表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第8章
36/117

予兆 -2-


「すっかり忘れてた……ホームページのBBS、あれからどうなったかな」

『団長さんの居場所について質問を書き込んだんだっけ』

「そこのやつは、使ったら迷惑だろうなぁ」

「パソコンで調べものですか?」

「オッサンのとこには確か、パソコンなかったな。……よし、決めた。一度サトルの部屋に戻ろう」

 ちょうどそこで、カナがシャワー室から出てきた。

「……嬢ちゃん、ユエ様の娘さんか?」

 医師が声をかけた。カナは医師を睨みつけた。

「だから何」

「ふはは! 気が強いのはいいことじゃな! さすが、と言うべきか……」

「ドクター、あんまカナをからかわないでくれよ」

 セイジが口をはさむと、医師は何やら複雑そうな顔になった。

「そりゃすまんな。いや……これをな、渡してもいいもんかと思ってな……」

 言いながら机の引き出しから何かを取り出す。

 瞬間、カナが息を呑んだ。

「それ……!」

「もうずいぶんと前に預かってな。あいつはここの常連じゃからなあ」

「なんだそれ。……鞭?」

 長い紐状の鞭だった。かなり使い込んであるようで、グリップがすり切れている。

「もし機会があれば、嬢ちゃんに渡してくれと頼まれとった。運試しなんだと。本人が今も、それを覚えてるかどうかわからんが……」

 カナは震える手を伸ばし、一度ためらってから、それを手に取った。医師は重々しくうなずいた。

「何かいわくつきのものかな」

『そうみたいね』

「……『セイジ』。お前さん、ユエ様に会おうとしているそうじゃな」

 医師は、今度はセイジを見た。

「ユエ様は恐ろしい方よ。それにあのお方は、不死の身体だという話だ」

「“不死”って……死なないってことか? 本当に?」

「あまり大きな声じゃ言えんが、不死身なんてのは禁忌を犯した証拠じゃな。お前さんが相手にしようとしているのはそういう方だ。心してかかるがいい」

 ナースが乾いたセイジの服を持ってきた。それを受け取ってから、セイジは医師を見返した。

「団長がとんでもない奴だってのは、だんだん分かってきたとこだ。でもそんなことは関係ねーだろ。こっちも引くわけにいかないんだ」

「……若いってのはうらやましいのう」

「そりゃどうも」

 セイジはにっと笑って見せ、カナに目をやった。

「着替えたらここ出るぞ。……大丈夫だよな?」

「……。平気」

 カナはきっと顔を上げた。その声音はしっかりとしていた。

 ほっとしたアンティークは、なんとはなし、サトルに意識を向けた。

 サトルと、目が合う。



        ――辛いことがあったら、いつでも言ってください

           僕は君を笑わせるために存在している――



『……え?』

 アンティークは耳を、目を疑った。

『サトルさん、今何か言った?』

「? いいえ」

 確かにサトルの声だと思ったのだ。しかも――ほんの一瞬だけ、サトルが笑ったように見えた。

「アンティーク? ……人形にも空耳ってあるのか?」

『わかんない。こんなこと初めてだよ』

「お前も疲れてるんじゃないか?昨日から立て続けに力使ってもらったし」

『……そうなのかな……』

「ではともかく、私の部屋へ戻りましょうか」

 サトルが言った。

 その表情は、いつもの仮面のようなものでしかなかった。



         ++++++



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ