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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第1章
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ピエロゲーム -3-


「ひゃははっ! 死ね!!」

 どこからか魔法のようにナイフを取り出し、マジシャンが高く笑う。

 背筋が寒くなるような大ぶりの刃を振り回す。闇雲かと思いきや、徐々にセイジ達を部屋の隅へと追いつめていく。

 そしてついに、セイジの背がとんっと壁に当たった。

 マジシャンの顔が狂喜に歪んだ。

「とった!!」

 マジシャンは頭上にナイフを振りかざし――

 その場で、ぴたりと動きを止めた。

「な……!?」

「サンキュ、アンティーク」

 マジシャンの身体は青い光に包まれていた。それは、美しい人形の瞳と同じ色だ。

 アンティークの“視線”は、動きあるものの動きを止める。

 形勢は逆転した。セイジはぐっと身を沈め、膝を燕尾服の腹にたたきこんだ。マジシャンは白目を剥いてその場にひっくり返った。

 相手が動かなくなったことを確認し、セイジはゆるゆると息を吐いた。

「マジで襲いかかってきやがった……」

『怖かったね。顔が』

「まともな奴の顔じゃなかったよな。弱かったけど。……さっきのピエロは?」

『もういないみたい』

 セイジは舌打ちし、がしがしと頭をかいた。

「参った……なんだってこんなことに……」

『逃げ延びるっていっても…これからどうしたらいいのかな』

「よし、現状整理だ。……要は団長の制裁から逃げればいいだけで、襲い掛かってくる他の団員は一発くらわせとけばいーんだろ?」

『……ほんとにそれだけでいいのかなぁ』

「いいんだよ。それより、早く団長に会いに行くぞ」

 セイジの宣言に、アンティークが一呼吸分ほど絶句した。

『え!? なんか言ってること矛盾してるよ? 制裁からは逃げるんでしょ?』

「俺がリストに載ったのは手違いだって言いにいくんだよ。まだ会ってもないのにさ。次の公演日までずっと命狙われながら過ごすのは嫌過ぎるぞ」

『団長さんがどこにいるか知ってるの?』

「……」

 セイジはあらぬ方を見て、声のトーンを上げる。

「ほ、ほら! このサーカス館のどこかにいることは間違いないんだし、館内を探してりゃ見つかるだろ! ……顔知らないけど……」

『……大丈夫かなぁ……』

 アンティークは完全にあきれた様子だった。セイジはごまかすようにその肩をたたいた。

「と、とにかく、手当たり次第団長を探しに行くぞ! な!」

 勢い込んで部屋を出る。幸い、廊下に人影はなかった。

 それでも充分に警戒しながらゆっくりと進んでいく。いくつか他の部屋の前を通りすぎていくと、フェンスの向こうに梯子が見えた。

「これを上ったところで袋叩き……とかな」

『でも、ここもやっぱりあぶないよ。狭いから逃げ場もないし』

「わかってるよ」

 そう言いつつ、セイジはじっと出口を見上げていた。

「……なあアンティーク、さっきのピエロだけど。あの顔……」

 正面に相対した瞬間を思い出し、眉根を寄せる。

「あれで素顔……だったよな?」

『ていうか、たぶんお化粧だよね。でも、まるで仮面みたいだった……』

 アンティークの感想もセイジと変わらないようだった。

 造作の整った、美しい、しかしぴくりとも表情の動かない顔。

 「味方です」と口が動いたことがいっそ不思議だった。

『セイジ。……行こう?』

 アンティークがなだめるように言った。セイジはこれ見よがしに「はーっ」とため息をついてから、もう一度梯子を見上げた。



         ++++++



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