呪符 -3-
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●ユエの計画 HN:くま
両腕を差し出させ、両脚を切り落とし、
胴体をも潰してしまった。
人格を狂わせ、記憶まで奪った暁には
呪われし首が落ちる。
「団長」を作るとはそういうことである。
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『何これ……穏やかじゃない感じだね』
「『団長を作る』……ってどういうことだ? でも、両腕だのなんだのってのは、前にどっかで……」
『あ、電話! 管理人さんが、電話で同じようなこと言ってた!』
「管理人か。札がどうこうってのも、最初はそいつから聞いたんだっけな……ん、あれ? また更新か?」
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>Re:ユエの計画 HN:A
「記憶」「人格」の2人はもちろん、
「両腕」「両脚」「胴体」の3人もこの計画に気づいているかもしれません。
それでも彼らが団長を慕わずにいられないのは
いずれ彼らが結びつくという呪いをかけられたからでしょうか。
首の少女も
早く気づかなければ、いずれ――
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「“A”って……! 見張られてるんじゃなかったのかよ!」
『それくらい大事な話っていうことかな』
「ったって意味がわからないぞ? 大体なんだ、記憶と人格の“2人”、って……」
セイジが、ふと黙った。
次いで。
「サトル! 書くもの借りるぞ!!」
突然叫んで、サトルの机の紙とペンをひっつかんだ。
『せ、セイジ?』
「アンティーク、お前は“A”の書き込みを覚えてくれ! ……くそ、間に合え……!」
セイジは必死の形相で『ユエの計画』を書き写していく。
残り数文字になったところで、前と同じように、ふっと画面が途切れた。
――『ユエの計画』の記事は抹消された。
「こっちはなんとかだな……覚えたか、アンティーク」
『うん、たぶん。でも急にどうしたの?』
「とにかく先に、忘れないうちに、写させてくれ」
言われたとおり、アンティークは暗唱してみせた。セイジは2種類のメモを見比べ、もう1度BBSを確認して、サトルのベッドに向かった。
「カナ、お前もちょっと来てくれないか」
セイジの声も表情も硬い。例によって隅の方にいたカナが、いぶかしげな顔で寄ってきた。
サトルが目を開けた。セイジはその枕元に膝をついた。
「休んでるとこ悪い。サトル……ユエってのは、力の強いまじない師なんだよな?」
「……ええ、そうです」
「じゃあさ、もしかして、こういうことできそうか?」
1枚目のメモをぴらりと見せて、セイジは、眉根を寄せる。
「他人の身体を寄せ集めて、1人の“人間”を作る――とか」
「……!」
サトルが小さく息を呑み、カナがセイジを見上げた。
「どういうこと……?」
「『右腕の棟』に行ったとき、変な電話があったろ。あの時言われたことってのが……アンティーク、お前も覚えてるか」
『う、うん……確か、5つの呪われたお札を壊してほしいっていうことと、お札が5つのパーツをつなぐものだっていうこと……だったよ』
「それが何」
「5つのパーツってのが、これのことだ」
セイジはカナにメモを渡した。セイジも2枚目のメモに目を落とす。
「『両腕』『両脚』『胴体』『記憶』『人格』。これさ――『5つの間』の5人に、対応してるんじゃないか? ビッグは『両腕』、セイレーンが『両脚』。それにコウは……『記憶』」
「!!」
「5つのうち3つ当てはまる。……偶然なんかじゃないはずだ」
セイジがサトルを見ると、サトルはうなずいた。
「私も、『5つの間』が何かの企みであるとは考えていました。まさか『団長を作る』などと、そんな大それたことだとは思いませんでしたが……ユエならば……おそらく、やってのけるでしょう」
そしてサトルは、カナに目を向ける。
「そしてこのことが事実なら、カナ、あなたが首を狙われる理由もわかります」
「え……なんで……?」
「前にも言いましたが、“団長”は、前団長の直系でなければなりません。……あなたはまさに、その条件を満たしていますから」
「――!?」
カナが固まった。アンティークでさえ、すぐには意味が分からなかった。
「だっ……て、私は、ユエの」
「あなたとユエは、血は繋がっていない。本当の母娘じゃありませんよ。ほとんどの者は知らないようですが……」
サトルは静かに目を閉じた。
「まとめるなら、こういうことでしょう。ユエの目的は、『5つの間』の5人からとったものと、団長の血をひく『首』を使って、新しい『団長』を作ること。あるいは……自分の不死の心臓も使って、ユエ自身が本当の団長になろうとしていることも……考えられます」
カナがすがるようにセイジを見て、しかしセイジは、苦い顔で目をそらした。
「“A”が……ユエをよく知ってる奴が、それに近いことを書いてきた。たぶん、サトルの言うことが正しいと思う……」
「……」
カナは放心したような様子で、床に視線を落とした。
長い、沈黙。
沈黙――
「……そっか。おかしいと……思ったんだ」
ぼんやりとカナがつぶやいた。その目はどこか遠くを見ているようだった。
「本当のお母さんなら、娘の首をほしがったりしないよね……分かってよかった……これで遠慮なく、ユエと……戦えるよ……」
「こら、カナ」
こつんと、セイジのこぶしがカナの頭をこづいた。
「……何するの」
「誰があいつと戦うって言ったよ。要はその企みが潰せればいいわけだろ」
ほんの少し、アンティークを抱くセイジの手に力がこもった。アンティークは、セイジが燃えているのを感じた。
「目的変更――その呪われた札ってやつを、ぶっ壊してやろうじゃないか。そうすりゃカナももう狙われなくてすむだろ。俺のゲームも、なんでだか終わるっていうし……」
「……ユエがその札持ってたらどうするの。結局戦うことになるでしょ」
「倒すためじゃない、札を壊すために戦うんだ。全然違うだろ」
「屁理屈」
「何とでも言えよ。とにかくカナ――お前も札を壊すためにだけ戦えばいいんだ」
カナがぐっと唇を噛んだ。例によって、セイジがその頭をなでようとした。
カナは、その手をぱしっとふり払った。
「気安く触るなって言ったでしょ」
「よし、その意気だ!」
「うるさい」
今度は本気のパンチが腹部を襲い、セイジは身を折って呻いた。
アンティークは思わず笑ってしまった。
「お前っ……力、強……っ」
『カナちゃん、セイジ細い方だから、もう少し手加減してあげて?』
「……それで、ここからはどうするつもりですか、セイジ」
尋ねるサトルの声もやわらかかった。セイジは腹部をさすりながら、少し考えた。
「『5つの間』巡りは続けるよ。あいつらに聞いたら札のことが何かわかるかもしれないからな。まず残りの2人に会いに行って……収穫がなければビッグのとこに戻る」
「そうですか」
「次は『玩具の間』だったか。一休みしたら出かけよう。……いいかカナ?」
「わかった」
カナが即答する。セイジはうなずいて、優しく微笑した。




