予兆 -3-
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●団長の居場所 HN:セイジ
なんでリストに載ったのかわからないけどピエロゲーム対象者になりました。
この掲示板も遠慮なく活用させてもらいます。
ところで団長の居場所を知ってる人いますか?
>Re:団長の居場所 HN:遼太郎
おい、対象者が書き込みしてるぞ!
誰か追跡して居場所特定しろよ!(笑)
>Re:団長の居場所 HN:ピエロゲーム好き
殺
>Re:団長の居場所 HN:あああ
対象者・セイジと、カナ、サトルが一緒に行動している模様。
目撃者多数。
一緒にヤっちゃっていいのかなあ?
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セイジはパソコンの前で激しく落ち込んでいた。
サトルの部屋に戻ってすぐ、件のBBSを確認したところ、手がかりどころか単に荒らしの的になっていただけだった。
「さ、さすがにへこむぞ、これ……」
『そうだね……』
「しっかし、俺はともかく……カナのこともけっこう書いてあるんだよな」
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●『炎のステージ』って? HN:ブロンドガール
先輩から聞いたんですが……
このサーカス団史上、最も印象に残るステージって言われてるそうですね。
2年前にあって、なんでも有りえないハプニングが起こったとか。
私は見てないんですが、見た人に聞いても詳しく教えてくれません。
気になって夜も眠れないのですが!
>Re:『炎のステージ』って? HN:らいおん
世の中には知らない方がいいこともありマスヨ。
>Re:『炎のステージ』って? HN:匿名希望
カナ死ネカナ死ネカナ死ネカナ死ネカナ死ネ
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「ちょっと、これはひどいよな。反論書き込んでおこうか」
『……また荒らすだけじゃない?』
「俺の気が済まないの!」
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●カナのこと HN:セイジ
あんまり他の団員達にはよく思われてないようで。
でもだからって陰険なことしてんじゃねーよ。
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『だからどうしてそういう書き方になるの! 逆効果だよ!』
「だって気に入らねーから」
『余計カナちゃんが攻撃されて、カナちゃんがそれを見ちゃったらどうするの!?』
「う! ……って、もう更新来たぞ」
『知らないからね!』
「ま、まあ、こんな即座にレスが来るとは限らないだろ……」
セイジは、一応カナが向こうを向いていることを確認し、どぎまぎしながら更新ボタンを押した。
「……ん? なんだこりゃ?」
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●団長について HN:くま
団長はサーカス団の創立者です。
ユエは
創立者ではありません。
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『“ユエ”って、今捜してる団長さんの名前……だよね?』
「けど……これってつまり、『ユエは団長じゃない』って言ってないか?」
『――あれ?』
ふっと画面が消えた。すぐに元に戻ったかと思えば、「団長について」の記事が消えている。
どうやら管理者権限による削除のようだった。
「なんだ今の。ヤバい書き込みだったってことか……?」
「どうしました。何か情報がありましたか」
2人が騒いでいたせいか、サトルが横からのぞき込んできた。セイジは口を開きかけたが、その前に、アンティークが声を上げた。
『セイジ、また更新だよ!』
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●「R」の助言~その2~ HN:R
「右腕の棟」にあるバーには
いつもお酒を飲んでいる“A”という小父さんがいます。
ユエ様をよく知っている人らしいので
一度訪ねてみてはどうでしょうか。
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「……この“A”という人物、心当たりがあります」
「本当か?」
「はい。何年か前まで、団長の側に仕えていた男です。今は地下に部屋を置いて、隠遁に近い生活をしていると聞きますが」
「団長の側近!?」
セイジのテンションは一気に上がった。が、サトルの次の言で、また冷めてしまう。
「あなたもすでに、一度会っていますよ。『巨人の間』へ入る直前に……」
「……って! あの酔っぱらいのことか!」
「そうです」
「まともに話なんかできなさそうだったぞ? 会ったところで何か聞けるのか……?」
「……酔っていないところをつかまえれば、あるいは」
セイジは唸った。敵多き身のため、できることなら無駄足のリスクは避けたい。
とはいえ、あっさり無視していい相手でもなさそうで――
しばし葛藤したあげく、セイジは大きくため息をついた。
「一眠りしてから……『猛獣の間』の前に会いに行ってみるか。何か知ってるのは確かだろうしな」
「そうですか。では、彼の私室の方を訪ねてみましょう。酒場で会うより多少はましなのではないかと」
「ああ」
「……ちょっと」
不意に後ろから襟首をつかまれ、セイジはのけぞった。
「うぉっ、なんだよカナ」
「医者に休めって言われたんでしょ。さっさと休めば」
「ちょ、おい、押すなって」
ぐいぐいと背中を押されてベッドに追いやられる。腰を下ろしてからカナを見上げると、仏頂面ながらわずかに頬が赤い。
「夕べは、ベッド取っちゃったから」
「は? 別に気にしなくていいのに。あれ決めたのアンティークなんだし」
「いいから! 私のせいで具合悪くしたとか思われたくないから!」
「……お前って……」
セイジは苦笑して、アンティークを枕元に座らせ、ごろりと横になった。
「サトル、借りるぞー……」
「どうぞ」
「……ん、どうしたアンティーク。さっきからサトルの方ばっかり……」
『えっ』
ぼうっとサトルに意識を向けていたアンティークが、明らかに動揺した。本気で自覚がなかったらしい。
「え、どうしたのお前。……まさかサトルに惚れたとか?」
『そういうわけじゃ……』
「あいつ下手すりゃ、70歳とか80歳とか……らしいぞ……?」
『あたしも人間でいったら、たぶんそれくらいだよ。セイジのお祖父さんともずっと一緒だったもの』
「ああそうか……じゃあぴったりかも、な……」
セイジは半分うとうとと言って、それきり沈黙した。
アンティークはそっとため息をついた。
――君の心が僕になくても 君の想いがどうか届きますように――
時折頭の中に響く、声。時が経つにつれ、少しずつ鮮明になってきている。
しかし、それがなんなのか、どこから聞こえてくるのか、まだ分からずにいる。
分からないうちは――現実を優先させるほかない。
『おやすみ、セイジ。いい夢を』
アンティークは囁いて、自分も意識を閉じた。




