? サトちゃん……」
「……ええ、ありがとうございます。だいぶ楽になりました」
サトルの背筋がすっと伸びた。リアラが嬉しそうに――幸せそうに、頬を染めた。
「よかった……!」
「あんなに小さくか弱かったあなたが……知らない間に、成長していたのですね」
そしてサトルは、リアラの肩に手を置いた。
「ところで、リアラ。――私になら話してくれますか?」
サトルの声に一切の甘さはなく。
一転して、リアラの表情が強張った。




