歌姫 -1-
姉は歌姫 その歌声は聴く者を虜にする
妹は踊り子 その踊りは見る者を虜にする
――妹は 決して姉にはなれない。
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無数のモニターに囲まれて、アオイは1人、じっとたたずんでいた。
『猛獣の間』を出たところで突然ユエに呼ばれた。だからこそ即座にモニター室へ戻ってきたのだが、当のユエがまだだった。
黙って待ち続ける。――待つことには慣れている。
ユエの姿を確認できた、その瞬間の安堵感さえあれば、それでいい。
「ねぇ、アオイ? お願いがあるの……」
空間移動で不意に現れたユエは、待たせたことなど当然とばかりに、さっそく切り出した。アオイはその場でひざまずいた。
「あたし、セイジくんが抱いてる人形と話がしたいの。人形だけとってこれないかしら?」
「……リストNo,6『サトル』が、猛獣の間で怪我を負ったらしい」
アオイはうなずいた。“否”などは、ありえない。
「好機だ。望むものを持ってこよう」
「本当!? でも気をつけてね? あなたが怪我でもしたらあたし、悲しいわ……?」
何事にも動じない心臓は、ユエの言葉にだけ震える。
アオイは歓喜と――一抹の不安をもって、ユエを見上げた。
「カナちゃんの首はまだのようだけれど……それはもう、後からでもいいわ。フフ、ちゃんと呪いをかけてあるもの」
「……」
「今は……『アンティーク』をとってきてね……?」
「了解した」
「ウフフ、いいコね……」
ユエは満足げに、うっとりと笑った。
「あなたを一番最初に『とって』正解だったわ。あたしの可愛い『オモチャ』……しっかりあたしのために動いてちょうだい?そうしたら褒めてあげる。頭をなでてかわいがってあげる。もっともっと……愛してあげるわよ?」
物欲しげなアオイに一切触れることなく、ユエは命じる。
「さあ行って。人形を手に入れるまでは、戻ってこなくていいわ……?」
命じられたとおり、アオイは立ち上がった。
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