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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第11章
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呪符 -2-


 セイジが部屋を出た後、しばらくは誰も、何も言わなかった。

 そんな中、口火を切ったのはアンティークだった。

『ねえ、カナちゃん。人形のカンって言っても信じられないかもしれないけど……』

 言ってどうなるものでもないが、それでもアンティークは言わずにいられなかった。慰めのつもりではない。それなりに確信はあった。

『あの猛獣士さん、炎のステージはカナちゃんが望んでやったことじゃないって、気付いてるよ』

 カナは腰の鞭に触れた。そして意外な答えを返してきた。

「かもね」

『え?』

「でも、たとえそうであっても、事実は消えることがない。ユエの望むように、もうお互い関わらなければいい」

『……そっか』

「って――思ってたんだけど……」

 カナは苦しげに目を閉じた。

『カナちゃん……?』

「ごめん。少しほっといて」

 それきりカナは黙り込んだ。

 アンティークは心の中で首をかしげたが、言われたとおりそっとしておくことにした。カナの表情は、見る限り、決して暗いばかりではなくなっている。

 だからアンティークは自分の問題を顧みる。

 今も――あの“言葉”は途絶えていない。


          ――今日、君のふたごの妹さんに会いました

         君のことをとても自慢げに話していました――


 最初は、少し若いけれどサトルによく似た声だな、と思った。しかしすぐに、それは誤りだと気づいた。

 “声”ではなく、それは“言葉”だった。

 なぜそう思うのか、そもそもなぜ、どこから、それは聞こえてくるのか――

 分からない。しかし他の誰にも聞こえていない風だから、ずっと黙っていた。セイジもカナも目の前のことで手一杯なのだ。

 ……いや。

 自分がそれを口実にして、事実を確かめずにいるのだと――本当はそれもわかっていた。

「おーい。戻ったぞ」

 時計の扉からセイジが顔を出した。サトルが起きあがろうとして、セイジがそれを止める。

「いいから寝てろよサトル。……あそこの売店、この時間だと食い物が来てないんだな。栄養剤くらいしか買えなかった……」

『でも飲み物はあったでしょ?』

「ああ、水はあったから買ってきた……けど……」

 ビニール袋を机に置いたセイジが、そこで不思議そうにアンティークを見た。

『? なあに?』

「いや、お前……」

「すみません、セイジ。水をいただけますか?」

 サトルが言った。セイジは慌てた様子でペットボトルをサトルに手渡すと、続けて手際よく世話を焼き始めた。

「こっちは痛み止めだ。あと、一応消毒くらいしといた方がいいだろ。替えの服とかはないのか?」

「そちらの棚です」

「それはもう脱いじまえよ。っと……カナ、お前はあっち向いてろ」

「……別に、慣れてるけど」

「少しは恥じらえっての」

 なんやかやと作業が一段落して。サトルが再び横になってから、ようやくセイジはアンティークを抱き上げてくれた。

「待たせたな」

『ううん』

「本当はそろそろ、お前の手入れもちゃんとしてやりたいんだけどなぁ」

 セイジの指が金の髪を梳く。アンティークは「嬉しい」という気をめいっぱい放出した。

『今は仕方ないよ。全部終わった後に、いっぱいして』

「ああ。……さて、念のためBBSのチェックでもするか?」

『またRさんが書き込んでくれてるかもしれないしね』

「俺の書き込みのレスがちょっと怖ぇけどな…」

『それは自業自得!』



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 ●「R」の助言~その3~ HN:R


  ユエ様は、あなたが5つの間をすべてまわるまでは

  姿を現さないかもしれません



 ●「R」さんへ HN:道化師志望


  よくわからないけど「セイジ」に手を貸そうとするのやめたら?

 こんなに長い間ピエロゲーム対象者が制裁を受けずに生きてるの初めてだから

 皆早く「セイジ」を殺そうと思ってるんですけど。

 所詮「セイジ」は対象者。

 手を貸してもどうせ誰かに殺されるよ?



 ●死神の化身 HN:†コッド†


 ここ2、3日、アオイがやたら館内をうろついてますよね……。

 彼はネクロフィリア(死体愛好家)らしいです。

 なんでも死体を集めてるとか……(怖

 死体を人形にする能力がある人がいるみたいで、

 アオイはその能力をほしがってました。。。

 人形にしてもなんか気持ち悪いですよね……。


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「……なあ、アンティーク。前にこれ見たときに思ったんだけどさ。あの変な書き込み……」

 セイジが画面を見たまま、目つきを鋭くした。

『ハンドルネーム“くま”さんの?』

「ユエが団長じゃないってやつな。あれ、俺が書き込みするのを待ちかまえてたんじゃないかって気がするんだけど……」

 セイジの手がキーボードに伸びる。アンティークは黙ってそれを見守った。

「どう思う? もう1度試してみる価値があるかどうか」

 アンティークは、ため息をついた。

『……わざわざ聞かなくても、やってみるつもりなんでしょ?』

「まあな」

 セイジは軽く笑った。



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 ●(No title) HN:セイジ


 「呪われた5つの札」というものについて、

 なにか知ってる人がいたら教えて下さい。

 それから…

 この掲示板では対象者も非対象者も

 関係なく情報交換できるのでは?

 「R」さんを批判するのはやめて下さい。


=======================================



『懲りないね、セイジ……』

「ちょっとは言葉とか気を遣ったぞ?」

『まず内容がね……まあ、セイジらしいけどね』

「――来た!」

 早くも「更新」のランプが光った。セイジが勢いよく身を乗り出した。



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