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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第13章
54/117

玩具の少女 -1-



   私に 何か

   できることはあるの…?



         ++++++



   どうして?

   どうして私が5つの間に選ばれたの?

   私、人気も実力もない

   訓練だって好きじゃない

   ステージに立ったこともない

   ねぇ、どうして?

   どうして私がこんな目にあうの?

   どうして…



         ++++++



 ヨシタカの影を振り切って、セイジとカナは『左腕の棟』を進む。

 突っかかってくる団員は心なしか減っていた。すれ違っても、明らかに見ないふりで手出しをしてこなかったりする。セイジは歩きながら首をかしげた。

「あっちもさすがに飽きてきたとか?」

「しつこい奴は相当しつこいけどね。どっちかっていうと、両極化?」

「なるほど。まあ普通の相手だったら、数が減ればそれだけ助かる……なっ!」

 ドアの陰から飛び出したクラウンのみぞおちに蹴りを入れ、セイジはいらついた声を上げた。

「あー左側軽い! バランス取りづれぇ!」

 支障を来すほどではないが、普段抱いているアンティークの重さの分、重心がずれる。

 カナが呆れた顔になった。

「だったら置いてくるな。偉そうなこと言っといて、自分がやられたらどうすんの」

「サトルを1人でほっとくわけいかないだろ。こっちはお前がいるから大丈夫だろうし」

「え……」

「戦闘に関しちゃ、お前って本当、頼りになるからな」

 まっすぐな賛辞に、カナは少し赤くなった。

「あ………ありがと……」

「お、あれだな」

 セイジは奥の5つの扉を指さした。少し離れている1番右はガラス張りで、ちらりと見た限りでは中庭になっているようだった。

「さて、このどれかが『玩具の間』に通じてるはず……」

 4つ並んだ木目の扉。セイジは充分警戒しながら、まずは1番右の扉を開いた。

 すると、また同じように、4つの扉が並んでいた。

「な、なんでだよ?」

 次も1番右を開いてみる。また開く。

 何度試しても、同じ光景が続く。

「どうすりゃいいんだ、これ!?」

「……セイジ、こっち。張り紙がある」

 カナが扉の間の壁を指した。それは子供が書きなぐったような妙な張り紙だった。


     『わたしには、おねえさんと、おかあさんと、あかちゃんがいます。

          さいしょから あいさつをしてきてください』


「……。とりあえず、1回戻るか……」

 セイジはうんざりと後ろの扉に手をかけた。

 その向こうは、元の『左腕』の通路だった。

「『ふりだしに戻る』的な!?」

「へえ、さすが『玩具』。……多分、張り紙の順番で扉を開けないと道が通じない仕掛けになってるんだ」

「感心してる場合か!? 一体どう行きゃいいってんだよ!」

「……は?」

 カナが片眉を上げた。次いで、馬鹿にしたようにちょっと笑う。

「分からないんだ?」

「な、なんだよ。お前分かるのか?」

「ここ……『左腕の棟』でしょ。5つの扉は5本指を模して作ってあるはずなんだ。だから『ねえさん指』『かあさん指』『あかちゃん指』の順に、扉開いたらいいんじゃない」

 セイジは目からウロコの心境で手を打ち合わせた。

「そういうことか……! お前頭いいな!」

「あんたBBSの謎はさらっと解いたクセに、どうしてこれが解けないの」

「こういうクイズみたいなの、ほとんど知らないんだ、俺」

「私だってそんなにだけど。……ここに来る前何してたわけ?」

「……世間一般ではあんまりおおっぴらに言えない仕事? だったらしいな」

「へえ……?」

 2人は仕掛け扉を進んだ。どうやらカナの回答は正しかったらしく、最後に1番左の扉が奥へと通じた。

 そこは屋内プールだった。水上にはホットケーキ型の浮きが道のように連なって浮いている。プールサイドはセイジ達がいる場所だけで、残る3方は壁と水とが接していた。

 そして。

「キャハハハハ!」

 そのプールサイドを、ツインテールにスカートの少女がぐるぐると駆け回っていた。セイジ達のことなどまるで気にしていない様子だった。

「『玩具の間』を司っているの、まさかこの女の子か!?」

「さぁ、知らない。確か女の子だったような気はしたけど」

「えーと……とりあえずつかまえてみるか……」

 少しだけ近づいてみると、少女はぴたりと立ち止まり、セイジに向かって手を上げた。

「キャハハ、こんにちは! ララですよー☆」

「ララ? お前の名前か?」

「ララララララララ♪ キャハハハハ!」

「あ、おい!」

 少女はそのまま、プールに向かって駆けだした。あっけにとられるセイジの目の前で、浮きを軽々と跳んで渡って、奥の出口へと消えた。

「な、なんだったんだ今のは……」

「これを渡ってくしかないみたいだね」

「小さい浮きだな……俺達が乗って沈まないか?」

 と、セイジの肩をちょいちょいとつつく指があった。セイジはなにげなくふり返り――

 大きく口を開けた。

「く……くま……?」

 本物ではなく着ぐるみだった。何やらプラカードを掲げている。


『ホットケーキは2枚重ねが好き。1枚だけじゃもの足りない』


「猿に猫ときて、今度はくまかよ……これも何かのヒントか? 2枚重ね?」

「これは私も分からない」

「実際行ってみるしかないか。この距離なら、いざとなりゃ泳いだっていけるだろ」

 セイジはひとまず、1番近い浮きに足を乗せてみた。大きさは両手の一抱えほどだが、思いのほかしっかりしていて、セイジが完全に体重を乗せてもびくともしなかった。

 何個分か歩いていく。道が分岐したところで隣の浮きにそっと足をかけると、少し違う感触がした。乗れば沈んでしまいそうだ。

「乗れるやつとそうじゃないやつ、見分けながら進めってことかな。カナ、俺が進んだ後から来いよ」

 言いながら、セイジはもう少し、沈む浮きに体重をかけた。足が水に浸かる。

 瞬間、セイジの視界は大きく揺らいだ。

「え? ……えぇ!?」

 瞬きほどの間に、セイジはさっき入ってきた扉の近くまで戻っていた。水際のカナも驚いた顔でこちらを見ている。

「また『ふりだしに戻る』か……!」

 水に触れれば戻される。泳ぐという手段は使わせてくれないらしい。

 セイジは思わず、頭を抱えた。

「ある意味……戦闘より厄介だろ、これ……!」



         ++++++



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