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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第10章
43/117

紅の猛獣士 -2-


 ――気配が消えたことを確認したセイジは、その場にがくりと膝をついた。

「はぁっ、はぁ……っ!」

『セイジ! 大丈夫!? セイジ!!』

「アンティーク……今の、お前か?」

 呼吸を整えてからなんとか脚を立たせ、セイジはアンティークを拾い上げた。汚れを払ってやると、アンティークは泣きそうな気配で答えた。

『そう、そうだよ! 良かった……セイジが無事で!』

「お前そんなことできたっけ?」

『前はできなかった。でも、ヨシタカさんにもらった“ボレロ”から、力がわいてきたみたい!』

「――そうだ、カナは……」

 セイジはふらふらとカナに歩み寄った。カナに寄り添っていたサトルが立ち上がる。

「カナ……?」

「だいぶ落ち着いたところです。それよりセイジ、早く手当てを!」

「そうか……よかった……」

 ぐらりと傾いたセイジの身体を、サトルが受け止めた。

「肩、痛ぇ……」

「あなたという人は……」

「セイジ……怪我したの……?」

 岩にもたれてサトルの治療を受け始めたところへ、まだ青い顔のカナがおそるおそる寄ってきた。セイジは指先を振って笑って見せた。

「大したことないって。腕動くし。……泣くなよ、襲われたのはお前のせいじゃないから」

「泣いてない」

 ぐっと涙をこらえる表情で、カナは両手を握りしめた。

 それでも普段の調子には戻ったようで、セイジはほっと息を吐いた。

「あーだけど、これじゃ先が思いやられるな……この分だと目印はつけられねーし、1回戦っただけでこのありさまって……」

「――なぜ殺さなかったんです?」

 治療の手を休めることなく、サトルが言った。かなり厳しい口調だった。

「あなたほどの腕があれば、やろうと思えばできたはず。……獣といえど、生き物を殺すことには抵抗を感じますか?」

「当たり前だ。何も殺さなくてもいいだろ。なんとか方法を考えれば……」

「殺さなければ殺される――そういう場面もあります。多少の犠牲を覚悟しないと、生きてはいけませんよ」

「……じいちゃんとの約束なんだ」

 セイジはまっすぐに、サトルを見た。

「俺は――殺しだけは、絶対にやらない」

「自分の命を落としても、ですか」

「やらない」

「……」

「だけど、俺も死なない。そうならないように、考える。そのための頭だろ」

 サトルがセイジから手を離した。

 そして、長々とため息をついた。

「それなら……本当に、もっとよく考えてから動いて下さい。いつもスタンドプレーがすぎますよ」

「……え?」

「私もある程度は戦うことができます。敬老精神は不要です。しかしあなたが無鉄砲に飛び出した後では、手を出しづらい。いつもカナがあなたに合わせているのは、カナだからこそと理解して下さい」

「あれ、そうなのか? 悪い……」

 ごく素直に謝ったセイジを見て、サトルは、はっきりそうとわかるほど目を和ませた。

「もう動けますか」

「ああ。ありがとな。……ところで、1つだけ分かったことがあるんだ」

 セイジは体を起こし、そろそろと、倒れている金色の虎に近寄っていった。

『な、何してるの?』

「ちょっと爪を借りようかと」

 金虎の手を持ち上げたセイジは、肉球を押して爪を出させた。

 それを、自分の腕に当てる。

「っ!」

「ちょっと!?」

 爪はセイジの二の腕を薄く裂いた。


   ――すべて、知っているんだ


             何度もユエがつぶやいて   

       仮面の女            目に映る赤、朱、紅

              恐怖を 忘れさせ     

        地獄の先の地獄         炎

                           強靱な 記憶 を――



「セイジ、何をしてるんです!」

 サトルに手をつかまれた。――この様子では、サトルには聞こえなかったのだろう。

「やっぱりか……」

「何がですか」

「ここの想念は“痛み”の中にある。……それにしても……」

 ずいぶんと断片的な、虫食いのような想念だった。不確かで意味は取りづらい。

 ただ、赤いイメージだけが鮮烈で、ひどく不安になる。

「想念のカタチといい……一体どういう奴なんだ、コウってのは……」

 セイジは血の滲んだ腕を眺めながらつぶやいた。



         ++++++



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