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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第15章
64/117

罰 -2-


「あああぁ……! ありがとう、アオイ――よく人形だけとってこれたわね……!」

 目を覚ましたアンティークは、仮面の女の前にいた。

 気を失っている間にどこか知らない部屋へ連れてこられたようだった。見渡せば壁一面にびっしりとモニターが並べられ、映る景色が刻々と入れかわる。見ているだけで気分が悪くなりそうだった。

「セイジとカナは玩具の間へ行っていた。リストNo,6『サトル』がこの人形を守ろうとしていたが、『アオイ』には勝てなかった」

 アンティークの真横でアオイが言った。仮面の女があざ笑う。

「そう……あのおいぼれピエロ、懲りないわねぇ? 60年経った今でもお姉ちゃんを忘れてなかったなんて」

『! サトル……!』

 やっと声が出た。女もアンティークの意識が戻ったことに気づき、間近に顔をのぞき込んできた。

「……久しぶりね? お姉ちゃん。あのピエロを覚えているのなら、あたしのことは忘れるわけないわよね?」

『……あなたは……』

「何? 誰かって? こんな仮面してるから分からないのかしら……?」

 そうではなかった。声は確かに聞き覚えがある。

 なつかしくて――恐ろしい、自分の半身の声だ。

『ユエ……だよね……?』

「そう! そうよ! 嬉しいわぁ……またお姉ちゃんと話せる日がくるなんて!」

 ユエははしゃいで手をたたいた。昔、よくそうしていたように。

「お姉ちゃんは変わらないわねぇ……なんて、当たり前かしら。あたしはこんなにも醜くなってしまったっていうのに、ね……?」

『え?』

「ウフフ……仮面の下、ちょっとだけ見せてあげましょうか……?」

 ユエはアンティークにだけ見える角度で、仮面をずらした。

 アンティークは絶句した。そこに、かつて人気の踊り子だった妹の面影はなく。

 魔女のように醜悪な、老婆の顔があるだけだった。

「どう? 驚いた?」

『そんな……! どうしてそうなってしまったの!?』

「制裁を行うたびに醜くなっていくの。あたしがあたし自身に、そういう呪いをかけたから。それが……最初のピエロゲームだったのよ……?」

『ピエロゲーム――!』

 アンティークは心を乱され、叫んだ。

『ユエ! どうしてこんなことをしているの!? ピエロゲームや「5つの間」――お札のことだって! あんな風に、有望な団員さん達を次々と……! 団長が知ったら悲しむよ!!』

「…最初は…団長のためだったのよ?」

 ユエは仮面を戻した。その表情が見えなくなる。

「団長を困らせる者はあたしが許さない。だから……ピエロゲームのリストNo,1はあたし。きっとあたしが一番団長を困らせてしまったから……自分への制裁のつもりだった……」

『……!』

「だけど、団長は……亡くなったわ?」

 ユエはドンッと机をたたいて、急に声を荒らげた。

「団長はもう死んだのよ! 今、このサーカス団で1番力を持っているのはあたし! だからあたしが団長になるの――たとえ呪いに手を染めても、この計画は成功させてやるわ!!」

『ユエ……!』

「お姉ちゃんなんかには分からないわ。誰からも愛されるお姉ちゃんには……!」

 大きく息をついて。ユエはまた不気味に声を低めた。

「ねえ……あたしは団長が大好きだった。だけど団長はお姉ちゃんを選んだ。あたしはお姉ちゃんのことも大好きだったけど……同じくらい、大嫌いだったわ……」

 ユエの手がのど元にかかり、アンティークは息を呑んだ。

「だから、殺したの。こうやって首筋にナイフをいれて……あんたの真っ赤な血を全部抜いた……」

『や……やめて、ユエ……!』

「それでもあんたは、ムカつくくらいキレイだったわ……? 人形になった今だって……」

 ぐっと力を込められて。痛くも苦しくもないはずというのに、アンティークは恐怖を抑えられなかった。

「こんなにキレイで……こんなにも、大事にされて!! ――アオイ!!」

『!!』

 ユエの手が離れると同時に、大鎌が一閃した。

 “ボレロ”が裂け落ちた。ドレスの胸元が破けて大きくはだける。

 アンティークは、声1つ上げられなかった。

「ウフフフ……本当はその首、このままもう1度落としてやろうかと思っていたけれど……気が変わったわ」

 ユエは愉快そうに笑って、アオイに仮面を向けた。

「セイジくん達、次は『死者の間』に行くはずよね?」

「……そうだ」

「じゃあこの人形、持っていって。もうセイジくんに返してあげてもいいわ。ただし……セイジくんの目の前で、手足を千切ってばらばらにしてから、ね」

 アオイはアンティークを見て、こくりとうなずいた。

「了解した」

「フフ、今日はありがとうアオイ。本当によくやってくれたわ」

 甘く甘く囁いて、ユエはアオイに向かい腕を広げた。

「さあ、いらっしゃい。ご褒美をあげるわ……?」

 アオイの白い頬が、ほんの少し紅潮した。

 ふらふらとユエの前に膝をつく。その頭を優しく抱いて、ユエは銀の髪に指を通した。

「役に立ついいコは大好きよ……? お願いだから、“いらないコ”なんかにならないでね? ずっといいコでいてね? いつまでも、あたしの可愛い『オモチャ』でいてちょうだいね……?」

 見ていられなくなり、アンティークは意識を逸らした。

 それでも、呪いをかけるようなユエの声を閉め出すことはできなかった。

「あなたは何も考えなくていいの…あたしの言うことだけ聞きなさい……? ……あたしに捨てられたくなかったら、ね……?」



        ++++++



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