玩具の少女 -2-
かなり長い間、沈黙した後。
アンティークはあきらめたように小さくため息をついた。
『あたし……自分が何者かなんて思い出したくなかったかなぁ。セイジになんて言おう……』
「あの頃のことを知っているのは、もはや、私とユエとあなたくらいのものでしょう。もちろん歌姫が姿を消した真相も……」
サトルが体を起こし、アンティークと向かい合うように座り直した。
『寝てなくて大丈夫なの?』
「ええ。……こんな失態、本当はあなたにだけは見られたくなかった……」
『そんなこと言わないで』
「それに、せっかくまた会えたというのに、もうあなたを笑わせることもできません」
『仕方ないよ。あたしだって、今は表情のないお人形だもの』
アンティークは冗談めかして言った。しかしサトルは、怖いほどに真剣なまなざしで声を低める。
「アン。あなたが今まで、すべてを忘れていたのは……団長のご意志だったのですか」
アンティークは――きっぱりと否定した。
『ううん、忘れさせてくれるよう、団長に頼んだのはあたし。魂を人形に移してもらってすぐにね。だって……あんなことになって、すごく悲しかったんだもの』
「……すみません」
サトルは視線を床に落とした。
『それより、ユエは……あの子はどうして、こんなことを始めてしまったのかな』
アンティークがぽつりと尋ね。サトルは首を横に振った。
「理由はどうあれ、許されることではありません」
『……そうだよね……』
「今まであまりに多くの人間が振り回されてきました。こんな呪われたサーカス団は、もう終わるべきなのです」
『……』
「きっとそれがセイジの使命であり、セイジをここへ連れて来ることがあなたの使命だったのだと――あなた方に出会ったとき、私はそう思いました」
『そう……なのかな……?』
アンティークはつぶやいた。
その続きは、心の中で。
《このサーカス団を終わらせる……本当にそれがあなたの望みだった?
ねえ……団長……》
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