記録 -3-
休む間もなく『左脚の棟』工房を訪れたセイジ達を待っていたのは、汗だくになったゲンの満面の笑みだった。
「よお、来たかお前ら! 見ろこいつを!」
「お!」
机の上には真新しい道具が並べられていた。ゲンはその1つ1つを手に取り、それぞれに渡していった。
「“クロウナイフ”、“メテオ”、“銀笛”だ。自分で言うのもなんだが最高の出来だぞ!」
「このナイフ軽いな! ちょっと刃のサイズが頼りない気もするけど……」
「試してみるか?」
突如、ゲンがセイジの腰からサーベルを奪い斬りかかってきた。
セイジが反射的にナイフを払うと――キンッと音を立て、サーベルはまっぷたつに切れて飛んだ。
「すっげ……ってか危ねーな!」
「はっはっは! 気をつけて使えよ!」
カナが受け取ったのは、紐の両端に鞠のような玉飾りを結びつけたものだった。くるくると回してみてから、カナは少し不安そうにする。
「私これ、使ったことない」
「なあにすぐに慣れる。原型はジャグリングの道具だ。そう思って扱ってみな」
「ありがとうございます、ゲン。いい笛ですね」
銀色の横笛を手にしたサトルが言うと、ゲンは満足げに胸を張った。
「おう! そいつは特にまじないの力を強くしてある。お前さん自身の力の補助にもなるはずだ」
最後にゲンはアンティークを見た。
「さすがに、そっちの人形さんの武器は作れねえが……」
『うん、あたしはいらないよ。武器なんて持てないし』
「わりーなオッサン。本当に助かる」
「いいってことよ!」
「あと、ついでに1つ謝ってもいいか」
「あん?」
「オッサンがリストに載ってたこと、セイレーンにバラしちまった」
セイジがまったく悪びれずに言ったので、ゲンは最初、ぽかんと口を開けた。
次いで、スキンヘッドがみるみる赤く染まる。
「な、なにぃ!?」
「ごめん! でも口止めはされてなかったし!」
「そりゃ『言うな』とははっきり言わんかったかもしれないが……!」
『で、でもでも! 人魚さん、おじさんに会いに行きたがってたよ!』
アンティークが大急ぎでフォローに入った。ゲンは意表をつかれたように、大きく目を見張った。
「本当か……!? セイレーンはオレを……許してくれたのか……!?」
「ああ。義足も受け取ってくれた。オッサンと同じ地面に立つ日も遠くねーよ」
「団長のことは……何か言ってなかったか?」
「何も。あなたが心配するようなことはありませんでしたよ」
ゲンの顔には、徐々に泣き笑いのような表情が広がった。
「そうか……そうか……! 嬉しいじゃねぇか!」
「あんた達はもうちょっと、団……ユエに対して怒ったっていいと思うぞ、俺は」
セイジは顔をしかめた。するとサトルが首を振る。
「5つの間の5人は、ユエを恨むことはできても裏切ることはできない。――そんな不思議な絆があるんでしょうね」
「そうかもしれねぇ。奴らにはオレらに理解できない何かがあるのかもな。でも……それでもセイレーンは、オレの自慢の娘にかわりねぇさ!!」
すっかり清々しい様子になったゲンは、ばしばしとセイジの背をたたいた。
「ありがとな! お前も大変な時に」
「いいさ、成り行きだ……っておい、たたきすぎ!」
「さて、それじゃあオレはこれから一眠りさせてもらうぞ! 夕べは完徹だったからな! あっはっは!」
「あーちょっと待ってくれ!」
セイジはそこで、少し声を落とした。
「オッサン、ハンディカムとか古いビデオデッキとか、何かそういうもん持ってないか? ……こいつを再生したいんだけど」
ポケットからテープを出し、ゲンに見せる。ゲンは難しい顔をした。
「なんだ、年代物だな。あいにくその手の機器は持ってねーぞ」
「そうか……ここならあるかと思ったんだけどな」
「機械関係のスタッフは舞台があるときにしか呼んでねえんだ。悪いな」
セイジは1つ、ゲンの背中をたたき返した。
「いや、こっちこそ悪い。気にしないでゆっくり寝てくれよ。俺達はもう退散するからさ」
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