表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第14章
62/117

人形 -4-


「アオイ……!? なぜあなたがここに……!」

 サトルが枕元の銀笛をつかみ、アンティークとアオイの間に立った。アンティークもアオイに意識を集中させた。

「こんな所に隠れていたのか。……リストNo,44『セイジ』とカナは、まだ玩具の間だな」

『な……何しに来たの、死神さん……?』

「……その人形を奪いに来た」

 鎌を掲げたアオイは、いつかと同じように抑揚なく告げた。

「ユエが、その人形と話がしたいと言っている」

『えっ……!』

「……そうですか。確かにユエもアンと会うのは60年ぶり。話もしたいでしょう」

 サトルから熱が伝わってきた。剥き出しになった敵意の烈しさは、普段のサトルからは考えられないほどだった。

「ですが……アンを殺した張本人に、渡すわけにはいきません」

『サトル、あんまり動くと傷が……!』

「お前達に危害を加えにきたつもりはない。だがどんな手を使っても、人形は渡してもらう」

 急速に空気が張りつめていった。アオイの透明な殺気だ。しかしサトルも怯んだ様子はない。

「アンは私が守ります」

「そうか。ならば……」

 アオイは横手に鎌を上げ――

 そこで、ぴたりと動きを止めた。その身は青い光に包まれていた。

『お願い待って、死神さん!』

「アン!? あなたは下がっていてください!」

『何言ってるの! サトル、怪我してるんだよ!?』

 言い合う間に、“視線”に封じられたアオイがふっと息を吐いた。

「――無駄だ」

『あっ!』


 バシンッ!


 乱暴に弾かれるようにして、“視線”が返された。

 次の瞬間、アオイはサトルとの距離を一気に縮めていた。薙いだ刃をサトルが笛で受ける。しかし両手で受けても勢いを殺しきれず、2歩3歩とよろめいた。アオイはすかさず足払いをかけた。たまらず転倒したサトルは、横に転がって刃を逃れ、すぐさま起きあがった。

「ピエロ。邪魔だ」

 アオイが右手を前にかざした。と思うや、黒い霧のような旋風がサトルに襲いかかった。

「くっ……!!」

 サトルは銀笛に息を吹き入れた。悲鳴のような笛の音が風を裂き、押し返す。まじないの力は拮抗していた。

 が――

「ッ、ゴホッ!!」

 胸を押さえて咳き込んだサトルは、そのまま黒い風に巻かれた。

『サトル!!』

「お前もだ」

 風は、触手を伸ばすようにアンティークにも絡みついた。一気に力を吸い取られる感覚。アンティークは細く悲鳴を上げた。

 ふっと霧が晴れたとき、サトルはうつぶせに倒れていた。アンティークも気力のほとんどを奪われ、声を上げることさえできなかった。

「この程度か」

「あ……ぐ……っ」

「命に別状はなくとも、グレンの爪を甘くみないことだな」

 アオイの手がアンティークの腕をつかんだ。逆さに抱えられて、視界にはサトルの部屋が映ったままだった。

「これで……ユエに喜んでもらえる……」

「ぐっ…ア、ン……!!」

《サトル……!》

 絶望的なサトルの声に、アンティークは心の中で叫び返すことしかできず。

 無力感の中で、意識は徐々に遠のいていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ