呪符 -1-
それは“絆”でもあり
そしてまた“鎖”でもある――
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時計の奥の自室に戻るなり、サトルは片膝をついて動けなくなってしまった。血で真っ赤に染まった道化服が見ていてかなり痛々しい。セイジはサトルの顔をのぞき込んだ。
「おいサトル、生きてるか?」
「はい……見た目ほど、傷は深くありませんよ」
声はずいぶんと弱々しいものの、言葉は意外にはっきりとしていた。セイジはほっと胸をなで下ろす。
「命までとる気は、なかったようですね。ですが……動き回れるほど体力がありません。すみませんが、次の『玩具の間』は、一緒に行くことができないと思います」
「傷はふさがってるんだよな?」
「なんとか。ただ……治癒というのは、自分にかけても効果が薄いので……」
『そっか……自分の気力を削るんだものね』
「わかった、お前はしばらく、ここで安静にしてろ」
セイジがもう一度サトルを支えようとすると、カナも反対側についてくれた。
「傷……痛む?」
「おや、珍しい。カナにまで心配されるとは」
「……全然余裕そうだね」
生彩のない軽口に、サトルはカナの肩をたたいた。
「あなたが気に病む必要はありませんよ」
サトルをベッドまで運ぶとすぐ、セイジは時計を確認した。
「もうすぐ朝だ……そろそろ団員用の売店が開くんじゃないか」
「……あそこはけっこう早くからやってる」
カナがうなずいた。セイジはポケットの所持金を確認する。ビデオテープの奥に、なんとか紙幣の1枚くらいは入っていた。
「じゃあ今のうちに、何か栄養のあるもんでも買ってくるか」
「待ちなよ。肩。あんただって怪我人でしょ」
「俺のは大したことないって。カナはサトルを診ててくれよ。……控え室の左端のドアでいいんだよな?」
「うん……」
「すぐ戻る。……悪いな、お前もちょっとここにいてくれるか」
セイジはアンティークを机に座らせ、即座に身をひるがえした。
誰かが何か言ったようだったが、聞こえなかったことにして、無人の控え室へ出た。
「……あれ? こういうのがスタンドプレーっていうのか、ひょっとして?」
扉を閉めたところで、ふとそんなことを思った。しかし、立ち止まって悩むのは時間がもったいない。
なので、控え室を横切りながらもう少しだけ悩み――
売店の入口手前で、あきらめた。もう悩むのは後にしようと決めて、勢いよくドアを開く。
「……お」
「え~? そこをなんとかまけてちょーだいよ、ねぇー」
「無理です。お金がないならお引き取り下さい」
売店には先客がいた。何やら会計の窓口でごねながらふりふりとワタのようなしっぽを振っている。セイジはあぜんとした。
「……ああ。この前のバニーか?」
「え? あ! あなたは『セイジ』くんだねっ?」
顔だけこちらに向けた露出度高めのバニーは、かわいらしくぺろりと舌を出した。
「私はバニーのラア! ちょっととりこんでるけどゴメンしてねっ!」
「あ、あれ? 名前ルウじゃなかったか?」
「ルウは私の双子の妹だよっ」
「姉妹そろって常にその格好か!」
ついノリで突っ込んでから、セイジは慌てて頭を振った。
「悪い、急いでるんだ。時間かかりそうならこっち先にしてくれないかな」
「えーだって、ずっと入荷待ってた限定品が……」
「金が足りないとか言ったか?」
「うん。20エン」
「…! あーもう、それくらいなら俺が払ってやるから!」
「え、ウッソ! 本当に!?」
バニーのラアはキラキラと目を輝かせた。セイジから硬貨を受け取り、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。姉の方はちゃんと“ウサギ”だった。
「わぁいやった☆ それじゃあお礼にいいものあげちゃおっかな!」
「……うえ!?」
ウサギのラアは、いきなり自分の胸元に手を突っ込んだ。思わずかあっと赤くなったセイジの前に、差しだされたものは。
「人を呪わば穴二つ……人を呪うなら、自分も呪い返しに遭う覚悟でいなさいということよ。でも裏をかえせば、覚悟が出来たのなら呪っていいぞ――と」
怪談調に声を低めながら、“それ”を、セイジの手にぽんと乗せる。
「呪い返しに遭う覚悟があるなら、使ってちょうだいね」
「……わら人形……だよな?」
「そ。拾ったやつだからあげる。んじゃ、ありがとね~☆」
ラアはしっぽをふりふり出ていった。
「……」
「……。お客様。何をお求めでしょうか」
気遣わしげな店員に、セイジは虚脱した笑顔を向けた。
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