人魚の呪歌 -5-
セイレーンは水槽の縁に腰かけた。久々に重力というものを身体が思い出す。
自分が“人間”であることも、今思い出したような気がした。
くすりと自嘲気味に笑い――
セイレーンは、歌うように言った。
「……セイジならもう行ったわよ」
再び扉が開き、姿を現したのは、アオイだった。
「次はどこへ行った?」
「『猛獣の間』へ行くと言ってたわ」
「そうか」
「……ねぇ、私の両脚、あなたどこへ持っていったの?」
セイレーンはアオイを見やった。アオイは無感動に、口だけを動かす。
「ユエに渡した」
「やっぱり……そうだったのね。他の4人も『とられた』んでしょう?」
「コウはまだ、すべてをとりきれていない」
「そう。でももう時間の問題ね。10年前のあの時、ユエの計画は始まってしまったのだから……」
アオイはうなずいた。
「すべてがユエの思い通りにいく。ユエの望むとおりになる」
「……アオイ。もしかして、あなたが『とられた』ものって……」
セイレーンは言いかけ――
やめた。代わりに悲しい顔でつぶやいた。
「……あなたも可哀想な人なのね」
とりたてて何の反応も見せず、アオイはきびすを返した。
「『アオイ』はユエのためなら何でもする。何でもできる。たとえ誰に恨まれようと……ユエの邪魔はさせない」
アオイも行った。
残されたセイレーンは、ぎゅっと、義足を抱きしめた。
「私はもう、恨まない。もう誰かを恨むのは嫌……」
決意の言葉が、窟の壁にわずかに反響した。




