記録 -1-
開け、パンドラの箱
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――おいカナ、何してるんだ
セイジはサーカス館の正面玄関の前にいた。
もうここから出られる。それはわかっているのに。
サトルはいない。アンティークも、いない。
カナだけが悲痛な面持ちでこちらを見ている。
――……だめだ、セイジ。見て、ホラ……
カナが、どんなときもはずそうとしなかった首の包帯をむしった。
首には一直線の赤い筋。
それはまるで、切断線のような――
――……私の首、とっくにとられちゃってたみたい
――……!!
――最初から……呪われてたんだ
――カナ!
――ばいばい
ごとんっ
音を立てて落ちたモノ。
受け入れることができずに、セイジは――
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「っ!!」
『わっ、何!?』
セイジは飛び起きた。心臓の鼓動が痛いほどだった。
とっさに目がカナを捜す。
カナは――部屋の隅に座って、驚いたようにセイジを見ていた。
「よか……った……」
一気に力が抜け、セイジは後ろに倒れ込んだ。
『ど、どうかしたの、セイジ』
「なんか……ひでー夢見た……」
『どんな夢?』
「……。あれ、忘れた……? なんかカナが出てきたような気がするけど……」
「勝手に人の夢見ないでよ」
「無茶言うな」
笑う余裕もなくため息をついたセイジに、サトルが気遣わしげな声をかけてきた。
「今日はこのまま休んでしまいますか? もうそろそろ夕方になりますが…」
「――夕方!?」
セイジはもう一度跳ね起きて、部屋の時計を確認した。針は眠る前から数えて10時間近くも進んでいた。思わず呆然としてしまう。
「嘘だろ……」
『本当、よく眠ってたよ』
「こうしちゃいられないな。悪い、すぐ準備する」
「わかりました。それでは、地下の“A”の部屋ですね」
カナも立ち上がった。――その腰に、クラブが3本あった。
「それ……1本増えてないか?」
カナはセイジを、次いでその指さした先を見た。
「これ? ……あんたが寝てる間に売店で買ってきた」
「1人でか?」
「だってすぐそこだし……」
「カナ」
猛烈な不安に駆られたセイジは、カナの肩をつかんだ。
「もうあんまり、1人で動かないでくれ」
「は? なんであんたにそんなこと――」
「頼むから」
つい力のこもった手を、カナが不審の表情で払った。それでも、セイジの本気は伝わったようだ。
「できるだけでいいなら……」
「セイジ。ちょうど控え室に誰もいないようです」
サトルが時計の裏の扉を開いた。セイジは自分の頬を軽くたたいた。
「よし……行こう」
不安感はまだ去らない。
それを無理やり押しのけて、セイジは扉をくぐった。
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