ピエロゲーム -1-
さあ、ゲームを始めよう
ここから始まるピエロゲーム――
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気がつくと殺風景な場所にいた。
薄暗いランプの下、雑多に布やら木箱やらが転がっている。セイジはとっさに腕の中を、アンティークの無事を確認した。
『大丈夫、ちゃんといるよ、セイジ』
「ああ。……ここはどこだ?」
『地下室みたいだね』
「あれ? 俺、さっきまで控え室にいたよな?」
『うん。さっき大きな警報が鳴らなかった?』
「一体何が起こったんだ?」
「あれはピエロゲーム開始の合図ですよ」
セイジはぎょっとした。他の人間がいることに気づかなかった。
彼は粗末な木の机に向かい、こちらへは背中を見せている。長身にも関わらず気配の薄い――道化服の男。
「誰だ……? お前」
「初めまして……セイジ。私はサトルといいます。見ての通り、このサーカス団のピエロの1人です」
彼は首だけ動かして、仮面の横顔を向けた。いかにもピエロらしい派手な彩りの仮面だ。
「あなたはこの部屋からゲームスタートです。普段から人の少ない場所ですから、相当に運が良かったですね」
「はあ?」
「これはルールですから、ゲームが開始されれば飛ばされるんですよ。どんな遊びもすぐに終わるようではつまらない……」
「ま、待ってくれ……ゲームとかルールとか何の話だよ?」
セイジがさえぎると、ピエロはセイジの前に1枚の紙を掲げて見せた。
『ピエロリストNo.44「セイジ」様へ
あなたは罪を犯しました。あなたに残された道は3つ。
制裁を受けるか、他の団員に殺されるか、逃げ延びるか――です。
では、ご健闘を祈ります―― 団長』
「な……なんだよそれ!」
「時間がないので手短に説明しますが、今後のあなたの運命を決める話です。心してよく聞いて下さい」
ピエロの口調は真摯だった。セイジは、いろいろと言いたいことはあったが、ひとまず黙ってうなずいた。ピエロはうなずき返した。
「まず、今このサーカス館の中でゲームが始まりました」
「ゲーム?」
「はい。『ピエロゲーム』と呼んでいます。世間には知られてませんが、昔からこのサーカス団が行っているゲームです。団長にとって不都合なことをした者は『ピエロリスト』と呼ばれるリストに載るようになっています。そのリストに載った者がこのゲームのターゲットです」
「……」
「リストに載った者は団長が制裁を与えにきます。要するに罰ですね。ちなみに、もし制裁から逃げようとした場合――」
ピエロは一度、言葉を切った。
「他の団員達はそのリスト対象者を、殺してもいいことになっています」
「こ……っ」
セイジの思考は、一瞬、停止した。
「団長から制裁を受けるか、他の団員達に殺されるか、どちらからも逃げ切るか――というゲームです。命に関わる“鬼ごっこ”のようなものですよ」
「な、なんだそれ!?俺がそのリストに載っているのか?」
「正確にいえばたった今、載りました。さっきの警報はあなたをターゲットとするゲームの始まりの合図なのです」
『そんな!』
アンティークが細く叫んだ。セイジも思わず声を荒らげる。
「なんで俺がそんな訳の分からないリストに載るんだよ!?俺は昨日このサーカス団に入団したとこでまだ団長にも会ってないぞ!?」
「時には例外もあるかもしれませんね」
「例外?冗談じゃねぇ!」
「ゲームについて何か質問はありますか?」
ピエロはあくまで淡々と語る。セイジはこみ上げる怒りを呑みこみ、大きく息を吸って、吐いた。