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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第11章
50/117

呪符 -3-



=======================================


 ●ユエの計画 HN:くま


 両腕を差し出させ、両脚を切り落とし、

 胴体をも潰してしまった。

 人格を狂わせ、記憶まで奪った暁には

 呪われし首が落ちる。

 「団長」を作るとはそういうことである。


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『何これ……穏やかじゃない感じだね』

「『団長を作る』……ってどういうことだ? でも、両腕だのなんだのってのは、前にどっかで……」

『あ、電話! 管理人さんが、電話で同じようなこと言ってた!』

「管理人か。札がどうこうってのも、最初はそいつから聞いたんだっけな……ん、あれ? また更新か?」



=======================================


 >Re:ユエの計画 HN:A


  「記憶」「人格」の2人はもちろん、

  「両腕」「両脚」「胴体」の3人もこの計画に気づいているかもしれません。

  それでも彼らが団長を慕わずにいられないのは

  いずれ彼らが結びつくという呪いをかけられたからでしょうか。


   首の少女も

   早く気づかなければ、いずれ――


=======================================



「“A”って……! 見張られてるんじゃなかったのかよ!」

『それくらい大事な話っていうことかな』

「ったって意味がわからないぞ? 大体なんだ、記憶と人格の“2人”、って……」

 セイジが、ふと黙った。

 次いで。

「サトル! 書くもの借りるぞ!!」

 突然叫んで、サトルの机の紙とペンをひっつかんだ。

『せ、セイジ?』

「アンティーク、お前は“A”の書き込みを覚えてくれ! ……くそ、間に合え……!」

 セイジは必死の形相で『ユエの計画』を書き写していく。

 残り数文字になったところで、前と同じように、ふっと画面が途切れた。

 ――『ユエの計画』の記事は抹消された。

「こっちはなんとかだな……覚えたか、アンティーク」

『うん、たぶん。でも急にどうしたの?』

「とにかく先に、忘れないうちに、写させてくれ」

 言われたとおり、アンティークは暗唱してみせた。セイジは2種類のメモを見比べ、もう1度BBSを確認して、サトルのベッドに向かった。

「カナ、お前もちょっと来てくれないか」

 セイジの声も表情も硬い。例によって隅の方にいたカナが、いぶかしげな顔で寄ってきた。

 サトルが目を開けた。セイジはその枕元に膝をついた。

「休んでるとこ悪い。サトル……ユエってのは、力の強いまじない師なんだよな?」

「……ええ、そうです」

「じゃあさ、もしかして、こういうことできそうか?」

 1枚目のメモをぴらりと見せて、セイジは、眉根を寄せる。

「他人の身体を寄せ集めて、1人の“人間”を作る――とか」

「……!」

 サトルが小さく息を呑み、カナがセイジを見上げた。

「どういうこと……?」

「『右腕の棟』に行ったとき、変な電話があったろ。あの時言われたことってのが……アンティーク、お前も覚えてるか」

『う、うん……確か、5つの呪われたお札を壊してほしいっていうことと、お札が5つのパーツをつなぐものだっていうこと……だったよ』

「それが何」

「5つのパーツってのが、これのことだ」

 セイジはカナにメモを渡した。セイジも2枚目のメモに目を落とす。

「『両腕』『両脚』『胴体』『記憶』『人格』。これさ――『5つの間』の5人に、対応してるんじゃないか? ビッグは『両腕』、セイレーンが『両脚』。それにコウは……『記憶』」

「!!」

「5つのうち3つ当てはまる。……偶然なんかじゃないはずだ」

 セイジがサトルを見ると、サトルはうなずいた。

「私も、『5つの間』が何かの企みであるとは考えていました。まさか『団長を作る』などと、そんな大それたことだとは思いませんでしたが……ユエならば……おそらく、やってのけるでしょう」

 そしてサトルは、カナに目を向ける。

「そしてこのことが事実なら、カナ、あなたが首を狙われる理由もわかります」

「え……なんで……?」

「前にも言いましたが、“団長”は、前団長の直系でなければなりません。……あなたはまさに、その条件を満たしていますから」

「――!?」

 カナが固まった。アンティークでさえ、すぐには意味が分からなかった。

「だっ……て、私は、ユエの」

「あなたとユエは、血は繋がっていない。本当の母娘じゃありませんよ。ほとんどの者は知らないようですが……」

 サトルは静かに目を閉じた。

「まとめるなら、こういうことでしょう。ユエの目的は、『5つの間』の5人からとったものと、団長の血をひく『首』を使って、新しい『団長』を作ること。あるいは……自分の不死の心臓も使って、ユエ自身が本当の団長になろうとしていることも……考えられます」

 カナがすがるようにセイジを見て、しかしセイジは、苦い顔で目をそらした。

「“A”が……ユエをよく知ってる奴が、それに近いことを書いてきた。たぶん、サトルの言うことが正しいと思う……」

「……」

 カナは放心したような様子で、床に視線を落とした。

 長い、沈黙。

 沈黙――

「……そっか。おかしいと……思ったんだ」

 ぼんやりとカナがつぶやいた。その目はどこか遠くを見ているようだった。

「本当のお母さんなら、娘の首をほしがったりしないよね……分かってよかった……これで遠慮なく、ユエと……戦えるよ……」

「こら、カナ」

 こつんと、セイジのこぶしがカナの頭をこづいた。

「……何するの」

「誰があいつと戦うって言ったよ。要はその企みが潰せればいいわけだろ」

 ほんの少し、アンティークを抱くセイジの手に力がこもった。アンティークは、セイジが燃えているのを感じた。

「目的変更――その呪われた札ってやつを、ぶっ壊してやろうじゃないか。そうすりゃカナももう狙われなくてすむだろ。俺のゲームも、なんでだか終わるっていうし……」

「……ユエがその札持ってたらどうするの。結局戦うことになるでしょ」

「倒すためじゃない、札を壊すために戦うんだ。全然違うだろ」

「屁理屈」

「何とでも言えよ。とにかくカナ――お前も札を壊すためにだけ戦えばいいんだ」

 カナがぐっと唇を噛んだ。例によって、セイジがその頭をなでようとした。

 カナは、その手をぱしっとふり払った。

「気安く触るなって言ったでしょ」

「よし、その意気だ!」

「うるさい」

 今度は本気のパンチが腹部を襲い、セイジは身を折って呻いた。

 アンティークは思わず笑ってしまった。

「お前っ……力、強……っ」

『カナちゃん、セイジ細い方だから、もう少し手加減してあげて?』

「……それで、ここからはどうするつもりですか、セイジ」

 尋ねるサトルの声もやわらかかった。セイジは腹部をさすりながら、少し考えた。

「『5つの間』巡りは続けるよ。あいつらに聞いたら札のことが何かわかるかもしれないからな。まず残りの2人に会いに行って……収穫がなければビッグのとこに戻る」

「そうですか」

「次は『玩具の間』だったか。一休みしたら出かけよう。……いいかカナ?」

「わかった」

 カナが即答する。セイジはうなずいて、優しく微笑した。



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