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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第10章
44/117

紅の猛獣士 -3-


 ライトの当たらないステージ上に、じっとたたずむ影があった。

 赤い髪と赤い瞳。

 全身に刺青を刺した精悍な雰囲気の青年は、ただひたすらに、客席を見つめていた。

「……おや? また珍しい人が来た」

 ふと口を開いた後に、青年は舞台袖へと視線を移す。

 仮面の小柄な女――ユエは、ちょうど姿を現したところだった。

「自分の館を歩くのがいけないことなのかしら?」

「イエ、どうぞお好きに。あなたの館ですカラ。……今はね」

「あなたこそこんなところで、何をしているの」

「……散歩カナ? じっとしていると色んなことを忘れてしまうんデスヨ」

「あらぁ。それは大変ねえ」

 ユエは低く笑った。青年もにっこりと笑い返した。

「あなたの『オモチャ』はどうしたんデスカ? 今日は一緒じゃないんデスネ」

「セイジくんの後を追わせているわ。なかなか働いてくれるわよ?」

「あんまり『オモチャ』で遊びすぎると、いつか壊れてしまいマスヨ?」

「形あるものはいずれ、壊れる運命だわ。壊れる前にカナちゃんの首を持ってきてもらえばいいの。……もし『オモチャ』が壊れてしまっても、あの娘の首は必ずあたしのモノになる運命だけどね……?」

「あらら。アオイも可哀想に」

「そんなことより、コウ。もう聞いたかしら?」

 なおくすくすと笑いながら、ユエは一歩ずつ、青年に歩み寄っていく。

「ピエロゲーム対象者のセイジくん…あたしを探して『5つの間』を回っているらしいの。ついさっき、あなたの『猛獣の間』に入ったわ?」

「あ、それはマズイ。グレンを置いてきたから、もしかして食い殺してるカモ」

「くれぐれも、まだ殺さないでね? 適当にあしらって、次へ行かせてちょうだい」

 不意に、コウは笑みを消した。

「『5つの間』を回らせることで……制裁内容と、自分が背負ってるモノの重さを気付かせるために?」

「あら」

 すっと、ユエのまとう空気が冷えた。

「生意気に……気づいていたのねえ」

「たぶん他の連中もネ。それと、もう1つ」

「なあに?」

「あまり首ばかりを夢中で追いかけまわしていると、気づけませんヨ?自分の手足がもげかかっていることに……」

「……どういうこと?」

「さぁ?」

「コウ。……悪いコね」

 突然ユエのローブの袖から、コウめがけて何本もの蔓が伸びた。

「お、……っと!」

 蔓はコウの手足を絡め取り、無理やり床に両手をつかせた。

 ユエは赤い髪を鷲づかみにして、息がかかるほど近く、顔を寄せる。

「あなたも首輪をつけて、鎖で繋いでおけば良かったわ」

 応えたのは――炎のような真紅のまなざし。

「あいにく僕は『猛獣』ですから。繋いだ鎖など引きちぎってしまいマスヨ」

「フフフ……そう?」

「っ……」

 コウはわずかに顔をしかめた。蔓が締まってきりきりと皮膚に食い込んでくる。

「あなたが恐れていいのはあたしだけ……そうでしょ? それはまだ忘れていないわね?」

「……あなたが忘れさせてくれませんカラ」

「まあいいわ……もう少しおしおきしてあげたいけど、今はやってもらうことがあるから」

 するりと蔓がしまわれ、コウは手首をさすりながら立ち上がった。

「ふう。……それじゃあ僕は、『猛獣の間』へ戻りマス。ユエさんも団長室へ戻られるのならお気をつけて」

「あら、ありがとう。そうね、たまにはエスコートしてもらおうかしら?」

「……僕が一緒にいたら余計に不用心でしょう?」

「ウフフ……残念ね」

 ユエの姿が先にかき消えた。コウも手と膝を軽く払い、何事もなかったかのように歩き出した。



         ++++++



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