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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第14章
61/117

人形 -3-


 猫の後を追いながら、アオイは思い返す。

 獣調練場で、コウと言葉を交わす前。セイジ達を捜して再び立ち寄った、『巨人の間』と『水槽の間』の様子を――


 『……また来たのか、アオイ』


 ビッグは変わらずそこにいて、あの幼い少女もそれは同様だった。

 ただ、ビッグの様子だけが、以前来た時と違うようだった。


 『ずいぶんと慌ただしい。何か……起きているようだな』

 『……リストNo,44「セイジ」が、ユエの計画を止めようとしている』

 『それは大したものだ』

 『お前も、それを望むか』

 『あの札がある限りは逃れることもできまい。心配しなくとも、覚悟はできている。

 それは他の4人も同じことだろう……』


 久しく見なかったビッグの静かな表情に戸惑っていると、あの少女が、意を決したようにアオイを見上げてきた。


 『リアラおねえちゃんがね、言ってたの。「5つの間の人たちはみんな、ちょっと

 怖くて近寄りがたかったけど、皆本当は優しい人たちだよ」って』

 『……』

 『おにいちゃんも「5つの間」の人なんでしょ?どうか……ビッグのおじちゃんを

 助けてあげて!』

 『それは……できない。ユエの計画を止めさせるわけにはいかない』

 『エリ、やめなさい。彼は誰よりもユエとの繋がりが強い。ユエの意に反することは

 できないはずだ……』


 少女が泣きそうな顔をして、見えていないであろうに、ビッグがたしなめた。


 『だがアオイ、おそらく、私達自身はじきに役目を終える。その後は――

 私達は、どうなるのだろうな……?』


 『巨人の間』は、それを最後に立ち去った。

 次の『水槽の間』では、セイレーンが必死の面持ちで水槽のふちにしがみつき、大きく息をついていた。


 『なあに……? 今あなたの相手をしているほど暇じゃないわ……!』

 『……義足を付けたのか』


 ドレスの裾から白い足首がのぞいていた。血の通わない人形の足であることは一目で分かった。


 『1分でも……1秒でも早く、歩けるようになりたいの』

 『“人魚”であることを捨てるのか』

 『私は最初から人間だったわ。セイジのおかげで、やっと気づくことができた』

 『……今のところ、脚はまるで動かないようだが』


 見たとおりを述べると、セイレーンはぐっとアオイを睨んできた。


 『たとえ何年かかっても、私は歩いてみせる! 歩いて……お父さんに会いにいって、

 もう恨んでないことを伝えるの……!』

 『リストNo,24「ゲン」か』

 『……あっ』


 立ち上がりそこねて、セイレーンが倒れ込んだ。ガシャガシャと耳に痛い音がした。


 『は……やっぱり、無駄にした時間が長すぎたわね……』

 『……』

 『お願い、邪魔しないでね。前の脚はもういらないから。

 今のこの脚があれば、それでいいから……』


 ――“綻び”。

 そうとしか言えないような、漠然とした予感があった。

 しかし突き詰めて考えようとすると、頭の中が白くなる。代わりに心の中でユエの声が命じるのだ。



   余計なことは考えちゃダメよ……?

   あなたはあたしの言うことだけ聞いていればいいの

   あなたを愛してあげられるのは、あたしだけなんだから――



「にゃっ!」

 猫の元気な鳴き声で、アオイははっと我にかえった。

 いつの間にか団員の控え室に来ていた。この周辺では何回もセイジ達を見失ったと思い出す。無人の部屋をうろうろと動き回った後に、黒猫は振り子時計の前で止まり、カリカリと縁を引っかきだした。

「……『アオイ』はユエに必要とされている。『アオイ』はユエに愛されている――」

 ユエの言葉以外で揺れることなど許されない。

 胸のつかえごと切断するように、アオイは鎌を上げ、振るった。

 時計の正中線上に亀裂が走る。続けてその周囲を四角く囲うように。

 最後に柄を打ちつければ、あっけなく壁も時計も崩れ落ち、向こう側が露出した。

「……見つけた。こんな所にいたのか」



         ++++++



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