紅の猛獣士 -6-
カナが見えなくなった後も、コウは長いこと、たたずんでいた。
不意に、ぽつりと独白する。
「手でも足でも、くれてやるのに……」
「お前は『記憶』――最初から決まっていたことだ」
無機質な声にふり返る。石の玉座の横には、いつの間にかアオイがいた。
コウは警戒して唸るグレンをなだめ、ため息をついた。
「スミマセン、今のは聞かなかったことに。……対応に関してはご満足いただけたデショ?」
「ああ」
「ついでにピエロも、しばらく使えなくしておきましたヨ。次は玩具の間へ行くらしいので。全員で行かれたら可哀想だし……」
「リアラには最初から何も期待していないとユエが言っていた」
「おーおー、厳しいお言葉」
コウは息を継ぎ、軽くアオイを睨んだ。
「お前それ、リアラちゃんの前で言うなよ?」
「リアラのことより――ユエが心配しているのは、お前だ、コウ」
唐突にアオイが言い出した。コウはきょとんとした。
「僕?」
「お前なら、あるいは……裏切るかもしれない、と――」
コウはそれを聞いた瞬間、可笑しげに、口元を歪めた。
「なんだ……あの人にも少しは危機感があるのか」
「……」
「それよりアオイ、何してるんデスカ?言っただろ、ピエロに傷負わせたって」
そろそろ薄らいできた記憶をたよりに、コウはアオイを皮肉った。
「チャンスなんだから早く行かないと。ちゃんと働いたらユエさんに……また気に入ってもらえマスヨ?」
「……そうだな」
身をひるがえしたアオイにひらひらと手を振って。
コウは小さくつぶやいた。
「いずれはあの死神が相手デスヨ、セイジさん。……どうぞ、ご武運を……」




