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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第12章
51/117

歌姫 -1-



   姉は歌姫  その歌声は聴く者を虜にする

   妹は踊り子 その踊りは見る者を虜にする

       ――妹は 決して姉にはなれない。



         ++++++



 無数のモニターに囲まれて、アオイは1人、じっとたたずんでいた。

 『猛獣の間』を出たところで突然ユエに呼ばれた。だからこそ即座にモニター室へ戻ってきたのだが、当のユエがまだだった。

 黙って待ち続ける。――待つことには慣れている。

 ユエの姿を確認できた、その瞬間の安堵感さえあれば、それでいい。

「ねぇ、アオイ? お願いがあるの……」

 空間移動で不意に現れたユエは、待たせたことなど当然とばかりに、さっそく切り出した。アオイはその場でひざまずいた。

「あたし、セイジくんが抱いてる人形と話がしたいの。人形だけとってこれないかしら?」

「……リストNo,6『サトル』が、猛獣の間で怪我を負ったらしい」

 アオイはうなずいた。“否”などは、ありえない。

「好機だ。望むものを持ってこよう」

「本当!? でも気をつけてね? あなたが怪我でもしたらあたし、悲しいわ……?」

 何事にも動じない心臓は、ユエの言葉にだけ震える。

 アオイは歓喜と――一抹の不安をもって、ユエを見上げた。

「カナちゃんの首はまだのようだけれど……それはもう、後からでもいいわ。フフ、ちゃんと呪いをかけてあるもの」

「……」

「今は……『アンティーク』をとってきてね……?」

「了解した」

「ウフフ、いいコね……」

 ユエは満足げに、うっとりと笑った。

「あなたを一番最初に『とって』正解だったわ。あたしの可愛い『オモチャ』……しっかりあたしのために動いてちょうだい?そうしたら褒めてあげる。頭をなでてかわいがってあげる。もっともっと……愛してあげるわよ?」

 物欲しげなアオイに一切触れることなく、ユエは命じる。

「さあ行って。人形を手に入れるまでは、戻ってこなくていいわ……?」

 命じられたとおり、アオイは立ち上がった。



         ++++++



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