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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第9章
40/117

記録 -3-


 休む間もなく『左脚の棟』工房を訪れたセイジ達を待っていたのは、汗だくになったゲンの満面の笑みだった。

「よお、来たかお前ら! 見ろこいつを!」

「お!」

 机の上には真新しい道具が並べられていた。ゲンはその1つ1つを手に取り、それぞれに渡していった。

「“クロウナイフ”、“メテオ”、“銀笛”だ。自分で言うのもなんだが最高の出来だぞ!」

「このナイフ軽いな! ちょっと刃のサイズが頼りない気もするけど……」

「試してみるか?」

 突如、ゲンがセイジの腰からサーベルを奪い斬りかかってきた。

 セイジが反射的にナイフを払うと――キンッと音を立て、サーベルはまっぷたつに切れて飛んだ。

「すっげ……ってか危ねーな!」

「はっはっは! 気をつけて使えよ!」

 カナが受け取ったのは、紐の両端に鞠のような玉飾りを結びつけたものだった。くるくると回してみてから、カナは少し不安そうにする。

「私これ、使ったことない」

「なあにすぐに慣れる。原型はジャグリングの道具だ。そう思って扱ってみな」

「ありがとうございます、ゲン。いい笛ですね」

 銀色の横笛を手にしたサトルが言うと、ゲンは満足げに胸を張った。

「おう! そいつは特にまじないの力を強くしてある。お前さん自身の力の補助にもなるはずだ」

 最後にゲンはアンティークを見た。

「さすがに、そっちの人形さんの武器は作れねえが……」

『うん、あたしはいらないよ。武器なんて持てないし』

「わりーなオッサン。本当に助かる」

「いいってことよ!」

「あと、ついでに1つ謝ってもいいか」

「あん?」

「オッサンがリストに載ってたこと、セイレーンにバラしちまった」

 セイジがまったく悪びれずに言ったので、ゲンは最初、ぽかんと口を開けた。

 次いで、スキンヘッドがみるみる赤く染まる。

「な、なにぃ!?」

「ごめん! でも口止めはされてなかったし!」

「そりゃ『言うな』とははっきり言わんかったかもしれないが……!」

『で、でもでも! 人魚さん、おじさんに会いに行きたがってたよ!』

 アンティークが大急ぎでフォローに入った。ゲンは意表をつかれたように、大きく目を見張った。

「本当か……!? セイレーンはオレを……許してくれたのか……!?」

「ああ。義足も受け取ってくれた。オッサンと同じ地面に立つ日も遠くねーよ」

「団長のことは……何か言ってなかったか?」

「何も。あなたが心配するようなことはありませんでしたよ」

 ゲンの顔には、徐々に泣き笑いのような表情が広がった。

「そうか……そうか……! 嬉しいじゃねぇか!」

「あんた達はもうちょっと、団……ユエに対して怒ったっていいと思うぞ、俺は」

 セイジは顔をしかめた。するとサトルが首を振る。

「5つの間の5人は、ユエを恨むことはできても裏切ることはできない。――そんな不思議な絆があるんでしょうね」

「そうかもしれねぇ。奴らにはオレらに理解できない何かがあるのかもな。でも……それでもセイレーンは、オレの自慢の娘にかわりねぇさ!!」

 すっかり清々しい様子になったゲンは、ばしばしとセイジの背をたたいた。

「ありがとな! お前も大変な時に」

「いいさ、成り行きだ……っておい、たたきすぎ!」

「さて、それじゃあオレはこれから一眠りさせてもらうぞ! 夕べは完徹だったからな! あっはっは!」

「あーちょっと待ってくれ!」

 セイジはそこで、少し声を落とした。

「オッサン、ハンディカムとか古いビデオデッキとか、何かそういうもん持ってないか? ……こいつを再生したいんだけど」

 ポケットからテープを出し、ゲンに見せる。ゲンは難しい顔をした。

「なんだ、年代物だな。あいにくその手の機器は持ってねーぞ」

「そうか……ここならあるかと思ったんだけどな」

「機械関係のスタッフは舞台があるときにしか呼んでねえんだ。悪いな」

 セイジは1つ、ゲンの背中をたたき返した。

「いや、こっちこそ悪い。気にしないでゆっくり寝てくれよ。俺達はもう退散するからさ」



         ++++++



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