表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第13章
56/117

玩具の少女 -3-


 何回か強制的にプールサイドに戻されたあげく、セイジとカナは、どうにか次の部屋へ進むことができた。

 小さいコンサートホールのような装丁の部屋だった。ララはそこで、またぐるぐると駆け回っていた。

「ラーラーラーラー♪ キャハハッ!」

 セイジ達の姿を見るなり、ララはトンッと床を踏んだ。

 「ガタン!」と音を立てて下りの隠し階段が現れた。そしてララが飛び込むと、また「ガタン!」と口は閉じてしまう。

 セイジはこめかみに薄く血管を浮かべた。

「……おい、俺ら遊ばれてんのか?」

「さぁ?」

「で、今度は何をしろってんだ?」

 まずララが消えた床の当たりを調べると、マイクのような網目の個所があった。他に変わったことといえば、部屋の壁際の長机にハンドベルが7つ置かれていることか。

「――で、ヒントは?」

 セイジはふり返り、くまを見た。黙って2人にくっついてきたくまは、どこで調達したのか、先ほどとは違うプラカードを掲げる。


『低い方から高い方。順番に音を聞かせて。』


「音っていうと、こいつか?」

 セイジはハンドベルを1つ、手に取った。軽く振れば、突き抜けるような澄んだ音が響いた。

「……キレイな音だな」

「1個ずつ音が違うんだ。これを低い音からってこと……?」

 カナはいくつかを順に振って、並びを入れ替え始めた。そこにセイジも参加する。

「これはそっちじゃないか?」

「え。違うでしょ」

「こういうのはサトルかアンティークが得意そうなんだけどな。サトルは笛吹きだし、アンティークは歌がうまいし……」

「あーもう、そうじゃないってば! ちょっとあんたは手出ししないで!」

 カナに怒られて首をすくめたセイジは、仕方がないのでゆっくりと部屋を歩き始めた。

「……『猛獣の間』とは違った意味で、静かなんだよなー……」

 『玩具の間』の主の気配はする。それは今までの3人に比べると格段に穏やかで、何より、敵意やら攻撃性が感じられなかった。

「女の子だっていうしな……あ、いや、セイレーンも女だったか……」

「なに1人でぶつぶつ言ってるの」

 そろそろカナが並べ替えを終えたようだった。

 これはセイジも手伝って、1つずつベルを鳴らしていく。7つ目の最高音の残響が消えたところで。

 「ガタン!」と例の階段が開いた。

「やったな!」

「あんたは何もしてないでしょ」

「……ん、なんだよ」

 ちょいちょいと、くまの着ぐるみがまたセイジをつついてきた。見ればハンドベルの1つを差しだしている。

『おひとつどうぞ』

「どうぞって……何かに使えるのか、これ」

 それでも貧乏根性で受け取っておいた。完全な呆れ顔のカナと共に、次へ。

 短い廊下を抜けた先の部屋は、赤、青、黄色のタイルが床一面に敷き詰められていた。壁が黒いのが、逆に目に痛い。天井にはランプがついていて、同じく赤、青、黄色の光を不規則に灯している。

 そして向こうに見える出口から、ララが顔だけのぞかせていた。

「ここまでおいでー♪ キャハハッ」

「おい、お前!いい加減に――」

 セイジは1歩、部屋に足を入れた。

 と同時に全身をビリッと衝撃が走り、思わず跳び下がる。

「くっそ、なんだこの部屋……! 電気っぽかったぞ今の!」

「……色によって通れるタイルと通れないタイルがあるんだ。多分……」

 1番手近なタイルは「黄色」。カナは天井のランプが黄色になるのを待って、すいと足を乗せた。それからセイジを見てうなずく。

「ほら、大丈夫」

「ランプの色に合わせて進めってことか」

「仕掛けとしては単純だ。よく見ていけばどうってことない」

「――ああ。そうだな」

 セイジが急ににやりと笑ったので、カナは怪訝そうに眉をひそめた。

「何、その顔……」

「どうってことないよな、こんな部屋。こんなことで時間かけてられないよな」

「ちょっと……何考えて……!」

 セイジはカナの手をつかんだ。

「このくらいの電撃なら我慢できる。――強行突破だ!」

 宣言と同時に実行した。カナを引っぱり、足下から突き上げる衝撃によろめきながらも、最短距離をまっすぐに駆け抜ける。

 出口に到達した。セイジはふーっと息を吐いた。その横でカナがぜいぜいいっている。

「あんたって、ほんと……信じらんない……っ!」

「だけど、これでゴールだ」

 そこは無数の人形に囲まれた部屋だった。ヨシタカの城と似ているが、やはりどことなく“女の子”のにおいがした。

 そして――部屋の中央にはララがいた。ララは大きく両手を上げた。

「わぁ! 捕まえられちゃった! キャハハ♪」

「本当になんなんだ、このチビッコは! 俺らは遊んでるわけじゃねーぞ!」

「遊ばれてるんじゃない?」

 思いきり不機嫌なカナの声に、ララが首を傾けた。

「ララ、遊んでないよー? ちゃんと『がんぐのま』、案内してきたんだもん」

「! やっぱりこの子が……!?」

「なんだってできるもん。こーんなことだってできるもん♪ キャハハハ♪」

 ララが手のひらをかざし、そこに光の球が生まれた。

「いっくよー!」

「え? ちょっと、おい……!」

 セイジが声を上げる間もなく、光がパチンと弾けて霧散した。

 と――

「!?」

「なっ……んだ、これ、力が……!?」

 セイジもカナも、その場でがくがくと膝をついてしまった。

 白い光の霧がまとわりつく。それが身体の力を奪っていくようだった。

 身動き、できない。

「こっの……!!」

 セイジは無理にも立ち上がろうとした。その拍子に、ハンドベルを取り落とす。


 リ――――ンッ……


 透明な音が空気を震わせた。

 わずかばかり霧が晴れ、ふっと、セイジの身体に自由が戻った。

「このベル、まじないがかかってたのか……!」

「――まじないが効くんだったら!」

 カナがメテオを手に取った。

 勢いをつけて2つの球体が舞い始める。風が生じるほどの速さで円を描き、白い霧をさらに押し返した。

「キャハハ! お姉ちゃん、すごい!」

「カナ、やるな!」

「感心してる場合か! あんたもなんか考えてよ!」

 言われなくても考えていた。セイジは青い塊を取り出す。カナから返されていた、セイレーンの『水のお守り』だ。

 掲げて意識を集中させると、それはすぐに青い光を灯した。

 さっとカーテンのように広がった光はそのまま水滴となって、ララの上に、スコールのごとく降り注いだ。

「きゃあっ!?」

 驚いたような喜んだようなララの声がした。水勢が収まると、濡れた床にぺたりと座り込んでいるのが見える。セイジは腰に手を当て、これ見よがしに胸を張った。

「よーしどうだ。あんまり人をからかうからこうなるんだぞ」

「……あんたいつの間に、そんな使い方……!」

「ん? ああ、これくらいのことできるんじゃないかと思ってさ。うまくいってよかった。こんなチビッコに刃物向けるわけにもいかないからなぁ」

 カナの驚愕の意味を深く考えないまま、セイジはララに歩み寄った。

「キャハハは、は……」

 ララは切れ切れに笑い声を上げていた。その様子が止まりかけのオルゴールのようで、2人は顔を見合わせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ