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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第8章
37/117

予兆 -3-



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 ●団長の居場所 HN:セイジ                    


 なんでリストに載ったのかわからないけどピエロゲーム対象者になりました。

 この掲示板も遠慮なく活用させてもらいます。

 ところで団長の居場所を知ってる人いますか?



 >Re:団長の居場所 HN:遼太郎


  おい、対象者が書き込みしてるぞ!

  誰か追跡して居場所特定しろよ!(笑)



 >Re:団長の居場所 HN:ピエロゲーム好き


  殺



 >Re:団長の居場所 HN:あああ


  対象者・セイジと、カナ、サトルが一緒に行動している模様。

  目撃者多数。

  一緒にヤっちゃっていいのかなあ?


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 セイジはパソコンの前で激しく落ち込んでいた。

 サトルの部屋に戻ってすぐ、件のBBSを確認したところ、手がかりどころか単に荒らしの的になっていただけだった。

「さ、さすがにへこむぞ、これ……」

『そうだね……』

「しっかし、俺はともかく……カナのこともけっこう書いてあるんだよな」



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  ●『炎のステージ』って? HN:ブロンドガール


 先輩から聞いたんですが……

 このサーカス団史上、最も印象に残るステージって言われてるそうですね。

 2年前にあって、なんでも有りえないハプニングが起こったとか。

 私は見てないんですが、見た人に聞いても詳しく教えてくれません。

 気になって夜も眠れないのですが!



 >Re:『炎のステージ』って? HN:らいおん


  世の中には知らない方がいいこともありマスヨ。



 >Re:『炎のステージ』って? HN:匿名希望


  カナ死ネカナ死ネカナ死ネカナ死ネカナ死ネ


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「ちょっと、これはひどいよな。反論書き込んでおこうか」

『……また荒らすだけじゃない?』

「俺の気が済まないの!」



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 ●カナのこと HN:セイジ


 あんまり他の団員達にはよく思われてないようで。

 でもだからって陰険なことしてんじゃねーよ。


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『だからどうしてそういう書き方になるの! 逆効果だよ!』

「だって気に入らねーから」

『余計カナちゃんが攻撃されて、カナちゃんがそれを見ちゃったらどうするの!?』

「う! ……って、もう更新来たぞ」

『知らないからね!』

「ま、まあ、こんな即座にレスが来るとは限らないだろ……」

 セイジは、一応カナが向こうを向いていることを確認し、どぎまぎしながら更新ボタンを押した。

「……ん? なんだこりゃ?」



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 ●団長について HN:くま


 団長はサーカス団の創立者です。

 ユエは

 創立者ではありません。


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『“ユエ”って、今捜してる団長さんの名前……だよね?』

「けど……これってつまり、『ユエは団長じゃない』って言ってないか?」

『――あれ?』

 ふっと画面が消えた。すぐに元に戻ったかと思えば、「団長について」の記事が消えている。

 どうやら管理者権限による削除のようだった。

「なんだ今の。ヤバい書き込みだったってことか……?」

「どうしました。何か情報がありましたか」

 2人が騒いでいたせいか、サトルが横からのぞき込んできた。セイジは口を開きかけたが、その前に、アンティークが声を上げた。

『セイジ、また更新だよ!』



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 ●「R」の助言~その2~ HN:R


 「右腕の棟」にあるバーには

 いつもお酒を飲んでいる“A”という小父さんがいます。

 ユエ様をよく知っている人らしいので

 一度訪ねてみてはどうでしょうか。


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「……この“A”という人物、心当たりがあります」

「本当か?」

「はい。何年か前まで、団長の側に仕えていた男です。今は地下に部屋を置いて、隠遁に近い生活をしていると聞きますが」

「団長の側近!?」

 セイジのテンションは一気に上がった。が、サトルの次の言で、また冷めてしまう。

「あなたもすでに、一度会っていますよ。『巨人の間』へ入る直前に……」

「……って! あの酔っぱらいのことか!」

「そうです」

「まともに話なんかできなさそうだったぞ? 会ったところで何か聞けるのか……?」

「……酔っていないところをつかまえれば、あるいは」

 セイジは唸った。敵多き身のため、できることなら無駄足のリスクは避けたい。

 とはいえ、あっさり無視していい相手でもなさそうで――

 しばし葛藤したあげく、セイジは大きくため息をついた。

「一眠りしてから……『猛獣の間』の前に会いに行ってみるか。何か知ってるのは確かだろうしな」

「そうですか。では、彼の私室の方を訪ねてみましょう。酒場で会うより多少はましなのではないかと」

「ああ」

「……ちょっと」

 不意に後ろから襟首をつかまれ、セイジはのけぞった。

「うぉっ、なんだよカナ」

「医者に休めって言われたんでしょ。さっさと休めば」

「ちょ、おい、押すなって」

 ぐいぐいと背中を押されてベッドに追いやられる。腰を下ろしてからカナを見上げると、仏頂面ながらわずかに頬が赤い。

「夕べは、ベッド取っちゃったから」

「は? 別に気にしなくていいのに。あれ決めたのアンティークなんだし」

「いいから! 私のせいで具合悪くしたとか思われたくないから!」

「……お前って……」

 セイジは苦笑して、アンティークを枕元に座らせ、ごろりと横になった。

「サトル、借りるぞー……」

「どうぞ」

「……ん、どうしたアンティーク。さっきからサトルの方ばっかり……」

『えっ』

 ぼうっとサトルに意識を向けていたアンティークが、明らかに動揺した。本気で自覚がなかったらしい。

「え、どうしたのお前。……まさかサトルに惚れたとか?」

『そういうわけじゃ……』

「あいつ下手すりゃ、70歳とか80歳とか……らしいぞ……?」

『あたしも人間でいったら、たぶんそれくらいだよ。セイジのお祖父さんともずっと一緒だったもの』

「ああそうか……じゃあぴったりかも、な……」

 セイジは半分うとうとと言って、それきり沈黙した。

 アンティークはそっとため息をついた。



      ――君の心が僕になくても 君の想いがどうか届きますように――



 時折頭の中に響く、声。時が経つにつれ、少しずつ鮮明になってきている。

 しかし、それがなんなのか、どこから聞こえてくるのか、まだ分からずにいる。

 分からないうちは――現実を優先させるほかない。

『おやすみ、セイジ。いい夢を』

 アンティークは囁いて、自分も意識を閉じた。



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