ピエロゲーム -2-
「……3つ質問がある。まず1つ目――団長から受ける制裁ってなんだ?」
「団長は対象者の『最も辛いと思うこと』がお分かりになります。それが制裁内容です」
「抽象的だな……」
「あなたにとって『最も辛いと思うこと』は、あなたと団長しか分かりません。大抵の者は“死”であることが多いですけどね」
それはそうだろうと思う、が――
「今まで行ってきたゲーム対象者のほとんどが、制裁は死ぬことでした。要するに……過去ほとんどの者は生きていない、ということです」
「げ……っ!!」
くらくらする頭を手で押さえる。それでも、とにかく情報収集からだと気を取り直す。
「2つ目! もしお前の言っていることが本当なら、このサーカス館から脱出することは可能か?」
「無駄だと思います。ゲーム中、対象者はこの館から出られません」
「……まじない師か、団長は」
セイジはつぶやいた。“サーカス”とは、まじない師やら異能を持つ人間がこぞって集まるところだと聞く。ピエロを見ると、わずかに首を動かして肯定した。
「ですが安心して下さい。これはただの殺し合いではありません。ゲームには終わりがあります。次のサーカス公演日まで、あなたが制裁を受けずに無事生き延びていたらゲームは終了します」
「本当か!」
ゴールを示されたことで少しほっとした。しかしそれと同時に、唐突に疑念がわく。
そもそもこのピエロは本当に信用できるのだろうか。
すべてピエロ作り話、あるいはタチの悪い冗談ではないのか。
もしそうなら、どんなにか――
「ゲームなんざで同じ団員を殺そうとするなんて、信じられないけどな」
「残念ながら。ゲーム期間中は頭にある常識を捨てた方がいいです。殺されてからでは、誰にも文句は言えませんから」
セイジは強く頭を振った。現実感がない。わかっている……これは、逃避だ。
「あなたの制裁内容がどんなことかは分かりませんが、制裁を受けたら無事ではいられません。逃げ延びてください。…例えどんなことが起こっても」
ピエロの話は、もしかしたら嘘かもしれない。
しかし本当だった場合。
彼の言うように、死んでからでは後悔すらできない。
「そろそろ時間がありません。早くしないと他の団員達が殺気立ててここにやってきます」
「3つ目――」
セイジはすっと、指を前方へ向けた。
「お前……敵か? 味方か?」
「……私は――」
初めて、ピエロがセイジに向き直った。
セイジははっと息を呑んだ。
「味方です」
バタン!
「見つけた! 左手に人形を抱いた茶髪の男…お前が『セイジ』だな!」
派手な音を立てて開いた木の扉から、ぎらぎらと目を血走らせた男が現れる。シルクハットに燕尾服。出で立ちからしておそらくマジシャンだろう。
「おや、さっそくやってきましたね」
「! 目が怖ぇ!」
「団員達にはあなたの名前と特徴を知られています。気をつけることです」
ピエロのサトルは、すっと目を閉じた。
「では、健闘を祈ります」
『あっ』
アンティークが声を上げるより早く、サトルの姿がぶれた。
「消えた……!?」
『違う、姿を隠したんだ! まだこの部屋のどこかであたし達の様子を見てるんだよ』
「くっそ、なんだアイツ、味方だって言ったくせに……!!」
マジシャンが飛びかかってきた。セイジは横にステップしてそれをかわす。
と――アンティークの瞳に、青い光が灯った。
『あたしセイジが死んじゃうのはやだよ! 生き延びるためなら一緒に戦うよ?』
「そうするしかないようだな……!」
他に気を取られている場合ではない。セイジも腹を決めた。